“オヤジ臭狩り”に“ニオイのいじめ”…現代日本の「無臭化社会」が行きつくディストピア

ヘルス・ビューティー

 

最近「スメハラ」つまり、スメルハラスメント(ニオイに関わるハラスメント)という言葉を良く耳にするようになりました。これは、たとえばオヤジ臭やタバコの臭いが原因の迷惑行為を指すようですが、近年、体臭や口臭の問題が社会的にクローズアップされてきたようです。背景として考えられる理由は様々ですが、大きな要因の一つは生活環境から悪臭が減り、多くの人が悪臭に対して敏感になったことでしょう。

 

 

■現代人は“ニオイ過敏症”だ

 

戦後の高度経済成長期は、大気汚染も深刻で、生活の中に悪臭があふれていました。さらに、高い喫煙率を背景に受動喫煙や分煙という発想はなく、家族との食事の際も父親は当然のようにタバコを吸いました。また、水洗便所の普及も遅れていたため、家庭のトイレや公衆便所は「汲み取り式」がほとんどでした。数十年前の日本は、生活に悪臭があふれていたのです。

 

しかし最近は、環境対策も進み、空気も水もきれいになりました。喫煙や受動喫煙のリスクも徐々に周知されています。下がりゆく喫煙率と対照的に、禁煙や分煙エリアが増えました。トイレもほとんど水洗化され、生活から悪臭が激減しました。

 

一方、このような「無臭化社会」で育った人々は、ニオイや不潔感に抵抗力がなく、過度に敏感になりました。その結果「クサイ」「キタナイ」といういじめが社会に蔓延。追い打ちをかけるように、ニオイ対策製品を販売するメーカーの広告宣伝が、“ニオイ過敏症”を助長しました。

 

春から夏にかけて、テレビをつけるたび「あなたのワキは臭い!」「あなたの足は臭い!」「あなたの○○は臭い!」と連日連夜、CF(コマーシャルフィルム)でニオイの害を刷り込まれ続けます。その結果、ニオイとばい菌に対する過敏症はますますエスカレートしてしまいました。

 

 

■「オヤジ臭狩り」の元凶は…?

 

これに拍車をかけたのが、「オヤジ臭」ともいわれる「加齢臭」の原因物質の発見です。資生堂はノネナールを、ライオンはペラルゴン酸をそれぞれ発表し、世の中はさしずめ「オヤジ臭」狩りの予想を呈しました。

 

「オヤジ臭」という表現から、脂ぎった中高年男性特有の問題だと誤解されやすいのですが、実は女性にも加齢臭はあります。女性の加齢臭が目立たないのは、化粧や香水の香りでマスキングしているからです。また、高齢化社会に突入し、「老人臭」など介護にまつわるニオイも社会問題化してきました。排泄物に関する悪臭はもちろんですが、老人特有の何とも言えない体臭に我慢できない介護者は少なくないと聞きます。

 

「悪臭」ばかりがクローズアップされがちな日本。いつの日か、まっとうな香りの文化が定着するのでしょうか。しかし、喫緊の課題はニオイの暴力から、スメハラから庶民を救うことでしょうか…。

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ニオイ文化の伝道師

大泉高明

東京農業大学、東京教育大学大学院でフェロモンを研究。全薬工業で天然の制癌剤を開発し、大和生物研究所でクマ笹医薬品の研究に携わる。医学博士。東京農業大学客員教授。蓼科笹類植物園理事長。日本家庭薬協会理事...

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