市川海老蔵は、愛に溢れる芸に真摯な「スーパーヒーロー」なのか?

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宗像陽子

写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 

歌舞伎座7月大歌舞伎は、チケットは夜の部は早くも完売。昼の部の完売も近いとされています。

 

昼夜ともにほぼ全ての演目で主役を演じるのは、第十一代・市川海老蔵。

 

昼の部では世話物「加賀鳶」で火消しの親分と悪人・道元役、その次の「連獅子」では、勇壮で華やかな舞踊を。夜の部では通し狂言で「駄右衛門花御所異聞」で主役の日本駄右衛門。息子の勸玄くんを右手に抱き、宙乗りをするフィナーレには、観客はただただ拍手と涙。。

 

6月22日にこの世を去った小林麻央さんの夫である市川海老蔵さん。そもそも歌舞伎俳優市川海老蔵って、どんな役者なのでしょう?

 


■海老蔵は「名家の当主」。将来は歌舞伎界を背負う立場に?

 

市川海老蔵は、市川宗家当主です。歌舞伎界の中には、たくさんの「家」がありますが、宗家というのはその中でも中心となる別格の家柄です。江戸歌舞伎のシンボルでもある「荒事」を創始し、継承し、発展させたお家柄なのです。第十一代市川海老蔵は、お家の中だけではなく、歌舞伎界でも「ど真ん中」にいる人物であり、将来の歌舞伎界をしょって立つ人と言っていいでしょう。

 

妻の麻央さんが亡くなるまで献身的に支え、6月22日に麻央さんを亡くしてからは失意のどん底にあること。今は残された子どもたちのことを第一に考え、日々悩み、涙にくれ、しかし一度舞台に上がれば一心不乱に芝居に精進し、家に帰ってまた涙にくれる。そんな様子が逐一ブログに綴られています。

 

記者会見での真摯な態度。ブログで「まお、あいたいよ」と弱音を吐きつつも、涙をぬぐい、日々舞台を立派にこなしている姿にグッときた。そんな人も多いのではないでしょうか。

 

では、海老蔵は「家族愛にあふれ、真摯に芸に精進するスーパーヒーロー」なのでしょうか。

 


■「歌舞伎通」から見た市川海老蔵は…

 

歌舞伎通に聞けば「海老蔵はまだまだ芸ができていない」という人もいます。「芸の軽さはアイドルのよう」という専門家もいました。一方で、「歌舞伎は、二種類に分けられる。海老蔵が出ているか出ていないかだ」という人もいます。「目力すごい!」「舞台に海老蔵が出てくるとパッと華やかになる」「オーラが違う」という人もいます。

 

一体全体、海老蔵の歌舞伎での実力はどうなの? という問いに対して、ひとつの答えを出すことはむずかしいと思います。大変な集客力があり、海老蔵が歌舞伎座に出るときはチケットも完売になると言われていますが、それが故に「実力が人気に追いついていない」などと揶揄されることもあるよう。

 

では、「海老蔵は若い頃から芸に真摯に向かい、人に対しては謙虚で愛のある人」だったのかという観点から見てみれば、そうだとは言いづらいのです。

 

若い頃の、数々の女性との浮名、隠し子騒動、風呂場で転倒して歌舞伎公演降板(2007年)、結婚後も六本木での暴行事件(2010年)による無期限自粛など、とかくお騒がせなニュースも多く、そんな日頃の行状から「しっかりしてくれねば!」という古くからの歌舞伎ファンの苦々しい気持ちもありました。

 

しかし、2011年に長女の麗禾ちゃん、2013年に長男の勸玄君が生まれたあとは、家庭や自身の健康を大切にし、歌舞伎に対する姿勢も徐々に変わりつつあります。父十二代團十郎が2013年に亡くなったことも彼にとっては転機だったでしょう。

 

お家の芸で今は上演されなくなっている演目の復活上演に意欲を見せたり、新しい演出で作品に輝きを与えたり「市川海老蔵 古典への誘い」を企画し、全国の会場を回り、歌舞伎普及のために積極的に活動をしています。元来器用な方ではなく、なんでもこなす天才型とは違いますが、ひとつひとつ丁寧に役作りをしていくことで、輝きを増していくタイプなのです。

 


■海老蔵は「スーパーヒーロー」になれるか?

 

今後は市川宗家のみならず歌舞伎界をますます盛り上げるために、勸玄君やお家の人々とともに必死に精進をしてくれるのではないでしょうか。もともとやんちゃな性格だった海老蔵が、次第に人間的に成長をしていく姿を、我々は今まさに目の当たりにしているわけであり、そこにまた人気の秘密があるとも言えそうです。それがまた歌舞伎の魅力でもあります。

 

ところでみなさんは、市川海老蔵をどこで見たことがありますか?記者会見での様子?大河ドラマなどの放映で?コマーシャル?雑誌やネットでの写真?意外と歌舞伎の舞台で見たことがある人は少ないのではないでしょうか。

 

「今、海老蔵の芝居の実力はどうなのか?」

 

その質問の答えは、ぜひみなさんがその目で確かめてみて欲しいのです。身長は176センチだそうですから、特別大きくはありませんが、舞台ではひときわ大きく感じられます。特徴的な大きな眼でカッと睨んで見得を切れば、万雷の拍手は容易に鳴り止みません。その空間に、みなさんにも身を置いて欲しいのです。

 

麻央さんを亡くし、傷ついている海老蔵にエールを送りたいと思っている人も、すべきことは同じです。なすべきことの答えは、歌舞伎俳優として海老蔵さんとは夫婦役で何度も共演をしている片岡孝太郎さんがそのブログで教えてくれています。

 

 

「役者が、一番喜ぶ、励みになるものは何か読者の皆さんご存知ですか?お悔やむでも、涙でもありません。“拍手”です。皆さんが彼女の事、成田屋さんの事を思って下さるのであれば、劇場でいっぱいいっぱいの拍手を。その場に見える役者だけでなく、彼女や、子供達にも送ってあげてください」

 

 

ぜひ、舞台での海老蔵を観て、拍手を送り、本当のスーパーヒーローになっていく過程を見届けようではありませんか。それこそが、全ての人の望んでいることなのです。


 

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宗像陽子

All About 歌舞伎ガイド。初心者でも歌舞伎に気軽に親しめる記事を執筆。毎月演目を解説して一幕見を観る歌舞伎初心者向けツアーを開催。子育てサイト「ココフル♪」(http://www.cocoful.jp/)編集長。フリーランスラ...

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