マンション建設で花火を見られなくなったら、慰謝料をいくらもらえる?

ライフスタイル

ニューズウィーク

ranckreporter-iStock.

<「自室から打ち上げ花火を見られる眺望が売り」と言われて買った高層マンション。もしも同じ建設会社が眺望を遮る別のマンションを建設したら?>

 

夏本番である。今年は、全国で約1000の花火大会が開催される予定らしい(KADOKAWA『ウォーカープラス』より)。どの街でも、大会の開催日は、人でごった返し、交通渋滞が発生し、眺めがいい周辺の飲食店は軒並み満席となってしまう。

 

そのような年に1度の機会に、自宅の窓やベランダから打ち上げ花火を見ることができる近隣住民はラッキーだ。人混みの中へ出かけていく必要もなく、わが家こそが誰にも邪魔されない「特等席」となる。友人や知人、親戚を招いて、楽しみを提供する社交のチャンスもできる。

 

では、近くで新たに建物が建ってしまったせいで、花火大会の日に自宅から打ち上げ花火を見られなくなった場合、その住人は精神的苦痛に基づく慰謝料を求めることはできるだろうか。

 

「花火を自宅から観覧できる眺望の利益」が、法的保護に値するかどうかが争われた裁判がある。

 

ある経営者夫婦が、取引先の接待のため、都内の新築マンションの1室を購入した。このマンションの部屋から隅田川花火大会の花火を見られることが売りで、マンション購入の際も営業担当者とその話題になっていた。しかし、花火の観覧を契約上補償した事実はなかった。

 

すると間もなく、近隣に別のマンションが建設されたため、夫婦が購入して以来、部屋から打ち上げ花火が見える機会は一度もなくなってしまった。眺望を遮ったマンションを建設したのは、よりによって、夫婦が購入したマンションの建設会社と同じ会社だった。

 

眺望が遮られた住人に、建設会社は「お詫び金」として5~10万円を支払ったが、夫婦の怒りは収まらず、資産価値の低下や精神的苦痛を理由とした損害賠償・慰謝料を請求したのである。

 

 

■「誠実に眺望を確保する義務を怠った」で慰謝料60万円

 

2006年12月8日、東京地方裁判所は建設会社に対し、60万円の慰謝料を夫婦へ支払うよう命じた。

 

夫婦が、隅田川花火大会の観覧と取引先接待を目的にマンションの一室を購入していたことを、マンションの売り主は知っていたので、それにもかかわらず、わずか1年も経たないうちに、あえて眺望を妨げる形でマンションを建設したことは、信義に従い誠実に眺望を確保する義務を怠っていたと言え、賠償しなければならない――というわけだ。

 

ただし、花火が見えなくなったとしても、マンションの利用価値は全く失われたわけではないし、東京の都心部であることから、被告建設会社でなくても、いずれ他の建設会社が眺望を妨げるような建造物を建てていた可能性は容易に想定できるとして、それほど高額な賠償は認定されなかった。

 

【参考記事】アメリカの「独立記念日」が「花火とBBQだけ」である理由とは?

 

また、同様に札幌・豊平川花火大会が見える15階建てマンションの高層階を購入した住人たちが、同じくそのマンションを建設した業者の関連会社が、その眺望を遮る形で別のマンションを建設した事例で、札幌地方裁判所は2004年3月31日、業者に対して、住人らに45~80万円の慰謝料の支払いを命じている。

 

そのマンションの販売営業パンフレットには『札幌の風物詩を、特等席から眺める。』『豊平川の夜空に咲く、花火。』などのキャッチコピーが書かれていたという。花火大会の観覧をはじめとする眺望の良さに惹かれて購入を決めた住人も多かっただろう。

 

 

■眺望が次々と変化していくのが都市生活の前提ではないか

 

ただ、認容されたのが数十万円の慰謝料のみだとすると、弁護士費用その他のコストや手間暇を差し引けば、ペイするかどうか微妙な賠償額である。そもそも、あるマンションの窓から花火が見えるのは、別の家から花火が見えなくなっている犠牲や諦観の上に成立しているのだから、そこまで法的に保護すべき利益とは見なされないだろう。

 

注目すべきは、いずれも、そのマンションを建てた業者自身が別のマンションを建てて眺望を遮ったという点で、背信性が高いと見なされている点だ。他の建設業者が建てた建造物のせいで花火が見られなくなったのなら、慰謝料の請求自体が棄却されることも十分にありうる。

 

マンションなどの建築物が壊されては、さらに立派な高層マンションが建てられての繰り返しで、住まいから見える眺望は次々と変化していくのが都市生活の前提といえるからだ。

 

他の建造物のせいで花火を見られなくなる損害より、晴天の昼間でも太陽の光が部屋に入らない損害のほうが、暮らしの質が低下する点で深刻とされ、「日照権」という言葉も生まれた。

 

その一方で、たとえば夜の仕事に就いている独り暮らしの人にとっては、昼間は家で寝ているわけだから日陰でも構わないだろうし、そのぶん家賃が安ければありがたいはずだ(むしろ、賃料収入が減った大家に一定の賠償をすべきかもしれない)。

 

自室で最高の眺望を独り占めし、自尊心を満たしたい人も一定数いるだろう。

 

だが、たとえば花火大会の日に限定し、高層マンションの屋上などを、花火が見えない位置にある部屋の住人や、できれば周辺住民も含めて開放してみてはどうだろう。共に同じ夜空を見上げる趣向は、これからの「シェアの時代」にふさわしい。各地で後を絶たないマンション建設への反対運動も、多少は沈静化するかもしれない。

 

【参考記事】「水道民営化」法で、日本の水が危ない!?

 

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」

 

長嶺超輝(ライター)

 

citrusでは【1000円分のAmazonギフト券】が当たるアンケートを実施中

この記事が気に入ったらいいね!しよう

ニューズウィークの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

ニューズウィーク

ニューズウィーク

国際ニュース週刊誌『Newsweek』は米国にて1933年に創刊。その日本版として86年に創刊されて以来、『ニューズウィーク日本版』は、世界のニュースを独自の切り口で伝えることで、良質な情報と洞察力ある視点とを提供...

ニューズウィークのプロフィール
ページトップ