アメリカの部活動は、なぜ「ブラック化」しないのか

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通年で活動しているスポーツはごく一部 fstop123/iStock.

<日本と同じように部活動が過剰になる要素もあるアメリカだが、試合や発表の機会に重点が置かれていることなどで「ブラック化」は避けられている>

 

日本の中学や高校における部活動は、ともすれば練習時間が長時間に及んだり、勝利至上主義に陥ったりする問題点を抱えています。アメリカでも事情は同じです。例えば、スポーツの場合は大学の体育会からスカウトされる可能性があり、その場合は奨学金がつきますし、大学での活躍はプロ入りに直結することになります。

 

一方で、オーケストラやマーチングバンド、演劇、ミュージカルといった部門では、州大会や全国大会があり、活躍すれば、パフォーマンス・スクールや音楽学部への進学に有利になります。進学ということでは、名門大学をはじめとする多くの大学において部活の活動履歴は重要な要素です。さらに、フットボールやバスケットボールなどの花形種目の場合、試合で勝っていくことには全校の期待、いや町を挙げての期待がかかることもあります。

 

ですから、アメリカの「部活カルチャー」というのは、一歩間違えば「ブラック化」する要素は十分にあるわけです。では、どうやって「過剰さ」を防止しているのでしょうか?

 

一つは、校内での部活動あるいは選択教科としての活動と、地域での校外活動の役割分担ができているということがあります。つまり、校内活動が全てをカバーすることはしないという考え方です。例えば、オーケストラにしても、野球にしても、マシン打撃で速球に慣れるとか、バイオリンの音程や運弓が上手になるという「個人のスキル向上」の部分は、個人教授つまり民間に委ねられています。

 

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一方で、部活の機能は集団での成果を実現する場、発表会を目指した合奏指導や、対外試合が中心となります。ですから、部員個人の技術向上のために顧問教諭が長時間の指導をしたり、指導スキルの訓練を受けていない上級生が無理に教えたりということはありません。

 

具体的には何をやっているのかというと、ひたすら試合をしているのです。例えば野球部などのチームスポーツの場合は、一つの高校に代表チーム(Varsity)、準代表チーム(Junior Varsity)、一年生チーム(Freshman)という3つのチームが設定されていることが多く、それぞれが、それぞれのトーナメント戦に参加します。ですから、野球部なのに先輩の試合中は応援をし、先輩の練習中は球拾いといった「生産性の低いアクティビティ」はしていません。

 

音楽の場合も、各パートが上手に弾けるというところまでは、個々人の責任であり、部活や授業での活動は全体合奏が中心になります。ちなみに、オーケストラなどの場合は、演奏会における席次は完全実力主義になっていて、個々人の演奏をビデオに撮って顧問に送り、顧問はその仕上がり具合を見て席次を決めるというようなことも行われています。

 

もう一つは、多くの活動や組織が重なり合っているという設計です。例えば、スポーツの場合は、通年で活動しているのは陸上部などごく一部です。野球は春のシーズンだけ、フットボールは秋だけ、バスケは冬だけというのが、アメリカの高校生の部活の季節感になっており、反対に運動神経の良い生徒は、3種類ともやっているというケースは多いのです。

 

ヤンキースの若きスラッガー、アーロン・ジャッジ選手なども3つともやっていたそうで、3種目ともに大学のスカウトが見に来たそうですし、多くのプロ野球選手が高校時代にはフットボールとの「掛け持ち」をしています。反対に、一年中同じメンバーで野球をやっているということはありません。

 

野球を一年中やりたい生徒も中にはいるわけで、その場合は、「春は学校の部活」「夏休みの地域代表チーム(アメリカン・リジョンなど)」「秋冬の校外活動チーム(東海岸の場合、ベーブ・ルース・リーグ、ルー・ゲーリック・リーグなど)」という具合で、様々なチームに属していくことになります。

 

音楽もそうで、オーケストラの場合は、学校の中で各パートのトップ奏者になると、顧問の先生から「州中部の代表オケを受けてみたら?」といった示唆があり、入りたい場合はオーディションを受けて挑戦する、さらに州全体のオールスター楽団などもあり、そこでトップを弾いていると受験に有利とか、色々な競争があります。どれも純粋実力主義なので、スキルは個人で練習するなり、個人教授を受けて磨かなければいけません。

 

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そんなわけで高校の部活がやたらに長時間になるというのは避けられているのですが、それでも陸上部の熱血顧問とか、フットボールの鬼コーチというのは存在しています。そうした場合、シーズンになると毎晩帰宅が遅い(何時間もかけて公式戦に遠征するので)とか、陸上の場合は一年350日練習があるといった格好で、顧問教諭に負荷がかかるということはあります。

 

この点に関しては、とにかく「先生の情熱頼み」というところがあり、それだけでは回らなくなっていることから、アメリカでも学校の部活に民間の指導者を導入する動きが始まっています。現在は「スポーツ指導者の公的な資格」制度をどう設計するかが検討されています。

 

このように校外活動との役割分担を行い、個々の生徒が参加する活動が複数にわたるようにすることで、極端な「ブラック化」を防いでいるのが、アメリカの部活動では特徴的です。

 

文:冷泉彰彦

 

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