最高速350km/h超! F1マシンと同じ心臓を持つハイパーAMG

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2017年のフランクフルトショーが開幕した(一般公開日は9月14日~24日)。巨大なホールをまるごと占有するメルセデス・ベンツのセンターステージで世界初公開された車両は2台あった。1台は『コンセプトEQA』である。


メルセデス・ベンツは2016年に電動車両専用のブランドの「EQ」を立ち上げた。第1弾はSUVだったが、今回のショーで発表されたのは、3ドアハッチバックである。メルセデス・ベンツの車種ラインアップにあてはめれば、Aクラスに相当する。


もう1台の世界初公開車両も、モーターとバッテリーを積んでいる点でコンセプトEQAと同類だ。だが、なんというか、住んでいる世界が違う。なぜなら、F1マシンが搭載しているのとまったく同じ電動パワートレーンを積んでいるからだ。

 

右の人だかりができているモデルが『メルセデスAMGプロジェクト・ワン』

 

■プライスタグは“億単位”


車名は『メルセデスAMGプロジェクト・ワン』という。メルセデス・ベンツの上級ブランドであるAMGの誕生50周年を記念して企画されたコンセプトカーだ。言ってみれば2シーターのハイパーカーだが、世界最速の速さを生み出す原動力を積んでいるのが、このクルマの最大の特徴だ。それだけで、このクルマのハイパーな価値は決まったようなものだ。


1995年、当時ウイリアムズと組んでF1に参戦したルノーは、3.5L・V10自然吸気エンジンをエスパス(ミニバンです)の車両ミッドに搭載した『ウイリアムズ・ルノー・エスパスF1』を製作したことがあった。姿形はミニバンなのに(かなりエグイ格好にスタイリングされてはいたが)、走行中に発するのはF1エンジン独特の高回転サウンドで、そのミスマッチ感に興奮した覚えがある。


残念ながらエスパスF1はデモンストレーション走行をしただけで終わったが、プロジェクト・ワンは市販が予定されている。価格は未公表だが、日本円に換算して億単位の予算が必要になるのは間違いない。それでも世界を見渡せば、「買う!」と即座に手を挙げるカスタマーが大勢いそうだ(実際、いるらしい)。メルセデス・ベンツの展示ホールでは、となりに並ぶEQAが気の毒なほどに、プロジェクト・ワンの周囲には人がたかっていた。

 

 

■F1のポテンシャルを持ちながら快適装備も充実


さて、車両の概要に移ろう。前述したように、プロジェクト・ワンはF1マシンが搭載するハイブリッドシステムをほぼそのまま搭載している。具体的には、2017年のF1シーズンを戦うメルセデスAMGペトロナスの「W08 F1 EQ Power+」が搭載するパワートレーンだ。


1.6L・V6直噴ターボエンジンに運動エネルギー回生(MGU-K)と熱エネルギー回生(MGU-H)の2種類のエネルギー回生システムを組み合わせた、複雑なハイブリッドシステムである。排気のエネルギーを電気エネルギーに変換するMGU-Hをロードゴーイングカーに搭載するのは世界初だろう。その意味でもプロジェクト・ワンは画期的だ。

 

最高出力は1000馬力以上。最高速は350km/h以上。0-200km/hの発進加速は6秒以下


サーキットを走るW08 F1 EQ Power+とプロジェクト・ワンが異なるのは、モーターの数だ。F1はMGU-KとMGU-Hの2基を搭載する。一方、プロジェクト・ワンはMGU-Kを2基追加し、全部で4基のモーターを搭載する。追加の2基はフロントに配置。左右独立して制御することが可能な設計だ(つまり、トルクベクタリングが可能)。


プロジェクト・ワンが搭載するMGU-Kが1基あたり120kWの最高出力を発生するのはF1と同じ。フロントには2基搭載するので、合わせて240kW。リヤはエンジンとMGU-Kの出力を合わせて500kW以上の出力を発生すると発表されている。前後合わせた総合出力は740kW以上。馬力に換算すれば1000馬力以上で、最高速は350km/h以上に達する。ホンモノのF1と同等だ。0-200km/hの発進加速は6秒以下である。


プロジェクト・ワンが搭載するリチウムイオンバッテリーのセル(バッテリーを構成する最小単位)もF1と同等なら、冷却システムもW08 F1 EQ Power+と同様のコンセプトを受け継いでいるという。ただし、日常の使い勝手を重視し、バッテリー容量は大幅に増加。フロント2基のモーターにのみ電気エネルギーを与えて走ることで、最長25kmのEV走行が可能だという。


8速なのはF1と同じだが、耐久性や快適性(主に音)の面からトランスミッションはプロジェクト・ワン専用に設計した。F1と同じセンターロック式のアルミ鍛造ホイールも専用設計。「セミカバー」と呼ぶリング状の部品はカーボンファイバー製で、空力性能を向上させるためだ。注意深く見るとセミカバーの外周にスリットが設けてあるが、これはブレーキの放熱を助けるためである。

 

F1と同じセンターロック式のアルミホイール。ブレーキ放熱用のスリットが見える


プロジェクト・ワンはF1のパワーユニットを単にロードゴーイングカーに載せただけのクルマではない。性能に影響する些細な部分まで、開発者の目が行き届いている。そのスタンスもF1と同じだ。ルーフのシャークフィンはF1由来で、高速時のスタビリティ確保に貢献する。ステアリングホイールは上下がフラットなF1タイプだが、ロードゴーイングカー向けである証拠に、エアバッグが組み込まれている。

 

ステアリングはF1タイプ。エアバッグが組み込まれている


エアコンは標準装備。パワーウインドウも同様だ。F1パワーユニットのポテンシャルを解き放つために、ドライバーとパッセンジャーが「我慢」を強いられることはなさそう。これまでは、F1ドライバーにならなければ、F1マシンが搭載するパワーユニットの真価を実体験することはできなかった。だが、プロジェクト・ワンは広く門戸を広げた(実際に手にすることができるのは、ごく少数であっても)。その意味で、画期的である。


メルセデス・ベンツ、そしてAMGよ、夢をありがとう(庶民代表より)。
 

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世良耕太

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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