痴漢問題は女性専用車両では解決しない! スポーツに学ぶ「ビデオ判定」の可能性

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編集部から今回のテーマをいただいたことで、筆者は電車に乗るたびにあちこちキョロキョロすることになってしまった。東京にいればもちろんそんなことはしない。最初にテーマを見たときにはドイツのベルリンにおり、原稿はスイスのチューリッヒで書いている。どちらも初めて滞在する都市ということもあって、現地でも痴漢が問題になっているのか確かめたかったのだ。しかし悲しいかな筆者はドイツ語がまるで分からない。そんなこともあって痴漢関連のポスターなどを見つけることはついにできなかった。

 

ところが同じヨーロッパのイギリスでは、鉄道車両での性犯罪が急増していることから、対策のひとつとして1977年を最後に廃止していた女性専用車両の復活が議論されたという。

 

復活。つまりイギリスにはかつて女性専用車両が存在していた。そのことを知って驚く人がいるかもしれないが、世界には宗教上の理由で女性専用車両を用意している国もある。たとえばイスラム教信者が多い国では、女性と男性の乗る車両を完全に分けていることもある。

 

ただしそれ以外の理由で女性専用車両を設定したのは日本が最初かもしれない。驚くことに今から100年以上前の1912年、東京の中央線に「婦人専用車」が用意されたからだ。このときはすぐに廃止されたようだが、第2次世界大戦後に「婦人子供専用車」が登場。こちらは1970年代まで続いていた。

 

イギリスの話に戻ると、女性専用車両を復活すべしという提案は、根本的な対策にならないという理由で結局却下されたそうだ。ではドイツやスイスはどうなのか。ということで最初の体験談に話を戻すと、ちょっと驚いたことが2つあった。

 

ひとつは物価は高いが景観は美しいチューリッヒの街をゴトゴト走る路面電車の天井に監視カメラがついていたこと。もうひとつは壁の崩壊からもうすぐ30年を迎えるベルリン地下鉄の車体外側に、車いすやベビーカーと合わせて監視カメラのステッカーが貼ってあったことだ。もちろんカメラの設置は痴漢だけが理由ではないだろう。車両の中で起こった暴力行為や窃盗など犯罪全般を防止するための対策だと認識している。イギリスや日本で女性専用車両が走り始めた頃は、犯罪防止のために鉄道車両にカメラをセットするという発想はなかっただろうし、コストがかさみすぎて不可能だったはずだ。

 

しかしスポーツの世界では、サッカーや野球のみならず相撲まで、人間の審判(相撲の場合は行司)の判定が疑わしいときにビデオ判定を導入している。インターネットの普及もあって、さまざまな人がさまざまな角度でスポーツを見るようになった。昔は「俺がルールブックだ」と豪語したプロ野球の審判がいたそうだが、そんな主張は21世紀には通用しにくくなっている。

 

犯罪についても同じようなことが言えるのではないか。当事者同士の記憶を頼りにして事件か否かを判断するのは正確性を欠く。もちろんそれは痴漢に限らず暴力や窃盗など、鉄道車両犯罪についても言えることだ。犯罪は可能な限り科学的かつ客観的に判断すべきであると思うし、それが抑止力につながるのではないだろうか。

 

それにビデオカメラは女性専用車両とは違い、痴漢以外の犯罪にも効果がある。合理的という理由もあるけれどそれだけではない。日本は痴漢を犯罪と考えていない人、もっと軽いコトだと考えている人が多いような気がするからだ。カメラによって暴力も痴漢もチェックする姿勢を鉄道会社が示せば、痴漢も立派な犯罪であるという認識が広まるのではないか。

 

日本の鉄道車両も一部、カメラ設置を始めているけれど、1日も早く大都市圏の車両すべてに導入するのが、女性専用車両の何百倍も効果的な痴漢対策ではないかと思っている。

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森口将之

森口将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材し、雑誌・インターネット・講演などで発表するとともに、モビリティ問題解決のリサーチやコンサルティングも担...

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