富士そばの経営哲学 アルバイトにもボーナスを出すのはなぜか?

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ダ・ヴィンチニュース

都内での打ち合わせや取材の道中、時たま店があり過ぎて「どこで食べようか」と迷ってしまうときがある。そんなとき、ふと入りたくなるのが「名代富士そば」で、昼飯時のギューギュー詰めな店内を申し訳なげに歩いてテーブルへと着き、注文したざるそばを勢いよくすすると、不思議と午後も「さあ、頑張ろう!」と思えるのだ。

 

名代富士そばの運営元は、複数の子会社からなるダイタングループ。立ち食いそば屋としての創業は1972年からで45年を迎えているが、その創業者である丹道夫さんが、経営哲学を込めた書籍『「富士そば」はなぜアルバイトにボーナスを出すのか』(集英社)を刊行した。

 

根本に流れる精神は「従業員をなるべく大切に扱う」だというが、いったいどのような経営手法が取り入れられているのか。その内容を紹介していこう。

 

 

■母親から教えられた「利益はみんなに還元する」という哲学

 

初めにやはり、目を引くタイトルにふれないわけにはいかない。正規労働者と非正規労働者の格差が叫ばれる現代。経営の効率化やコストカットに関心が向く世の中を考えると、名代富士そばが打ち出す「アルバイトにボーナスを出す」という取り組みは、ともすれば時代に逆行しているかのようにもみえる。

 

しかし、丹さんの心には、今もなお高校時代に母親から言われた言葉が残っているという。その言葉とは「利益はみんなに還元すること」。人間は平等と述べる丹さんは「もし経営者が事業で儲けた利益を独占して、従業員の給料を不当に減らしたりすると、現場の士気は下がります。サービスの質が低下します。お客様の足が遠のきます」と、経営戦略についての持論を展開する。

 

アルバイトにボーナスを出すというのは、もちろんその一環だ。名代富士そばでは、アルバイトにも働いた年数に応じて、ボーナスや退職金が支給されるという。会社にとっては「従業員こそが内部留保」と述べる丹さんだが、その真髄には“人が何よりも財産である”という強い意思も感じられる。

 

 

■富士そばでは流れているのは演歌? 真髄は人生の苦労や逆境

 

本書を読んで初めて知ったのだが、様々な人のそばをすする軽快な音が響く名代富士そばの店内には、演歌が流れているそうだ。これもじつは、今では「丹まさと」というペンネームで作詞家としても活動している、丹さんの発案により2001年頃からはじめた取り組みだという。

 

きっかけは、知り合いの作曲家に「丹さん、店で演歌を流しなよ」と言われたことだった。初めは周囲から「ラジオの方が良いんじゃないか」「若い人は抵抗ありますよ」と反対されたというが、今では「富士そばに来ると演歌が流れていて落ち着く」といった声があるほか、食後に演歌をじっくりと味わってから帰る女性を見かけたこともあるそうだ。

 

そして、演歌の魅力は「悲しさ」だと述べる丹さんは、経営にもその心が活かされていると伝える。根底にあるのは、人生の苦労や逆境。日頃から演歌を聞いていると「自然と苦労している人の気持ちがわかるようになる」というが、経営の場面でも「本当に苦労している従業員と、大変なふりをしながら、実際には手を抜いている従業員を見分ける」ためのヒントにもなるという。

 

今では、立ち食いそば屋の代名詞としても知られる名代富士そば。本書を読むと、その根底には丹さんの“義理人情”が端々に流れているのだと感じさせられる。経営哲学を知ることができるのはもちろん、読み終えるとなぜか心も温まるような一冊である。

 

文=カネコシュウヘイ

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