【中年名車図鑑|初代トヨタ・セルシオ】きめ細やかな造りで世界中に衝撃を与えた“至上”の高級車

車・交通

大貫直次郎

日本経済がバブル景気の絶頂期に達し、日本製品が世界中を席巻していた1980年代末、トヨタ自動車は満を持して新しい高級車をリリースする。メルセデス・ベンツやBMWなどをターゲットに据えた大型ラグジュアリーセダンのセルシオ(1989~1994年)だ。その緻密な高級車造りは、自動車業界に大きな影響を与えることとなる――。今回は“至上”を意味するネーミングを冠して登場したトヨタのチャレンジングな新世代高級車で一席。

 

 

【Vol.30 初代トヨタ・セルシオ】

バブル景気が賑々しく進展していった80年代終盤の日本市場。日本製品は“Japan as №1”と称されて評価を高め、また好況をバックボーンに日本の企業は海外の土地や芸術品などを相次いで購入していた。そんな最中、日本の自動車メーカーは豊富な開発資金を活用して新しいカテゴリーのクルマを積極的にリリースしていく。

 

 

■トヨタが超高級ドライバーズカーを開発した背景


1989年9月、トヨタ自動車はアメリカ市場で新開発の超高級ドライバーズカーを発表する。メルセデス・ベンツやBMWなどと競合するそのクルマの車名は、レクサスLS400を名乗った。レクサスはトヨタの高級車販売チャンネルで、LS400の登場に合わせて設立されたディーラーだった。トヨタの念願、そして日本の自動車界にとっては初の国際的な超高級車は、たちまち世界中の識者の注目を集めるようになる。当初はタカを括っていた欧米メーカーも、LS400の質感の高さ、乗り心地のよさ、そして欧米の高級車にはない優れた静粛性に驚異を感じる。さらに、日本メーカーならではの気配りのある接客やアフターフォローも、ユーザーから大きな支持を集めた。この時点でトヨタ自動車は、「丈夫で壊れない実用車を造る」日本のメーカーから「信頼性の高い高級車も造れる」メーカーへのイメージチェンジに成功した。

 

メルセデスやBMWを競合に見すえた、日本車初の国際的高級車。乗り心地のよさ、静粛性の高さ、質感のよさで世界中から注目を集めた

■トヨタならではのきめ細やかな先進技術


アメリカ市場でのデビューから1カ月ほど遅れて、日本でも超高級車が発売される。車名はラテン語で“至上”を意味する「セルシオ」(UCF11/UCF10型)を名乗った。


セルシオのクルマ造りは、それまでのトヨタ車とは一線を画していた。エンジンや駆動系、ボディなどの加工を高精度化し、内装材も厳選した最高級の素材を使用したのである。ボディ塗装も従来とは違った凝った塗料と方法で吹きつけられ、被膜の耐久性や色の輝きは既存の高級車を大きく凌いでいた。


スタイリングに関しては、感性に訴える美しさと気品を備えるとともに、空力特性を徹底的に磨いた新曲面フォルムのセダンボディに仕立てる。具体的には、強いテーパーで絞ったフェンダーとプレスドア、ラウンドさせたコーナー処理、わずかにヒップアップさせたテールエンド、エンジン下部を覆う大型のアンダーカバーなどを採用してクラストップの空気抵抗係数(Cd値)0.29を実現。ボディサイズは全長4995×全幅1820×全高1400~1425mm、ホイールベース2815mmと立派な体躯に設定した。一方でインテリアについては、大らかな曲線を用いた端正かつ豊かなデザインで構成し、ウォールナットなどの厳選した天然素材の導入と相まって乗る人を温かく包み込むキャビン空間を創出する。また、新しいパッド材を内蔵したシートおよびドアトリムの表地にはソフトで肌触りのいい高級ファブリック3種と本革を設定。さらに、マイコンプリセット式のドライビングポジションシステムやブラックフェイスを基盤にしたオプティトロンメーター、マイコン制御のオートエアコンといった先進機構を豊富に盛り込んでいた。

 

感性に訴える美しさと空力性能を両立させた。ボディサイズは全長4995×全幅1820×全高1400~1425mmと大柄


搭載エンジンはボア×ストロークを87.5×82.5mm、V角を90度に設定したうえで、エンジン本体とバルブリフターをアルミ合金で仕立てた新開発の1UZ-FE型3968cc・V型8気筒DOHC32Vユニットを採用する。最新の工作技術を駆使し、各部の精度・バランスを徹底的に向上。また、タイミングベルトおよび補機駆動ベルトにオートテンショナーを組み込むとともに、エンジンオイルレベルセンサーや冷却水レベルセンサーも装着して一層のメンテナンスフリー化を図った。さらに、世界で初めて電子制御式油圧駆動クーリングファンを装備し、最適な風量の確保とファン騒音の低減を実現する。パワー&トルクは260ps/5400rpm、36.0kg・m/4600rpmを発生した。組み合わせるトランスミッションには、最新仕様のETC-iで制御する4速ATをセット。強大なパワーを確実に駆動力へと変換した。


4輪ダブルウィッシュボーンの足回りは、グレードによって内容を変えていた。標準モデルのA仕様と上級グレードのB仕様はコイルスプリング式。ただし、B仕様にはダンパーの減衰力が変えられる“ピエゾTEMS”を組み込んでいた。フラッグシップモデルとなるC仕様は、ホイールストローク感応型の電子制御式エアサスペンションを装備する。トヨタの技術を結集したこの最新式エアサスは、フラットで快適な乗り心地が味わえる機構として好評を博した。

 

 

■高級車セグメントに強いインパクトを与える

 

走行時の高い静粛性は、海外メーカーに衝撃を与えた。ウォールナットと本革に包まれたラグジュアリーな居住空間に、マイコン制御のオートエアコン等の先進機能をおごる


バブル景気真っ只中ということもあり、セルシオは売れに売れた。最も人気が高かったのはフラッグシップのC仕様。当時は「付けられる装備は、すべて付けてくれ」と要望するお金持ちユーザーが数多くいたのである。


1992年8月になると一部改良が行われる。外装ではフロントグリルやサイドプロテクトパネルなどのデザイン変更、16インチホイール&タイヤの装着などを実施して魅力度をアップ。内装ではステアリング形状やシート表地の変更、木目パネルの採用部位の拡大、音声ガイド付きエレクトロマルチビジョンの設定などを敢行した。また、好調な販売状況を鑑みて月販目標を当初の1500台から2500台へと引き上げる。そして、1994年10月にはフルデルチェンジを実施し、第2世代となるUCF21/UCF20型に移行。月販目標台数は従来からさらに増やして3000台と、RVブームの最中でも強気の姿勢を示していた。


セルシオおよびLS400の大ヒットは、海外の高級車メーカーにもインパクトを与えた。とくに走行時の高い静粛性や樹脂パーツの仕上げのよさ、そして製作時のコスト面などが脚光を浴び、結果的に従来の高級車造りの概念を大きく変えることとなる。デビュー後はトラブルの少なさ、装備品の信頼性の高さ、メンテナンス性のよさでも注目を集めた。さらに「大衆車メーカーでも高級車のカテゴリーに進出できる」という事実が証明され、後のフォルクスワーゲンなどの車種戦略にも多大なる影響を及ぼしたのである。

 

 

シトラスのクルマ情報をInstagramで!
『car lovers by citrus』>>https://www.instagram.com/citrus_car/

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

大貫直次郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ