【中年名車図鑑】「かっとび」「韋駄天」「辛口」…さまざまなキャッチを冠したFFハッチバック

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大貫直次郎

コンパクトカーのFF化の流れに抗い、FRの駆動システムで販売され続けたKP61型系スターレットは、1984年になるとついにFFレイアウトに刷新した3代目のEP71型系へと切り替わる――。今回は“かっとび”や“韋駄天”のキャッチフレーズで人気を集めた第3世代のスターレット(1984~1989年)で一席。

 

 

【Vol.38 3代目 トヨタ・スターレット】


トヨタ自動車のエントリーカーに位置する“小さな星”ことスターレットは、続々とFF(フロントエンジン・フロントドライブ)化するコンパクトカー群のなかにあって、FR(フロントエンジン・リアドライブ)の駆動レイアウトを貫いていた。メカニズムの信頼性や開発スタッフの豊富な経験値などがFRを踏襲してきた理由だったのだが、1980年代が進むとパッケージ効率に優れる2ボックスのFFコンパクトカーが人気を集めるようになり、FRのままでは市場の多様化に対応しきれなくなっていた。こうした市場の動きを鑑みたトヨタの開発陣は、次期型スターレットのFF化を決断する。開発テーマは新時代をリードする“ハイコンパクト&スポーティ”の創出。これを具現化するために、プラットフォームからシャシー、ボディ、エンジンなど、すべてを新規に開発する方針を打ち出した。

 

 

■“ハイコンパクト&スポーティ”をテーマにエントリーカーを全面改良

 

3代目は“かっとびスターレット”のキャッチフレーズで登場した。3ドアと5ドアの2タイプのボディ構成。スポーツグレードには「12VALVE」のステッカーを装備する

FF化した3代目スターレットは、EP71の型式をつけて1984年10月に市場デビューを果たす。キャッチフレーズは“かっとびスターレット”。スポーティで軽快な走りが楽しめる新世代コンパクトカーに仕立てたことを、この刺激的な言葉に込めていた。ボディタイプは3ドアハッチバックと5ドアハッチバックの2タイプを設定。グレード展開は3ドアにスポーティ系のSiリミテッド/Si/Riと上級および標準仕様のXLリセ/XL/DX/DX-A/STDを、5ドアにスポーティ系のSiと上級および標準仕様のSE/XLリセ/XL/DX/DX-Aを、バンモデル(3ドアハッチバック)にCD-L/CD/CSをラインアップした。ちなみに、3代目スターレットはCMでも注目を集める。藤山一郎が歌う『丘を越えて』をBGMに、アメリカの伝説的な喜劇俳優のバスター・キートンが出演した映画シーンを絡ませてスターレットの躍動的な走りを見せる映像は、“かっとび”ぶりが見事に表現されていた。


車両デザインについては空力特性に優れたオーバルフラッシュフォルムとワイドトレッドを基本に、端正かつ親しみやすい2ボックススタイルを構築。スポーティグレードにはエアロパーツ類やサイドマッドガード、テープストライプなどを装備する。ボディサイズは従来比でホイールベースが同寸法(2300mm)ながら55~120mm短く(3700mm)、55mm幅広く(1590mm)なった。FF化によって広さが増したインテリアは、余裕のある居住空間を確保するとともに質感をアップ。また、スポーティグレードの前席にはホールド性の良い新開発シートを、女性向け仕様のリセにはカーブスライド式ドライバーズシートを装着した。

 

FF化したことで居住スペースの快適性は大幅に向上。スポーツグレードのフロントシートはホールド性に優れていた

搭載エンジンにはOHCクロスフローやデュアルインテークの3バルブ(吸気バルブ×2/排気バルブ×1)、ツインスキッシュ型の燃焼室といった新技術を組み込んだ新設計のレーザー2E-12VALVEユニットの3タイプを設定する。スポーティグレードにはEFI-D(電子制御燃料噴射装置)およびマイコン制御方式のTCCSをセットした2E-ELU型1295cc直列4気筒OHC12Vエンジン(93ps/11.3kg・m)を搭載。上級および標準仕様には2E-LU型1295cc直列4気筒OHC12Vエンジン(81ps/11.0kg・m)を採用し、燃費志向ユニットとしてパーシャルリーンシステム付き(76ps/10.7kg・m。10モード走行燃費23.0km/l)を設定する。バンには2E-LJ型1295cc直列4気筒OHC12Vエンジン(81ps/11.0kg・m)を積み込んだ。組み合わせるトランスミッションには、2E-ELU型ユニットに5速MT、2E-LU型ユニットに5速MT/4速MT/3速AT、2E-LJ型ユニットに4速MTをセット。懸架機構は新世代のPEGASUSサスペンションで、フロントにL型ロアアームを配したマアクファーソンストラット式を、リアにトレーリングツイストビーム式を採用する。操舵機構はラック&ピニオン式で、スポーティグレードにはクイックなギア比を、SEおよびリセにはエンジン回転数感応型パワーステアリングを導入。スポーティグレードの足回りには、前ベンチレーテッドディスクブレーキや60扁平タイヤなどを奢っていた。

 

 

■“韋駄天ターボ”の登場でさらに人気がアップ

 

スターレットの人気を決定づけたターボモデル。キャッチフレーズは“韋駄天ターボ”。写真のターボSとターボRを用意する

デビュー当初から好調なセールスを続けたかっとびスターレットは、1986年1月になるとその人気をさらに高めるスポーツモデルを追加する。2E-ELU型ユニットにインタークーラー付きターボチャージャーを組み込んだ2E-TELU型1295cc直列4気筒OHC12Vターボエンジンを搭載するターボS/ターボRだ。キャッチフレーズは“韋駄天ターボ”。過給圧が2段階に切り替えられる2モード・ターボシステムを採用し、パワー&トルクは標準モードで105ps/15.2kg・m、ローモードで91ps/13.4kg・mを発生した。また、外装には大型ルーフエンドスポイラー等のエアロパーツやINTERCOOLER turboデカールなどを、足回りにはストラット頂部パフォーマンスロッドや強化ダンパー&コイルスプリングなどをセット。ターボSには5速MTのほかに2ウェイOD付4速ATを用意した。


1986年12月にはマイナーチェンジを行い、内外装の一部変更とともに1N型1453cc直列4気筒OHCディーゼルエンジン(55ps/9.3kg・m)搭載車のNP70型を追加する。1987年12月になると再度のマイナーチェンジを実施。ターボモデルはエンジンのセッティング変更によって最高出力が標準モード110ps/ローモード97psにまでアップし、同時にグリル一体フォグランプやリアツインスポイラーなどを装備してホットハッチ感を引き上げる。また、キャッチフレーズは“辛口ターボ”に刷新された。さらに、1988年4月にはキャンバストップ仕様を追加。キャッチフレーズは辛口ターボとの対比で“甘口キャンバストップ”と称した。そして、1989年12月になってフルモデルチェンジが行われ、第4世代のEP82/NP80型“青春のスターレット”に移行したのである。


ところで、3代目スターレットは車歴を通してモータースポーツで活躍したモデルでもあった。ベース車は自然吸気のRiと過給器付きのターボR。参加カテゴリーは多岐に渡り、ラリーやダートラ、ジムカーナ、サーキットレースなどで活用される。また、TRD(Toyota Racing Development)の企画開催によるワンメイクレースも行われた。当時のモータースポーツ界では、「FFの基本を覚えるなら、まずK10(マーチ)かEP71(スターレット)に乗れ!」というのが定説だったのである。
 

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大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

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