「じゃあ産まなきゃよかったじゃん」の残酷さ

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平田志帆

「じゃあ産まなきゃよかったじゃん」の残酷さ

子育てに悩む母親に、よくこんな“正論”がぶつけられます。

 

「望んで産んだんでしょ。嫌なら産まなきゃよかったのに」

 

確かに母親たちは、強制的に連行されて種づけされたわけではありません。自分の意志でセックスして産んだのは事実です。

 

でも世の母親全員が、心の底から子どもを渇望していたわけではないのも事実。「妊娠したら産みたいけど、授からなくても不妊治療まではしない」くらいの人、多いと思います。私もそうでした。だから何年にもわたって綿密に子育てのシミュレーションをしているわけでもなく、せいぜい妊娠中にマタニティ雑誌や先輩ママから情報収集をするくらい。

 

でも今まで一度も赤ちゃんや子どもと暮らしたことのない人が、付け焼刃で仕入れた知識なんてたかが知れてます。理屈と数字ですべてが処理される社会と、自然のままの乳幼児はそもそも相容れない存在。いざ産まれてみてたら思い通りにいかないことばかりで、心が折れそうになるのも当然です。

 

それに、妊娠は自分が望んだタイミングでできるとは限りません。「貯蓄額は充分。仕事のスケジュール調整もバッチリ。近日中に妊娠すれば、来年5月には出産できる」と計算しても、あっけなく一週間後に生理が来ることもあるでしょう。そういえばある産科医が「仕事の都合でどうしても今月中に妊娠したい」という患者がたまに来る、と新聞のコラムで嘆いていました。プロでさえ、コントロールできないのです。

 

低用量ピルの避妊率は99%、コンドームの避妊率は90%と、「今は妊娠したくない」という選択はほぼ確実にできます。でも「今すぐに妊娠したい」という希望は、かなえられる保証がありません。だから、思いがけないタイミングで妊娠・出産し、戸惑う母親もいます。

 

 

私の妊娠も、予想外のタイミングでした。妊娠が発覚したのは、満を持して転職活動を始めたわずか一週間後。新天地でキャリアを積むという夢はあっさり終了しました。今でもたまに思うことがあります。「出産前に、もっと経験を積みたかったな……」と。

 

確かに子どもは、私たち夫婦が望んだこと。でも、理想のタイミングではありませんでした。だからときには、子どもを産んで失ったものを数えて落ち込んだり、さらにそんな自分が嫌になったり。こんな状態のときに「じゃあ産まなきゃよかったじゃん」とか言われたら、そりゃ凹みます。

 

理想と現実のギャップに悩むのはよくあること。子どものときからCAになりたくてなったのに、わずか数年で辞めてしまう人もいます。同様に、望んで母親になったのに、つらくてつらくて嫌になってしまう人もいます。仕事なら、退職や転職という逃げ道があります。でも、母親業には退路がありません。だから、なんとか折り合いをつけてがんばらなきゃいけない。

 

その手段のひとつが、つらさや大変さを言葉にして外に出すこと。ハタから見れば弱音や愚痴でしかないかもしれません。でも本人たちにとっては、悩みを消化するために絞り出した声なのです。

 

「お前が望んだことだろ」と切り捨てる前に、母親にどんなバックグラウンドや葛藤があるのかを、少しでも考えてくれたら嬉しいです。

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平田志帆

1978年生まれ。一児の母。正社員、派遣社員、契約社員、パート、日雇いアルバイト、フリーランス、独身貴族、専業主婦、DINKs、産休・育休、ワーキングマザーと、あらゆる働き方と生き方を経験。 33歳の時、勤めてい...

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