【今週の大人センテンス】美輪明宏さんの少し突き放した回答に深く納得

人間関係

写真:読売新聞/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第67回 行間からにじむ厳しさとやさしさ

 

「どんな選択も相談者次第。私の回答を参考にして頂ければ幸いですが、あくまで参考です。」by美輪明宏

 

【センテンスの生い立ち】

朝日新聞の週末別冊「be on Saturday」で連載中の「悩みのるつぼ」。読者から寄せられた悩みに、岡田斗司夫さん、上野千鶴子さん、美輪明宏さん、金子勝さんの4人が交代で回答している。7月29日号の担当は美輪明宏さん。20代後半の女性が、男友達に頻繁に体の関係を要求されるが「付き合おうよ」とは言われないことに悩んでいる。それに対して美輪さんは、いろんな可能性や秘策を提示しつつ、最後はこう言って相談者に判断を委ねた。

 

3つの大人ポイント

  • 男と女のことに正解はないという前提に立っている
  • あえて突き放すことで、相談者に奮起を促している
  • 相談するということの意味や限界を示してくれた

 

人生相談は、ドラマの宝庫です。奇想天外な悩みあり自分にも覚えがある悩みあり、あるいは、何を悩んでいるのかわからない悩みもあり……。追いつめられた状態にある相談者の悲痛な叫びと、オリジナリティある解決策や文章芸を繰り出そうとしている回答者の気合いが激しくぶつかり合い、無責任なギャラリーである読者を楽しませてくれます。

 

朝日新聞の週末別冊「be on Saturday」で長期連載中の「悩みのるつぼ」は、4人の回答者が交代で登場し、どの人も毎回遠慮ない回答で(相談者が納得するかどうかはともかく)ギャラリーをスカッとさせてくれます。美輪明宏さんが担当した7月29日付の回も、なかなか痛快でした。タイトルは「彼の気持ちがわからない」。相談者は20代後半の女性。相談は「私には好きな男性がいて、その彼とは5年近く友達でいます。(中略)彼は私の気持ちに気づいていると思います」と、甘酸っぱい感じで始まります。

 

ところが読み進めると、そんなに甘酸っぱい話ではありませんでした。最近彼女と別れたという彼が、急に頻繁に連絡を取ってくるようになり、体の関係を要求してくるとか。相談者は「もし彼から『付き合おうよ』と言われるのであれば、喜んで受け入れるのですが、そのような言葉はなく、ただ体の関係を迫られるだけなのです」と困惑しています。真剣な交際に発展するのなら要求に応じてもいいけど「ただの都合のいい女にされたり、一夜限りのことで終わったりするような気がして迷っています」とも。

 

まあ、失礼な男だし失礼な口説き方ですが、世の中にはそういう男もいるしそういう口説き方で結果が出るケースもあるでしょう。美輪明宏さんは「取りようによっては正直で、ある種の責任感は持っているのかもしれません。女性と寝るためだけに、思ってもいない言葉を口走る人も多いのですから」と前置きしつつ、次のようにアドバイスします。

 

もしどうしても気になるのであれば、相談者は彼に対して一度、ストレートに「なぜ私と?」と問いただしてみてはいかがでしょうか。「ただセックスだけなのですか。なぜですか?」「愛情には責任も伴いますが、それはないんですか?」と。

 

たしかに、こう聞けば彼は腹をくくって、彼女に対する気持ちを話さざるを得ません。おそらく、セックスだけではないと言い張る可能性は高いでしょう。ただ、その流れで口にした彼の気持ちが、信用できるかどうかはまた別の話。そして、仮にセックスしたいがために愛を口にしたとしても、それが嘘っぱちか結果的に嘘じゃなくなるかも未知数です。

 

さすがに美輪さんは、ペラペラな道徳観に基づいたきれいごとの回答なんてしません。たぶん美輪さんも読者の多くも、この女性がヤル気満々であることは察しているし、「やりたければやればいいじゃん。子どもじゃないんだから」と思っているはず。かといって、ストレートにそう言っても本人は納得しないでしょう。美輪さんは「体を目当てに寄ってきた可能性は高いですね」と釘を刺しつつも、こう言って相談者をけしかけます。

 

あなたには、いろんな状況を納得したうえで、流されてみるという選択肢だってあります。どうしても体の相性がよくない人は存在しますし、逆に、どんな相手とも合うような人もいます。(中略)あなたががいろいろと「勉強」をして、そういう女性になるのであれば、この男性はあなたから離れられなくなって、他の女性に目がいくこともないでしょう。

 

相手がいわゆる「真剣な気持ち」を持っていたとしても、単に「体目当て」だったとしても、セックスしたあとで関係がどうなるかは誰にもわかりません。誰にもわからないのに、先のことについて約束や保証を求めるほうが、よっぽど不誠実な態度と言えるでしょう。美輪さんが暗にオススメしているように、とりあえず流されてみて、自分や相手の気持ちがどうなるかを見守って、そこでこれからどうするかを真剣に考えればいい話です。

 

美輪さんは、いちおう「その男性が、なぜ前の恋人と別れることになったのかは調べておいた方がいいと思います」とも言っています。ただ、たぶんそのアドバイスは、善良でおかたい読者に的外れな批判をされないための予防線。そうやって注意を促しておきながら、美輪さんならではの迫力に満ちた怒涛の結論へとなだれ込みます。

 

ただ、そういう悪い男は、魅力があるのも事実ですよね。ほとんどの「いい人」は善良なだけで、性的な魅力がいまひとつということも。とにかく、まだ相手の男性とは深い関係ではないのですから、今後はご自分で決断してください。どんな選択も相談者次第。私の回答を参考にして頂ければ幸いですが、あくまで参考です。

 

男と女のことに「正解」はありません。どんなに悪い人でも、魅力的であることが何より大切な正義という考え方もあります。そんな前提に立ちつつ、「今後はご自分で決断してください」とあえて突き放して奮起を促しているのが、この回答の素晴らしいところ。最後の一文も、口調はやわらかですが「セックスするかどうかぐらい自分で決断して、どういう結果になったとしても自分の責任で受け入れなさい」という厳しくもやさしい叱咤激励です。

 

相談というのは「答え」を与えてもらう行為ではありません。回答者は何も強制はできないし、何の責任も負えません。ちょっと異例の締め方のおかげで、相談するということの意味や限界にも気づくことができました。

 

自分が誰かに相談するときも誰かから相談されたときも、この「あくまで参考です」という前提を忘れず、相談した相手に「答え」を与えてもらおうという甘えた了見や、相談してきた相手に「答え」を与えられるという思い上がりを封じ込めましょう。そもそも、ほとんどの相談は最初から欲しい答えが決まっているので、相談することで運命が大きく変わるケースはまずありません。

 

今週の大人の教訓
望む方向に背中を押してあげるのが、相談を受けた側の役割

 

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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