“割引きシール”を悪用!「心の貧困」が支配する絶望老後。Gメンが明かす老人万引きの実態とは?

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『万引き老人』(伊東ゆう/双葉社)

 

万引き老人』――社会の暗部をのぞきこむようなタイトルだ。

 

失うものがない人間は、一番強い。その意味でいうと、人生をあきらめている高齢者はかえって最強。刑務所も高齢受刑者であふれ、介護施設化しているというが、逮捕さえしてもらえない高齢犯罪者は、本当に最底辺を生きている。

 

『万引き老人』(双葉社)の著者・伊東ゆうさんは、スーパーやドラッグストア、ホームセンターなど小売販売店における保安員、いわゆる「万引きGメン」である。およそ16年で4000人以上の万引き犯を捕まえてきた経験を持ち、現役の保安員でもある。

 

本書にはさまざまなケースの高齢者による窃盗、「万引き老人」が紹介されている。アベノミクスからも置き去りにされた彼らの実態を垣間見ることができる労作。

 

読みすすめるごとに、心が痛む。高齢者が万引きをする理由はさまざま だが、なかでも「うーん」とうなってしまうケースは「心が貧しい」と「孤独」が原因のケースだ。

 

まず、「心が貧しい」ケースだ。

 

50代の息子と同居している83歳のある女性は、閉店時間や賞味期限が近づくと惣菜や弁当、生鮮食品などに貼られる「割引きシール」を悪用する。なんと通常単価の商品に貼り替えていたのだ。わずか数十円を節約するために、手の込んだ手口を思いついたようだ。そして、経験の浅い女子高生のバイトと思われるレジに並んで会計しようとして捕まった。

 

「節約っていうか……。息子が働かないから、年金だけじゃ足りなくてねぇ」。同様の犯行は繰り返されていたようだが、結局この女性は警察で高齢を理由に拘留はされず、在宅調べとなり、その日のうちに釈放。彼女はのちに被害弁償し、「これをきっかけに息子が働いてくれたらいい」と、悪びれることもなかったという。

 

「金を出して買うのがもったいないから盗んだ」――身勝手な論理を主張するのには、あきれるばかりだ。伊東さんによれば、ここ十数年で、生活の貧しさよりも心の貧しさ・心の隙間を埋めようとするあまり、犯行に至る老人は増えているという

 

次に「孤独」のケースだ。

 

60代後半のある男性は、妻の墓参り前に万引きし、保安員が目を離したすきに服毒自殺をした。ジャケットの内ポケットに遺書をたずさえていた。上場会社の部長だったが、投資に失敗してホームレスとなり、「もう2日も食べていないんだ」と言っていたという。

 

決して「上から目線」ではなく単純に、彼の孤独な生活に対し、何かできることがあったのではないかと強く思う。悲しくなると同時に自分の無力を感じてしまうケースだ。

 

だが、光明が見えるケースもある。

 

身寄りがなく、友達もいないという60代前半の女性。会社の倒産により仕事を失い、絶望感と孤独感から自殺を思い立ち、スーパーで包丁を万引きして捕まった。伊東さんは、生活保護や失業保険の存在を話し、彼女が自殺を思いとどまってから2年後、偶然にもかのスーパーで再会。彼女はなんとか暮らせているといい、涙を流して「あの時、捕まえてもらえなかったら、どんなことになっていたかと考えると、ゾっとします。あなたに捕まえてもらって、本当によかった」と感謝されたという。捕捉は彼女を救ったのだ。

 

万引きは、決してなくならない。だが、防ぐことはできる。伊東さんは「店内声かけ」で、捕まえることではなく、店員のみならず買い物客も盗みを働いた人に声をかけることで、万引きを未遂に終わらせることを推奨している。

 

現実を知るとキツイものがあるが、光もある。トシをとってもがんばらなければ、という気分になる1冊だ。

 

文=塩谷郁子

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