実に巧妙で的確な人選…『NHK紅白歌合戦』68年の蓄積は半端じゃない!

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出典:「第68回NHK紅白歌合戦」公式サイトより

2017年で第68回目を迎える『NHK紅白歌合戦』。かねてから低迷が指摘されていた視聴率はこの10年ほど40%前後で落ち着いている。1980年代半ばまで、視聴率70%を超えて当たり前だった頃からすれば寂しい限りだが、これだけ趣味嗜好の細分化した現代になお4割の人間が観ているというのは凄いことなのかもしれない。大晦日に紅白を観るというのはまだまだひとつの国民的行事なのだろう。

 

 

■紅白ありきでドラマ主題歌オファー、サプライズ枠に安室奈美恵…

 

昔、紅白と言えばその年のヒット曲のオンパレードだった。しかし、皆が知るヒット曲がほとんど生まれない昨今では、番組を観て初めて曲を知ったり、聴き覚えのある曲だと思えば過去のヒット曲だったと言う具合。今年の出演者と歌唱曲も公式サイトで公開されているが、初めて歌唱される曲でみんながかろうじてわかるのは竹原ピストルの『よー、そこの若いの』くらいだろうと思う。これもリリースは2015年だけど……。

 

これほど音楽的に困難な時代、制作サイドはどのような意図をもって国民的音楽番組の出演者、歌唱曲を選んでいるのだろうか。

 

番組を作る以上、最低限の視聴率を担保できる“定番枠”の確保は必須だ。今年の紅白の場合、五木ひろし、郷ひろみ、松田聖子、嵐、AKB48などがそれに当たる。番組への出演経験も豊富でみんなが納得するビッグアーティストだ。

 

歌唱曲は皆ヒットメドレーだったり代表曲というチョイスだが、松田聖子だけは11月にリリースしたばかりの『新しい明日』(※NHKドラマ『マチ工場のオンナ』主題歌)。松田サイドから「新曲じゃないと出ない」と言った可能性もあるが、過去のヒット曲で出演したこともあるので、そもそも紅白ありきでNHKがドラマ主題歌をオファーしていたと考えるのが本筋だろう。

 

そして、紅白に欠かせないのが視聴者の「これは見逃せない」という心理を喚起させる“サプライズ枠”。歌唱曲についてはまだ公開されていないので何とも言えないが、桑田佳祐、安室奈美恵のブッキングはNHKの底力を見た気がした。

 

 

■“いまいちピンと来ない”アーティスト人選に隠れた戦略

 

数字にはさほど関係しなそうだけれど、NHKとしてのイチオシPRや将来への布石、音楽通への評判を気にして配置されるのが“初出場枠”だと思う。今回の紅白で初出場枠に当たるのはエレファントカシマシ、トータス松本、TWICE、三浦大知、丘みどり、SHISHAMO、竹原ピストル、Little Glee Monster、Hey! Say! JUMPの9組。

 

先に挙げた竹原ピストル、バンドシーンではもはや大御所のエレファントカシマシとトータス松本、高い歌唱力とダンスパフォーマンスに定評のある三浦大知、ジャニーズ事務所の寵児として圧倒的知名度をほこるHey! Say! JUMP以外は観てもいまいちピンとこないだろうが、選ばれたということはやはり相応の理由があるのだろう。

 

それぞれ説明したい。

 

TWICE 『TT-Japanese ver.-』

 

 

JYPエンターテインメントの韓流女性アイドルグループ。メンバー9人中3人が日本出身。2015年のデビュー以来、日韓で好調なセールスを記録している。特に楽曲『TT』は単なるヒットにとどまらず、泣き顔の振り付けが若い女性の間でちょっとした流行になった。

 

これまでドル箱だった2PMがオク・テギョンらの徴兵招集によりグループ活動できなくなったJYPエンターテインメントにとって今回の紅白出場は願ったり叶ったりの展開と言えるだろう。

 

 

丘みどり 『佐渡の夕笛』

 

 

民謡コンクール出身でアイドルグループでの活動経験もある女性演歌歌手。2015年から『NHK歌謡コンサート』『うたコン』などNHKの音楽番組の常連になっており昨年から紅白出場を有望視されていた。これまで最大のヒット曲は今年リリースの『佐渡の夕笛』(オリコン週間ランキング25位)、現在Twitterフォロワー6600人強(2017年12月26日)程度なので一般にはさほど知られた存在とは言えないが、NHKへの貢献や今後への期待が大きなカギとなったのだろう。

 

 

SHISHAMO 『明日も-紅白2017 ver.-』

 

 

メンバー3人とも20代前半の若きガールズバンド。ギターボーカルと曲作りを担当する宮崎朝子がTheピーズに影響を受けていたりと“今日日めずらしい”感もあるが、NTTドコモCMソングにも起用された『明日も』はポップで耳ざわりのいい応援ソング。YouTubeで1500万回再生されるヒットとなっている。今回ともに初出場となるエレファントカシマシと同じ所属事務所ということも選出を左右したのかしないのか。

 

 

Little Glee Monster 『好きだ。 ~夢を歌おうver.~』

 

 

5人組女性ボーカルグループ。17歳~19歳と若いが、子供時代から歌手としてコンテスト出演や音楽・芸能活動をしてきた実力派揃いで、そこらへんのアイドルグループとは明らかに一味違う。名門・ナベプロ所属ということもありNHKはじめテレビ出演、楽曲のメディアミックスも盛ん。現時点では女子中高生のファンが過半数らしいが、今後の展開によっては中高年まで支持を広げることも可能なポテンシャルを感じる。

 

以上、4組の初出場者について。彼・彼女らが選出された背景には現代の音楽界、芸能界の事情とNHKの意図がどのように作用しているかわかりやすく見える気がするのだがいかがだろうか。

 

なにかとケチをつけられやすい紅白だが、僕自身はこの記事を書いていて、番組企画として実に的確で巧妙な人選がおこなわれているとあらためて感じた。68年の蓄積は半端じゃない。

 

今後も日本に冠たる音楽番組として紅白歌合戦の永からんことを。そして……シンガーソングライター端くれとして、いつの日か出場したいなァなんて思ったり……。

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シンガーソングライター/音楽評論家

中将タカノリ

シンガーソングライター、音楽評論家。2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。深い文学性と、歌謡曲、アメリカンポップスをフィーチャーした音楽性で独自の世界観を構築している...

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