【今週の大人センテンス】マンドリルを守りたい気持ちが使わせた飼育担当者の強い言葉

話題

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第76回 行間からにじみ出る「大人」への怒り

 

「興味本位で禁止行為をして、もし動物がケガをしたら、責任を取れますか?」byおびひろ動物園のマンドリル飼育担当者

 

【センテンスの生い立ち】

北海道「おびひろ動物園」のマンドリル舎の前に貼られている来園者へのメッセージが、Twitterで話題になっている。メッセージは全部で3枚。そのうちの1枚が、マンドリンをわざと興奮させるような行為をする人に、強い調子で苦言を呈している。11月1日の夕方、おびひろ動物園のファンがメッセージの写真をtweetしたことをきっかけに、その存在が拡散。動物園への共感の声が巻き起こり、ネットニュースなどでも取り上げられた。

 

【3つの大人ポイント】

  • 書かざるを得なかった苦渋の思いが伝わってくる
  • 注意すると同時に、丁寧なお礼の言葉も述べている
  • ほかの動物、ほかの動物園にも思いを馳せている

 

不特定多数の人にせよ目の前のひとりにせよ、誰かを注意したり間違いを指摘したりするのは簡単ではありません。どっからどう見てもよくない行為だったとしても、人間という困った動物は、注意や指摘を素直に聞き入れることが極めて苦手です。苦しい言い訳をしてみたり、言い方に文句をつけて逆ギレしてみたり、その場はおとなしく聞いていても逆恨みの気持ちを抱いてしまったり……。

 

今日もネット上には、自分には関係ないくせに、したり顔で「言っていることは間違っていないけど、言い方がよくない」「不愉快に思う人もいるのではないか」なんてことを言っている人が山ほどいます。「いるのではないか」じゃねーよ! 自分が不愉快だって言えばいいじゃないか! いや、すいません、話がそれました。ともかく、いちいちイチャモンをつけたがるおせっかいな人たちのおかげで、個人にせよ団体にせよメディアにせよ、批判を過剰に警戒してどんどん当たり障りのないものになっています。

 

そんな窮屈な雰囲気の中、北海道の動物園が貼り出した強い調子のメッセージが大きな話題を呼び、「泣ける」「飼育員さんの勇気に感動した」と称賛を集めています。貼り出されたのは、帯広市にある「おびひろ動物園」のマンドリルが飼育されている建物。オスの「キーボー」(13歳)と、メスの「サラサ」(10歳)の2匹が住んでいます。現在、3枚のメッセージが貼り出されていますが、そのうちの1枚に書かれている文面は次のとおり。

 

大人の方へ

張り紙を見た方の中には、

わざとベロを出したりする人もいます。

若いカップルの男性側や大学生など、

20歳前後の人が多いです。

興味本位で禁止行為をして、もし動物がケガをしたら、

責任を取れますか?

動物園の動物は檻の中に閉じ込められているがために、

人間の方が優位だと錯覚しがちです。

ですが忘れないで下さい。

動物園の動物は、あなたのおもちゃではありません。

 

動物園側は、いきなりこれを書いたわけではありません。今年の夏に貼り出された1枚目のメッセージには、「おねがい」として

 

くちをあけないで

ベロをださないで

そっと見て下さい

キーボーがコウフンして

しまいます。

 

とあります。それを見て、わざわざベロを出して、マンドリルを興奮させる不心得者が後を絶たなかったのでしょう。このままではマンドリルが危険だと判断して、10月中旬にあえて強い言葉で注意を促しました。拡散のきっかけとなったtweet(画像あり)は、こちらで紹介されています。

 

10月中旬に貼り出されたのは、上で引用したメッセージだけではありません。同じく「大人の方へ」で始まる、もう一枚のメッセージがあります。文面は次のとおり。

 

静かに観察してくださっている皆様、

お心遣い痛み入ります。

いつもありがとうございます。

キーボーのストレス軽減のため、ガラスにシートを貼り

視線を遮るようにして展示しています。

見えにくいかと存じますが、何卒ご理解の程

よろしくお願い致します。

 

わざとマンドリルを興奮させる困った来園者は、きっとごく一部に過ぎません。苦渋の思いで不心得者に強い言葉を使ういっぽうで、静かに観察している大多数の来園者に向けて、丁寧なお礼やなぜこういう展示のやり方をしているか詳しく説明しているところに、動物園側の誠実な姿勢が感じられます。

 

たしかに、強い言葉で書かれたメッセージだけだと、人間の悲しいサガで、反射的にカチンとくる人もいるかもしれません。しかし、善良な来園者に向けたメッセージを同時に掲げることで、無用の反発を防ぐことができます。多くの人の心に「そんなケシカランやつらがいるのか。見つけたら注意してやる」という動物園に味方する気持ちを抱かせる効果もあるでしょう。

 

withnewsの記事によると、注意書きを書いた「おびひろ動物園」のマンドリルの飼育担当者は、ネット上で話題になったことについて、「どの動物園でも禁止行為はあります。今回のことがきっかけとなって、マンドリルだけでなく、他の動物に対しても配慮しながら観察してくれる人が増えたらと思います」と話しているとか。批判は覚悟の上で、マンドリルを守るために強い言葉を使った勇気、善良な来園者に向けての気遣い、そしてほかの動物や動物園にも思いを馳せているところに、深い大人力を感じずにはいられません。

 

それぞれの動物にはそれぞれの事情があります。「観察させてもらっている」という気持ちを忘れず、敬意を持って対峙したいもの。マンドリルをからかっていた若者たちは、人間様である自分たちのほうが偉いと思っていたかもしれませんが、きっとマンドリルに憐みの目を向けられていたことでしょう。おびひろ動物園が貼り出したメッセージにもにもマンドリルにも、たくさんのことを教えてもらいました。

 

ちなみに、このニュースをきっかけに「キーボーたちに会いたい!」と思った方もいるかもしれません。おびひろ動物園は来年2月25日(日)まで「冬期開園」期間中で、原則として開園は土日祝日だけ。開園時間も短めで11時~14時です。ご注意ください。

 

 

【今週の大人の教訓】

礼を尽くすことによって、強い言葉がさらにインパクトを増す

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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