パンドラの箱を開けるな

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パートナーといっしょに楽しめる趣味があるのは幸せなことだ。が、趣味が時計となってくると事情が変わってくる、と時計ジャーナリストの広田雅将は警鐘を鳴らす?

 

By Masayuki Hirota
Illustration: Osushi Muroki

 

 

正確に書くともめるので、あえてぼかすことにする。長年の友人に某がいる。社会的には極めて真っ当、お子さんもきちんと育ち、時計を見る目は僕よりずっとあるから、羨ましい限りの人である。唯一の弱点は恐妻家であることで、彼はさまざまな時計を買ってきたにもかかわらず、「妻には隠している。見つかると大変なことが起こる」と深刻に語っていた。確かに、奥さんが、彼が時計に費やしてきた金額を知ったら、一家崩壊どころではなくなりそうだ。

 

まわりの時計愛好家は、大体似たり寄ったりだ。A氏は時計好きであり、ある分野における第一人者であるが、20万円のジンを買うかどうかで真剣に迷っていた。彼の収入を考えれば、まったく問題のない金額だ。しかし「妻にバレると絶対にまずい!」のだという。彼はそのジンを買ったのだが、結局、会社の机に隠しているらしい。

 

恐妻をもつ彼らの多くは、しばしばこう語る。「時計趣味に理解がある奥さんや彼女がいればよかった」と。しかしこれこそ、隣の芝生は青く見える、だろう。個人的な見解を言うと、女性が金のかかる趣味に理解を示して、ろくな結果を招いたことがないのである。理由は明白で、男よりも女性の方が、モノを見る目を持っているからだ。女性に比べれば、男の審美眼なんて、太陽の前の月でしかない。

 

私ごとを話したい。昔付き合っていた彼女は、時計に対して知識も関心もなかった。しかし暇な時に時計の話をしていたら、やがて時計を見て、「これはパテック フィリップのカラトラバでしょう?」などとほざくようになった。それだけではない。女性誌をめくって、「これはいい時計じゃない?」と指さしたのを見たら、なんと300万円もするオーデマ ピゲだった。いい時計を選ぶなと感心したが、あのまま付き合っていたら、間違いなく破産していただろう。

 

時計を買うにあたって、女性と男の見るポイントはまったく違う。男はストーリーを聞かせ、そしてディテールを説明し、さらにピカピカに磨かれたムーブメントを見せれば、熱狂して買うだろう。男はアホだとつくづく思う。

 

しかし、女性はキレイな時計でないと絶対に買わないのである。しかもキレイの判断基準が、男よりはるかに厳しい。

 

女性が、「その時計かわいいね」と言っているうちは、相手にしなくていい。女性のかわいいは、おはようぐらいの意味であって、聞き流しても問題ない。しかし女性が「キレイ」と言いはじめると事情が変わってくる。かなりやっかいだ。

 

女性は暇さえあれば鏡を見ている。男はまず見ない。少なくとも筆者は、半年ほどまともに見ていないし、見る気もしない。それはさておき、鏡を見続ける女性は、当たり前だが、鏡面に反応するようになる。具体的には、鏡面があれば、かならずそこに顔を映そうとするのである。鏡面の歪みが小さければ、顔は歪みなく映る。対して歪みが大きければ、顔は歪んで映る。そして、良い時計というのは、総じてケースの面の歪みが小さいのである。ロレックス、パテック フィリップ、今のブルガリ、グランドセイコーなどが好例だろう。女性たちが、「これはキレイな時計」と言ったときは、傾聴したほうがいい。なぜなら彼女らは、無意識にケース面の歪みを見て、時計の良し悪しをきちんと判断しているからだ。

 

筆者はある夫妻を知っている。旦那は高収入で、かつては好きに時計を買っていた。幸いにも奥さんは無趣味で、旦那の時計趣味にも驚くほど寛容だった。しかし旦那が気を利かせて、彼女を高級メーカーの展示会に連れて行ったのが良くなかった。先日、その夫妻に会った。相変わらず旦那はいい時計を着けていたが、奥さんの巻いている時計の方が、控えめに見ても、3倍ぐらいは値の張るものだった。

 

趣味に理解がある奥さんや彼女を持ちたいというのは、趣味に生きる男の夢である。しかし男性諸君、決してパンドラの箱を開けるなかれ。女性は男よりも、はるかに金のかかる存在なのだ。

 

 

広田雅将
1974年、大阪府生まれ。時計ジャーナリスト。『クロノス日本版』編集長。大学卒業後、サラリーマンなどを経て2005年から現職に。国内外の時計専門誌・一般誌などに執筆多数。時計メーカーや販売店向けなどにも講演を数多く行う。ドイツの時計賞『ウォッチスターズ』審査員でもある。

 

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