日本酒ファンが語る「獺祭」人気の理由

ライフハック

杉村 啓

日本酒ファンが語る「獺祭」人気の理由

消費が右肩下がりと言われている日本酒業界で、今や一番知名度があって、売り上げも伸びているお酒と言えば「獺祭(だっさい)」ではないでしょうか。テレビに多くとりあげられ、どこでもひっぱりだこで、とうとうパリに直営店を出すほどの勢いです。

 

なぜ、こんなに人気があるのでしょうか。ちょっと個人的な視点で解説してみたいと思います。

 

■そもそも獺祭はおいしかった
獺祭はおいしいのです。おいしいから売れている。これはもう当たり前ですね。おいしい上に、常に新しいことに挑戦し続けているのですから、人気が出るのも納得です。

 

例えば獺祭には、「遠心分離」という名前のお酒がありますが、これは遠心分離機を使ってもろみとお酒を分離したものです。本来は酒袋にもろみを入れて、機械で圧力をかけてお酒を搾るところを、圧力をかけずに機械を使ってお酒を分離させるというものです。そうすることで、雑味の無いきれいなお酒になるのです。この遠心分離機は高価だったり、搾られるお酒の歩留まりが高くなったりと、コストが高くなったりするのですが、おいしく仕上げるためにいち早く導入していたりします。

 

ただ、ここまでの人気が出る前は、獺祭といえば、「安くて、めちゃめちゃうまくて、コストパフォーマンスがいいお酒」という印象でした。

 

獺祭にもいくつか種類がありますが、今の獺祭のシンボル的存在は「磨き二割三分」という、玄米からお米を23%まで磨いて造ったお酒です。特別な製法をしている「特定名称酒」の分類で言うと、「純米大吟醸」になります。

 

純米大吟醸は、お米を50%以下まで磨いたお酒。普段食べている白米が、玄米の状態から90%ぐらいの状態にしているということを考えると、獺祭で使うお米は、かなりの部分を削っていることがわかりますね。

 

その製法から手間も原材料もかかる、お高いお酒だったので、僕がよく飲んでいたのは「磨き二割三分」ではなく、「純米大吟醸50」という、50%までお米を磨いたお酒でした。お米の磨き具合が違うのですが、磨きが少ない分(といっても普通のお酒に比べると十分磨いています)リーズナブルだったのです。確か1500円にいかないぐらいだったんじゃないでしょうか。「この値段でこのクオリティ!」と驚いたものです。

 

あとは、当時の僕らの間で獺祭というと、スパークリング日本酒である「発泡にごり酒」のイメージが強かったのです。シャンパンのような瓶で、蓋をポン!と飛ばして日本酒を飲むというのが、何ともおしゃれで心地よく、しょっちゅう飲んでいました。

 

というわけで、普段は「純米大吟醸50」や「発泡にごり酒」を飲み、特別なときに「磨き二割三分」を飲むというのが「獺祭」というお酒のイメージでした。もちろん「磨き二割三分」はとてもおいしくて好きだったのですが、お値段的にそうそう買えなかったのです。

 

 

■ヱヴァンゲリヲンにも登場
獺祭はいろいろなところで紹介されていますが、個人的に一番タイミングが良かったと思うのは、2007年に公開された映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」ではないかと思います。

 

作中の登場人物、葛城ミサトの部屋には「獺祭」の瓶がところせましと並んでいて、ばっちりとラベルが見えるようになっていました。そこで興味を持った人、特に若い人が獺祭を飲んでみて、おいしさにハマり、その後も飲むようになったのではないかと。

 

実際、映画が公開された後、僕のところにも「あの映画に出てきたお酒ってどこで飲めるの?」という質問がいくつかきましたし、獺祭を飲み会に持っていったら「あのエヴァンゲリヲンに出ていたやつだ!」と言われたこともあります。まあこれは僕の交友関係のせいかもしれませんが。

 

ちょうど獺祭の急成長が2005~2007年ぐらいから始まっていますので、必ずしもこの映画のおかげというわけではないのですが、それでも成長を加速させる要素になったのではと思います。

 

■すぐに増産できるようになっていた
テレビでもたびたび言われていますが、獺祭は「杜氏」が主導で造っているのではありません。桜井社長と社員が造っているお酒です。しかもいまは、1年を通じて造る「四季醸造」をしています。もうちょっと詳しく説明しましょう。

 

お酒造りは職人の技、というイメージがありますが、獺祭では杜氏という職人が造っているわけではありません。お酒造りを徹底的に研究し、それぞれの工程に分解し、そこを社員がそれぞれ作業する、というスタイルになっています。全て機械任せでは無く、人の手でやっているために人員が膨大に必要になりますが、それでも人手(もちろん研修期間は必要ですが)と場所があれば、増産することができるようにしたのですね。

 

また、冬季だけに働く杜氏とは違い、通年で働く社員が中心になって造っているわけですから、一年を通じてお酒造りをすることができます。もちろん、空調によって蔵の中の温度が一定になっているのは言うまでもありません。これが四季醸造です。

 

 

需要が高まったときに供給が追いつかず、プレミア価格がついてしまい、結果として高値になりすぎて手を出せず、従来のファンが離れていき、ブームが終焉してしまうということがどの世界にもあると思います。

 

でも獺祭は、「社員が作る」「四季醸造」という体制により、ブームになってからもしばらくの間は需要に応えていました。さすがに最近は生産が間に合わず、売り切れ続出ではありますが、それでも新しい蔵が完成すれば、また結構出回るかもしれません。

 

おいしいお酒として日本酒全体が盛り上がり始めた時期に、大きな媒体で紹介され、需要に応えることができた。その結果ブームができて、今の獺祭があるという印象です。

 

今や獺祭は、純米大吟醸では日本一の出荷量を誇ります。これからも新しいことに挑戦し続けるでしょうし、まだまだブームは続くでしょう。

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杉村 啓

醤油と日本酒と料理漫画とガジェットをこよなく愛するライター。醤油はタモリ倶楽部でも紹介された「醤油手帖」という本を作っています。今冬に河出書房新社より出版予定。日本酒では制作に参加している「酩酊女子 ...

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