“遊び心のあるオフィス”にこだわるブラックな理由―キャンディ食べ放題の壁に、ビールが出る蛇口…

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どうせ働くのならば、スタートアップに携わりたい。「第2のGoogle」のような企業で、新しいビジネスモデルを開拓し、急激な成長を肌で体感してみたい。「意識の高い」若者たちはそんなことを思うかもしれないが、どんな世界にも、光があれば、闇があるのは当然のこと。キラキラとしたスタートアップ企業の、ぐっちゃぐちゃの裏側を描いたノンフィクションルポルタージュが今、世界中で話題を呼んでいる。

 

ダン・ライオンズ氏著、長澤あかね氏訳の『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』(講談社)は、『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラーに輝いた一冊。著者のライオンズ氏は、『ニューズウィーク』を51歳でリストラされたベテラン記者。解雇後、彼は、新たなキャリアとして、マーケティングオートメーションツールを提供しているIT系のスタートアップ企業・ハブスポットに転職したのだが、そこで見たのは、華やかなスタートアップの世界の裏の姿だった。

 

キャンディの瓶が詰まった「キャンディ食べ放題」の壁、お昼寝部屋に吊るされたハンモック、ビールが出る蛇口、「椅子」として与えられたバランスボールに社内を歩き回る大きな犬…。ライオンズ氏が入社したハブスポットは遊び心に溢れたオフィスを売りにしている。どうしてこんな環境を作り上げているのかといえば、表向きには「型にはまらない若者たちのために」などとのたまうが、実際は、薄給で働く若者、「低コストな労働力」を集めるための方策だ。ハブスポットは取り放題の休暇を「特権」と謳っているが、有給休暇を設定しないことで、休暇分の支払いをせずに、社員を解雇することができる。能力が足りなければ「卒業」と称して即解雇。どんどん人材を入れ替えていくという実態があるのだ。

 

そんな薄給の若者たちに何をさせているのかといえば、たとえば、コールセンターで、来る日も来る日も何千本もの電話をかけさせているという。ハブスポットは、表向きは「インバウンド・マーケティング」を標榜している企業だ。インバウンド・マーケティングとは、従来のプッシュ型の広告出稿に頼るのではなく、魅力的なコンテンツをWEB上で公開することによって、消費者自身に見つけてもらうことを目的としたマーケティング施策。それにもかかわらず、ハブスポットは古くからある電話という方法で営業をかける。何千人もの見込み客に電話をかけるのは強引な戦略だが、投資家たちがケタ外れの成長率を求めてくる以上、目標の数字を上げるためには仕方のないことなのだ。電話営業の成功率について、若者たちもすぐわかってくるが、ノルマがあるのだからやめられない。朝から晩までソフトウェア・プログラムに一挙一動を追跡され、電話した件数を数えられ、「ノルマを達成していない」「来月には失業かも」と絶えず通知される日々を送ることになる。

 

ハブスポット自体は、これまで一度も利益をあげたことはない。だが、累積赤字が1億ドルでも株価は爆アゲ。赤字経営が続くなかで、2014年10月、ハブスポットは、IPO(新規株式公開)を成功させ、2015年末、時価総額は20億ドル近くに到達。しかし、その恩恵を受けているのは、創業者と一握りの投資家だけ。労働力は使い捨ててなんぼという実情がある。

 

しかし、そんなことなどつゆ知らずに、「意識の高い」若者は集まってくる。当然、社内で浮きまくりのライオンズ氏は、20代の上司やエキセントリックな同僚に囲まれ、自分の立ち位置に苦悩するのだが…。これが実話だと思うと、誰もが恐ろしくなることだろう。そして、これはハブスポットに限らないことなのだろう。多くのスタートアップの深い闇を示唆するこのルポルタージュはまだまだ世界に大きな波紋を広げそうだ。

 

文=アサトーミナミ

 

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