卵子凍結より複雑、精子凍結と精子バンクの現状とリスク

ヘルス&ビューティ

清水なほみ

 

卵子凍結を行う場合、病気の治療などで卵巣機能を失ってしまう前に凍結しておく「医学的理由」による凍結と、加齢による卵子の劣化に対して保険をかける意味で若いうちに卵子を凍結しておく「社会的理由」による凍結があります。

 

 

■卵子は加齢で劣化するけど、精子は…?

 

一方、同じ凍結保存でも、精子凍結は「医学的理由」でしか行われません。つまり、精巣腫瘍や白血病などの治療により、その後の精子を作る機能に影響が出ると予測された場合に、治療開始前に精子を採取して凍結保存しておくというケースです。

 

「年齢によって精子の劣化が起きるかもしれないから」という理由で20代のうちに精子を凍結保存しておく、というパターンはありません。なぜなら、精子は3日に1回新しく作り替えられているため、わざわざ若いうちに精子を凍結しておかなくても3日待てば新しい精子が作られてくるわけです。

 

それに対して卵子は、生まれた時から女性の体内にあり、その後は新しく作り替えられることなく数も減っていく一方ですから、卵子の質は年齢とともに劣化していきます。そのため、ある程度の年齢のうちに、つまり“劣化が進まないうちに”凍結保存しておくメリットが出てきます。

 

 

■「精子凍結」と「精子提供」は、どう違う?

 

医学的理由による精子凍結は、本人が子どもを望んだ時にその精子を使って生殖補助医療を行う、つまり配偶者間での生殖補助医療を目的としたものです。

 

それに対して、非配偶者間で生殖補助医療を行うために、パートナー以外の精子を用いる場合を「精子提供」と言います。精子提供は誰でも受けられるわけではなく、厚生労働省の「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」の中では、精子提供を受けられるのは「子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る」としています。

 

精子提供は、夫が乏精子症や無精子症であり、精子提供以外の方法で妊娠することができない場合にのみ、選択肢に挙げられるものです。日本産科婦人科学会の倫理委員会でも、「提供精子を用いた人工授精に関する見解」の中で、精子提供を行う場合の条件等について細かく定められています。

 

精子提供で妊娠した場合、精子の提供者が知らされない、つまり、生まれてきた子どもの「出自を知る権利」を守ることができないということが大きな問題になってきます。また、同じ提供者から多数の子どもが生まれると、本人たちが気づかないうちに近親婚となってしまうリスクが発生するため、同一提供者からの出生児の数に制限が設けられています。

 

 

■日本と海外で大きく違う、「精子提供」の考え方

 

海外では、上記の条件以外、例えば未婚女性が1人で妊娠したい場合や、女性同士のカップルが子どもを希望した場合などに精子提供を受けるためのシステムもあり、一般的には「精子バンク」と呼ばれています。精子バンクに提供されている精子は、提供者の情報が細かく分かるようになっていますから、IQや容姿など好みの精子提供者を選ぶことができますが、精子提供を受けるための費用がかかります。

 

日本では、精子提供を営利目的で行ってはいけないということが前述の文書の中でも明記されており、理論上は「精子バンク」は存在しません。ただし、法整備が進んでいないこともあり、個人または医学的に不確実な任意団体が「精子バンク」をうたって精子を提供しているという現実があります。

 

 

■「精子バンク」には感染症リスクも…?

 

海外の精子バンクとは異なり、感染症や遺伝性疾患の有無についても確認できていない精子を提供される可能性が大きいですし、医療機関を介することができないので、それらの精子を使って人工授精や体外受精などの生殖補助医療を受けることができません。感染症リスクを考えると、国内の「精子バンク」は利用しない方がよいでしょう。

 

国内でも、同性間の婚姻が認められるようになれば、女性同士のカップルが子どもを持つ方法として、精子提供を受けられる条件の拡大が求められることになります。ただ、未婚女性に対する精子提供が認められる可能性はまだ低く、「夫はいらないけれど子どもは欲しい」場合は、海外の精子バンクを利用したり、国内で「自力で」精子提供者を見つけるしかないのが現状です。

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清水なほみ

女性医療ネットワーク発起人・NPO法人ティーンズサポート理事長。日本産婦人科学会専門医で、現在はポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。女性医療の先駆者の下、最先端の性差医療を学び、「全ての女性...

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