抜群の加速力を誇るモンスタートラック “ミッドシップ版・日野レンジャー”の実態

車・交通

 

ダカールラリーは約2週間を費やして砂漠や土漠、荒野を約1万キロ走り、総合タイムを競う過酷な競技だ。当初はパリ・ダカールラリーの名称でアフリカ大陸を主戦場に行っていたが、2009年から南アメリカ大陸に舞台を移して開催している(が、名称は「ダカールラリー」のまま)。


40回目となる2018年大会は1月6日から20日の日程で行われる。ペルーの首都リマでスタートし、アンデス山脈を南下してボリビアを抜け、アルゼンチン第2の都市コルドバでゴールするルートだ。


日野自動車は創立50周年の記念事業として、1991年にダカールラリーに初参戦した。以来、2018年大会で27回目(08年大会は政情不安のため中止)の参戦となる。もちろん、トラック部門での参戦だ。参戦車両は「ヒノノニトン」のデュトロではなく、初参戦時から一貫して、中型クラスの「レンジャー」を用いている。

 

 

■トラックなのにミッドシップ。荷室にエンジン搭載

 

通常のトラックとは異なり荷室にエンジンを搭載。ミッドシップレイアウトだ。荷室後部にはスペアタイヤを積載する

日野レンジャーは1997年にトラック部門の1~3位を占める快挙を成し遂げた。その後もトラック部門の総合順位で一桁をキープしていたが、南米に移った2009年にトラック部門のトップ10から脱落。これを契機に開発に鞭を入れることになった。当初、トラック部門には市販車部門しか存在しなかったが、2012年に改造車部門が設けられると、日野自動車も改造車クラスに移行。排気量10Lクラス未満にエントリーしている。


トラックは本来、荷物を運ぶためのクルマだ。だから、なにより荷物のためのスペースが重要で、荷物のためのスペースを最大限確保するため、エンジンは運転席があるキャビンの下に搭載するのが一般的だ。いわゆる「キャブオーバー」という形態である。


だが、砂漠や土漠や荒野を速く走るには、荷室うんぬんなどと言っていられない。大事なのは運動性能だ。だから、改造車部門に移行した2012年にエンジンをミッドシップに変更している。F1やル・マンのプロトタイプ、国内で言えばスーパーフォーミュラなど、サーキットを走るレーシングカーと同じ発想であり、レイアウトだ。エンジンはキャビンの下ではなく、キャビンの後方、いわゆる荷室スペースの前端に搭載されている。


そのエンジンは、1991年の参戦当初から一貫して直列6気筒ディーゼルを搭載している。当初の排気量は6.5Lだったが、1996年に8Lに変更。2014年に9Lに変更し、現在に至っている。排気量9Lのエンジンは本来、大型トラックのプロフィア向けで、現行レンジャーのエンジンは5L・4気筒である。最高出力は、8Lだった13年に485ps(馬力)だったが、排気量を9Lに増やした2014年に一気に600psに向上している。

 

 

■ライバルより2トンも軽い!?

 

エンジンの馬力勝負ではなく、車重を減らし、ターボチャージャーを活用する方向を選んだ


それでもまだ足りない。トラック部門にエントリーする競合は1000ps級のエンジンを積んでいるからだ。ならば日野レンジャーも1000psを目指すかというと、当面の目標は750psである。「足りないじゃないか」と思うかもしれないが、考えはあるのだ。


軽さで勝負するのである。日野レンジャーは1000ps級の競合より車重を約2t軽く仕立てている(約7.3t)。車重をエンジンの最高出力で割ったパワーウエイトレシオでは1000ps級の競合と勝負になる領域に到達しつつある。レギュレーションで最高速度が140km/hに制限されていることもあり、競技は最高速ではなく加速力の勝負になる(加えて、エンジンの出力を確実に路面に伝える駆動系や、悪路をものともしない柔軟な足回りも欠かせない)。軽い車重を生かし、パワーのハンデを跳ね返そうというわけだ。


ではどうやってパワーを向上させるかというと、大きなターボチャージャーを取り付けるのである。9Lのディーゼルエンジンに、13Lエンジン用のターボを組み合わせているのだ。2018年仕様は吸気を圧縮するコンプレッサーの径を大型化し、前年比プラス30psの700psを目指した。ちなみに、9L版市販仕様の最高出力は380psである。競合の7割程度の出力とはいえ、「悪路を走るモンスター」と呼ぶにふさわしい性能を手に入れている。


日野レンジャー・ダカールラリー仕様の豆知識的な技術をいくつか紹介すると、エンジンのミッドシップ化に合わせて、コンプレッサーで圧縮して高温になった吸気を冷やすインタークーラーも後方に移動させ、冷却性能を向上させている。燃料タンクは車両の左右に振り分けており、合計700Lを搭載することが可能。スポンサーロゴで埋まったボディは、軽量化のためターポリン(幌)を使用している。


エンジン後方の荷室スペースには、スペアタイヤを2本搭載。効率良く積み降ろしを行うために、専用のウインチも積み込んでいる(タイヤとエンジンで、荷室はほぼ一杯)。走行中に車内からタイヤ空気圧の調整を行えるCTIS(Central Tire Inflation System)を搭載しているのも、ダカールラリー車両ならではだろう。ロード(舗装路)3.5bar、トレイル(荒れ地)2.2bar、サンド1.2bar、クリティック(緊急脱出)前0.9bar後0.7barのプリセットを用意するほか、マニュアル操作で1輪ごとに空気圧を調整することが可能だ。


見た目はトラック(ま、過激ではあるけれど)だが、でこぼこ路面をものともせず抜群の加速力で高速移動するのが、ダカールラリーを走るトラックの実態である。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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