大人にこそ観てほしい「変身」と「魔法」の物語 『メアリと魔女の花』米林監督インタビュー(後編)

コラム

citrus 編集部

 

『メアリと魔女の花』(2017年7月8日公開)を手掛けた米林宏昌監督は3年前、スタジオジブリの制作部門休止にともなってジブリを退社し、翌15年スタジオポノックで新作にとりかかる。

 

「ジブリの肩書きを捨てる」とはどういうことか。インタビュー後編、米林監督は「一本独鈷」の苦労や力を貸してくれた仲間への思いを語った。

 

(前編)ジブリの「魔法」がなくなっても進めるか 『メアリと魔女の花』米林監督インタビュー

 

 

■「人が集まってくれることは当たり前ではない」

 

──ジブリの肩書きを捨て、新しいスタジオを立ち上げる苦労とは、どのようなものですか。

 

ジブリには、宮崎監督のために集まった優秀なスタッフがいます。そこから制作をスタートできることの幸せさを、今回改めて感じました。スタジオを立ち上げる際は、スタッフに声をかけるところから始めなければなりません。これは本当に大変で、「人が集まってくれることは当たり前ではない」と何度も思いました。作品の制作がどんどん遅れていきました。

 

それでも、ジブリからほかの制作会社に移った人が、仕事が終わってから駆けつけてくれたり、こちらの仕事を並行してやってくれたりしました。ジブリ以外から集まってくれた人もたくさんいます。洗練されていなくても、荒々しくてもいいので、今回はとにかくエネルギッシュな作品にしたかった。でも、みんなの頑張りで高いクオリティで描くことができ、感謝しています。その点で、今回はジブリではやっていなかったことも、面白いと感じた手法はどんどん作品に取り込んでいきました。

 

 

──もし、ジブリに留まって3作目を作っていたら、違う内容になっていたと思いますか。

 

全然違っていたでしょうね。そういった意味では、幸運な出会いがたくさんありました。たとえば、『エヴァンゲリオン新劇場版』シリーズにも関わった撮影監督の福士(享)さんは、画面の作り方が全然違いましたね。映画冒頭のシーンも、ジブリより「濃厚」に撮影していました。紙に書いた文字が焦げるシーンは煙も含めて撮影でやってもらっています。

 

 

──出演者の方々についてお聞きします。メアリ役の杉咲花さんは『マーニー』で彩香役を務めていましたね。今回、主役に抜擢された理由は何ですか。

 

制作の初期から、「杉咲さんならこちらが思いもかけないメアリを演じてくれるんじゃないか」と思っていたからですね。杉咲さんは、彩香(さやか、『マーニー』の登場人物)の声をあてたときも、「あぁ、彩香ってこんな子だったんだな」と気づかせてくれました。今回も、セリフをピックアップしての事前テストで、「これはメアリだ、いける」と確信しました。

 

メアリはウソをついたり、勝手にどこかへ行ったり、調子に乗ったりと場合によっては嫌われるような女の子ですが、杉咲さんの声だと許しちゃいたくなりますよね。杉咲さんがいないと、メアリは描けませんでした。

 

 

──声をあてていく中、想定よりも格段に良くなったシーンはありましたか。

 

魔法大学から帰ってきたメアリが、自分の部屋で魔法大学で起こったことを一人芝居するシーンです。ここでメアリは、マダムの声マネをするんですね。「必要事項を記入して明日持ってきてくださいね、ヒヒヒ……行くわけないけど!」って。杉咲さんはマダム役・天海(祐希)さんの声マネがうまいんです。加えて、「イヒヒ」とナチュラルに笑うので、セリフが自然に聞こえます。だからこそ、「しょうがないなぁ」と許せてしまう。あそこは杉咲さんだからこそできたシーンだと思います。

 

 

 

■大人にドキッとしてもらいたいシーン

 

──主題歌にSEKAI NO OWARIの曲「RAIN」を抜擢された理由は何ですか。

 

口ずさんでもらえる歌にしたいと思っていたからです。セカオワの曲は、無意識に口ずさんでしまいますよね。セカオワの皆さんをスタジオにお呼びし、絵コンテと絵を見てもらったうえで、主題歌としての曲を作ってもらいたいと打合せをました。出来上がった曲を聴いて、すっと記憶に残る曲に仕上がっていて驚きました。

 

主題歌は映画の世界観と合うものであってほしい。最初上がってきた歌詞に「僕と君の物語」という部分がありましたが、映画を見る限り、「君」のストーリーはあまり無く、あるのは圧倒的に「僕」のストーリーだったので「君の話じゃなく、僕がどう前に進もうと思っているのかを意識して変えてほしい」とお願いしました。歌詞はそうやって何度かやり取りしながら、作っていただきました。出来上がったものは素晴らしい一曲でした。

 

 

──映画に登場するキャラクターのデザインは、かなり印象的です。描く際に意識した点はありますか。

 

とくに、「変身動物」(編注:映画に登場する、魔物の姿をした動物)は描くのが難しかったです。キャラクターにするか、リアルな動物にするか。ただ、基本の方針は「動物は動物として描こう」です。キャラになると絵空事になり、途端に世界観が崩れてしまうので。変身動物もリアリティーを追求しています。

 

 

──最後に、citrus読者に伝えたいことはありますか。

 

『メアリと魔女の花』は2つの「変身」をテーマにしています。1つはメアリの成長、2つはマダムとドクターの計画する「変身実験」です。

 

魔法の力を失っても前に進もうとするメアリの姿は大人の男性も共感できるでしょうし、マダムとドクターの計画にはドキッとさせられると思います。彼らは悪いことをしようと思っておらず、あくまで、他人を変身させようとしているだけ。ただこれは、大人がやってしまいがちな過ちです。大人は無意識のうちに、子どもに自分の考えを押し付けたり、子どもの考えを無視したりします。マダムとドクターは物語で、「子どもであればあるほど、変身させるのは容易い」とも語っています。「他人を変身させる」とはどういうことか、大人に感じてもらいたいですね。

 

 

***

『メアリと魔女の花』

監督:米林宏昌

声の出演:杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、渡辺えり、大竹しのぶ
[メアリと魔女の花  上映時間:102分 ]

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