【男の娘・大島薫インタビュー】“極端な男性性”にとらわれた過去、そして現在は「頼りがいのある彼氏」!?

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見た目は美女だけど中身は100%男性な男の娘・大島 薫さん。このたび、同じ男の娘であるミシェルさんとの関係を綴った新刊コミック「男の娘どうし恋愛中。」(大島 薫、ふみふみこ)を上梓しました。それがあまりに愛に満ちているうえ、ジェンダー問題を問いかける作品だったんです。読んだあと、いてもたってもいられなくなり、大島 薫さんにお話を聞きに行ってきました。

 

 

――大島さんは男の娘になる前、いわゆる「男」だったのですよね?

 

大島 薫さん(以下、大島):そうです。めちゃくちゃ“男”でした。ボクはすごく“極端な男性性”にとらわれて生きてきたんです。両親からはものすごく「男らしく」と言われて育ったし。子どものころから、母親がクルマに乗るときはドアを開けるよう父親に教えられましたしね。そういう環境もあって「カバンを持つなんてダサい、ジーパンのポケットに財布だけ入れて出掛けるのが男だ!」とか、「鏡の前に立ってキメキメで服を選ぶのは情けない、そこら辺にかけてある服をサッと着て出掛けるのが男っぽい!」とかね。

 

 

——申し訳ないですが、そういう男性のこだわりは、女性にはまったく響かないです(むしろどうでもいい……)。

 

大島:男性だから男らしい、女性だから女らしいということはないですよね。人それぞれ個性があります。だけど男は「男だ!」ってこだわっているうちは、男でいられるんですよ。そのこだわりがなくなると見栄も張らなくなるし、努力をしなくなってどんどん男としてのアイデンティティは失われていくと思うんです。で、ボクはそういうしがらみから脱却しようと思って、今この見た目なんですけど。

 

 

——ずいぶん思い切った脱却ですよね、でも「男の娘どうし恋愛中。」のミシェルさんとの関係を読むと、大島さんはめちゃくちゃ「頼りがいのあるかっこいい彼氏」です。

 

大島:ミシェルはボクと違って「女の子として見られたい」「可愛いと言われたい」という気持ちが強いんです。ボク自身もそういう時期があったから、ミシェルが女でありたいという気持ちがあるなら、それは叶えてあげたいんです。だからボクが彼女を女性として愛する男性でいないといけないと思ってるんですよ。ほかの男性と比べても「この人が一番魅力的だな」って思ってもらえる行動を取るようにしていますね。

 

 

——聞けば聞くほど彼氏に欲しいかっこよさです。

 

大島:だから基本的に彼女に支払いをさせたことはないです。それにデートの途中で「ちょっと待って、足りないから降ろしてくるわ!」ってATMに駆け寄るっていうのはダサいですよね。ボクがもし女性の立場で「2件目に行きたいな」と思ったときに「じゃあお金下ろしてくるよ」って言われたら「あ、無理させちゃったかな」って思うじゃないですか。だから最初から「これ、一晩じゃ絶対使わないでしょ!」っていう額を持っていきます。「これぐらいは普通に持ち歩いてるよ」って示しておかないと、相手も気軽に誘いにくくなりますよね。お金を払わせることに気を遣ってしまうようになるし。

 

 

 

——でもそれは、大島さんが高給を稼いでいるからこそできるのでは……?

 

大島:そんなことないですよ。ボクは自分ひとりなら月に20万もいらないなと思っているんです。だけどミシェルがこの先、なにか望んだときに叶えてあげたいと思うから、もっと稼ぐ必要があるなと思い直しました。だからそれまでやらなかった仕事も受けるようにして、何でもトライをするようになったら、前の3倍くらいに収入が増えました。

 

 

——“男性として”がんばることはデメリットではないのですね。それに気を遣わせない気遣いは、男性と女性、両方の経験があるからこそわかることでしょうか?

 

大島:そうかもしれないですね。ボクは相手が求める満たしてほしいこと、言ってほしい言葉がわかるほうだと思います。特にミシェルに関しては同じ男の娘なのでよくわかるかな。例えば女性の友達に「お前、ホントに男みたいだな」って言ったとしますよね。でも意外と女性って悪い気がしなかったりするじゃないですか。異性ではなく友達としてちゃんと見てくれていると感じたりして。

 

 

——わかります、女という色眼鏡で見る前に、気を許してくれている感じがして私は嬉しいです。

 

大島:彼氏にそう言われたとしても、仲の良さの証だったりしますよね。「男みたい」という言葉には、フランクに接することができる相手という意味があると思うんですけど、それをミシェルやボクに言ってしまうと、ちょっと意味が違ってくるじゃないですか。ある意味そう思うことはミシェルを女性扱いしていないことにも繋がってしまうんだけど、そういう微妙な感情は、ボクが誰よりも理解しなくちゃいけないんですよね。

 

 

――著書には、ミシェルさんのトラウマも書かれていますね。複雑な家庭環境のなかで「男らしくいなきゃ」「期待に応えなきゃ」というプレッシャーがすごくあったのかなと感じました。

 

大島:そうですね。ミシェルも「お兄ちゃんなんだから泣かないの」と言われて育ってきて、男のときは全然泣かない人だったようです。お母さんや妹さんはわりとよく泣く人で「そんなことでなんで泣いてんの?」と思っていたようです。いまは自分のほうが泣き虫で、この本も読む度に泣いてる(笑)。小さいころから「男は泣かないもの」と教えられて、それが染み付いていただけなんですよね。女性の見た目になって女性扱いされることで自分の感情が解放されつつあって、泣きたいときに泣けるようになってきたんじゃないかな。

 

 

――それはいいことなのでしょうか?

 

大島:泣きたいときに素直に泣けることは、幸せなんじゃないかな。ミシェルと同じように「男らしさ、女らしさ」にとらわれている人たちは多いのではないかと思います。でも「女の子だから泣いていい」と考えるのはよくないと思っています。何かができないことやしないことを女性性のせいにするのは、人として魅力に欠けますね。

 

 

――女だから、男だからどうしなければいけないというのがそもそも違うということですね。

 

大島:この本に「薫ちゃんがずっと私のこと好きかどうかなんてわかんないじゃん!」というミシェルのセリフがあるんです。確かにそうだけど、ボクは恋愛ってそういうものじゃないの?と思うんですよ。でも親が離婚したという人に話を聞くと、すごくミシェルの気持ちに共感するんです。恋愛に対して根強い不信感があるみたいなんですね。でもそれをずっと抱えていくのは辛いことです。だからこの本のテーマは、ボクやミシェルが男性性を押しつけられた幼少期を取り戻し、離婚による不信感を取り戻していく「過去からの脱却」なんです。

 

 

――お話ありがとうございました。

 

大島さんは、ミシェルさんと付き合い始めたころ、会ったあとに必ずメモを取っていたとか。どんな食べ物が好き・嫌いといった、ふとした会話のなかで得た情報を書き込んで、忘れないようにしていたんだそうです。「この話、前にしたよね、覚えてないんだ?」ってことがあると、めちゃくちゃ興ざめですよね。大島さんの気遣いは目まいがするほど羨ましいです!

 

中身は驚くほど頼りがいのある大島さん。自信がとらわれていた「男らしさ」「男としてのプライド」をすっかり脱ぎ去ったからこそ、小さなことにはこだわらないし、人として寛容なのでしょう。視野の広さや、作品からにじみ出る愛情の深さも、大島さんの魅力です。

 

「男の娘どうしの恋愛って、どんな感じなの?」「というかぶっちゃけ、どうやってするの?」みたいな下世話な興味からこの作品を読む人も多いかもしれません。もちろん、そういった好奇心もしっかり満たされますが(笑)、それだけではなく、男性性、女性性、家族、恋愛……いろんな問題を突きつけられます。それが、ふみふみこさんのかわいらしい絵柄で、時にはコミカルに語られます。

 

間違いなく、2017年のベスト5に入るコミックです。

 

(文:和久井 香菜子)

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