【中年名車図鑑】限定200台、価格1870万円! 知られざる日伊合作の高級スペシャルティカー

ライフスタイル

大貫直次郎

設立当初は日産の量産車をベースにした特装車の製作やチューニングパーツの開発をメインに手がけていたオーテックジャパン。同社の活動は1989年になると新たな段階に入る。イタリアの名門カロッツェリアと共同開発したオリジナル車の「ザガート・ステルビオ」を市場に放ったのだ。今回は、このクルマの素性を知っていたら相当の通といわれるオーテックの高級スペシャルティで一席。

 

 

【Vol.28 オーテック・ザガート・ステルビオ】

クルマに対するユーザー志向の多様化と個性化が、一気に進んだ1980年代後半の日本の自動車市場。その対応策として日産自動車は、特装車造りの人材と機能を集結させた独立会社のオーテックジャパン(AUTECH JAPAN,INC.。Automobile Technology in Japanの略)を1986年9月に設立した。

 


 ■櫻井眞一郎氏のエンジニア哲学が詰まったオリジナルモデル

 

歴代スカイラインの開発を指揮した櫻井眞一郎氏が初代社長となり、神奈川県茅ヶ崎市に居を構えたオーテックジャパンは、会社設立から1カ月ほどして営業を開始し、翌87年5月には建屋(本館/デザイン棟/エンジン実験棟/工場など)が竣工する。当初の業務は、日産製量販車をベースにした乗用および商用の特装車の開発・生産やモータースポーツ車用エンジンの開発、チューニング&ドレスアップパーツの開発・生産などがメインだった。一方、会社の経営が軌道に乗ると、新たなステップアップも模索される。それは、社名を冠したオリジナルのクルマを開発し、市場で発売するという大胆な戦略だった。そもそもオーテックジャパンは、胃の大病を患い、1985年夏に退院して日産に復職した櫻井氏に対し、当時の日産の久米豊社長が「日産のような大きな組織ではやりにくいこともあるだろう。日産が金を出すから、自分で会社を作って思う存分腕をふるってみてはどうか」と提案して設立された会社。櫻井氏は折に触れて自分の思い通りのクルマを造ってみたいという希望を周囲に漏らしており、その考えを十分に知っていた久米社長が、櫻井氏に新たな道を示したのだ。櫻井氏のエンジニア哲学が存分に詰まったオリジナルモデルを造ることは、オーテックジャパンにとって必然の流れだった。

 

イタリアのカロッツェリア「ザガート」がハンドメイドで仕上げたボディ。フロントフェンダーに組み込まれたドアミラーが特徴的

 

■パートナーはイタリアの老舗カロッツェリア


オーテックジャパン初のオリジナルモデルを企画するにあたり、開発陣はインパクトの強さを踏まえて、高級スペシャルティカーのカテゴリーで思い切って勝負する方針を打ち出す。シャシーやエンジンに関しては、日産のF31型系レパード用をベースとすることに決定。一方の内外装のアレンジについては、イタリアの老舗カロッツェリアであるザガートと共同開発する決断を下した。製作手順は、まずオーテックジャパンがパワートレインのチューニング変更やサスペンションの強化を行い、その後にイタリアのミラノに居を構えるザガートのファクトリーに輸送。そこでボディシェルを架装し、内装を組み付けたのち、再び日本に送り返してフィニッシュさせるという手法を採用した。


パワートレインについてはF31型系レパードのフラッグシップユニットであるVG30DET型エンジン(2960cc・V型6気筒DOHC24Vインタークーラーターボ)を選択し、多岐にわたるチューンアップを実施する。燃料供給装置や吸排気系の見直し、専用ターボおよびインタークーラー、オイルクーラーなどを装着した結果、最高出力は標準の255ps/6000rpmから280ps/6000rpmに、最大トルクは同35.0kg・m/3200rpmから41.0kg・m/2800rpmにまで向上した。また、マニホールドのカバーには“tuned by AUTECH”のロゴを貼付する。組み合わせるトランスミッションは、フルレンジ電子制御4速ATであるE-ATの1機種に絞った。


開発陣は、この強力エンジンを支えるシャシーにも徹底的に手を加える。前マクファーソンストラット/後セミトレーリングアームのサスペンションは、ダンパーとスプリングともに大幅に強化。加えて、取り付け部などの入念な補強も施す。さらに、制動機構には専用の4輪ベンチレーテッドディスクブレーキをセットした。


一方のザガート側では、ハンドメイドで仕上げたアルミ製ボディやカーボンファイバー製のフロントフード、レザーやウッドパネルを奢った内装パーツなどを、オーテックチューンのシャシーに組み付ける。スタイリング上の最大の特徴は、左右のフロントフェンダーに組み込まれたサイドミラー。櫻井氏の提案のもと、ザガートのデザイナーが苦心して完成させたこのデザインは、良くも悪くも新しい高級スペシャルティカーの存在感を際立たせた。ほかにも、オーテックの頭文字を模したフロント中央部のエアインテークや抑揚のあるサイドライン、伝統のダブルバブルのルーフ、ブラックスモーク処理されたリアライトカバーなど、随所にザガートならではのオリジナリティが発揮されていた。

 

インテリアのアレンジも「ザガート」が担当。レザーやウッドをたっぷり使った贅沢なインテリア

 

■欧州の有名な峠の名を冠して発売


ボディと内装が組み付けられた日伊合作の高級スペシャルティカーは、日本で入念な走行テストが実施されて改良を加えた後、1989年にいよいよ市販に移される。車名はアルプスに向かう峠の名称で、数々のレースの舞台ともなったSTELVIOにちなみ、「オーテック・ザガート・ステルビオ」(AZ1型)と冠した。


限定生産200台というふれこみで市場に放たれたステルビオは、その特異なルックスや1870万円という超高価なプライスタグなどで、業界関係者やクルマ好きから大注目を浴びる。ただし、アクの強いスタイリングやマニュアルトランスミッションの未設定、さらに納期の長さなどが災いし、日本での人気はいまひとつ。また、基本コンポーネントがF31型系レパードと共通だったため、「レパードのボディを乗せ換えただけの改造車」と誤解されてしまうことが多かった点も、ステルビオにとって大きなマイナスポイントとなった。

 

その特異なルックス、限定200台&価格1870万円というスペックが当時大きな話題に

実際にステルビオを走らせると、F31型系レパードとは異なる強烈な加速感やスタビリティに優れた足回り、さらに贅を尽くしたコクピットの雰囲気に魅了される。オーテックジャパンとザガートが本気でタッグを組み、最大の情熱を込めて生み出した希少な高級スペシャルティカー──それが現在の目から見たステルビオの姿なのである。
 

【中年名車図鑑】

Vol.1 6代目 日産ブルーバード

Vol.2 初代ダイハツ・シャレード・デ・トマソ

Vol.3 4代目トヨタ・セリカ

Vol.4 初代トヨタ・ソアラ

Vol.5 2代目ホンダ・プレリュード

Vol.6 5代目マツダ・ファミリア

Vol.7 初代スバル・レガシィ

Vol.8 2代目いすゞ・ジェミニ

Vol.9 初代・三菱パジェロ

Vol.10 5代目・日産シルビア

Vol.11 初代/2代目スズキ・アルト・ワークス

Vol.12 2代目マツダ・サバンナRX-7

Vol.13 2代目トヨタ・セリカXX

Vol.14 初代ホンダ・シティ

Vol.15 6代目・日産スカイライン2000RS

Vol.16 スバル・アルシオーネ

Vol.17 初代いすゞ・ピアッツァ

Vol.18 三菱スタリオン

Vol.19 ホンダ・バラードスポーツCR-X

Vol.20 4代目トヨタ・カローラ・レビン/スプリンター・トレノ

Vol.21 初代 日産マーチ

Vol.22 4代目 日産フェアレディZ

Vol.23 5代目トヨタ・マークⅡ

Vol.24 初代ホンダNSX

Vol.25 初代ユーノス・ロードスター

Vol.26 日産Be-1

Vol.27 3代目ホンダ・シビック

 

citrusでは【1000円分のAmazonギフト券】が当たるアンケートを実施中

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

大貫直次郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ