久々の業績向上、マクドナルドの復活は本物か?

ビジネス

 

日本マクドナルドホールディングス株式会社(以下、マクドナルド)の業績が向上している。8月9日に発表された「平成28年第2四半期連結決算状況」によると、全店売上高は2050億1400万円(前年同期比19.2%増)、既存店売上高は3四半期連続で対前年比プラス。また、上半期の営業利益は平成26年以来、2期ぶりの黒字となった。

 

決算資料の数字を見れば、マクドナルドの業績が改善しているのは明らかだ。そしてマクドナルドの業績は、これから先もさらに改善していくことが予測される。その兆候は数字だけでなく、店頭からも見えてくる。

 

 

■店頭で次々に見える改善の兆し

 

マーケティングコンサルタントのルーティンとして、さまざまな業界の「現場」の定点観察をしている。マクドナルドに関しても、複数店舗の定点視察を長年に渡って行っている。現場は面白いもので、企業の未来を示してくれる。マクドナルドの業績が悪化した時も、改善し始めた時も、数字より先に現場の状況が改善していった。マクドナルドの現場はすでに改善基調にある。ここ最近、その傾向がさらに良くなっているのだ。

 

明らかに改善されてきた点は、店内清掃状況が良くなっている点だ。業績が悪かった時には、床にはゴミが落ち、ダストボックス周辺は水分やカスが飛び散って汚れている状況が散見された。しかも、その状況が長時間放置されていた。店内に客が少ない状況でも、ゴミや汚れは放置され、店員同士が私語をし、談笑している光景を何度も目にした。

 

2016年8月上旬の定点観察。東京都心部のあるマクドナルドには、2014年の食品消費切れ問題発生以降、目にしたことのない客数があった。偶然の可能性もゼロではないので、1日置いてから同店舗を同時刻に再び訪れたのだが、やはり多くの客がいた。店内では、途切れなく続く客からの注文に対して、カウンターと厨房が、時には声をかけ、連携しながらキビキビと対応していた。そして、店員同士の私語は一切目にしなかった。フロアを見ても、床、テーブル、ダストボックスにゴミや汚れはほとんどなく、忙しい中でも一人の店員が清掃状況を確認していた。

 

マクドナルドの店頭は確実に良くなっているのだ。

 

「朝の必勝コンビ」は3種類、すべて400円という価格設定

■マーケティング戦略にも見える改善の兆し

 

ここ最近、マクドナルドでもっとも目立ったニュースでは、Pokemon GOとの連携であろう。マクドナルドの約2900各店舗が「ジム」や「ポケストップ」としてゲーム内で登場ため、7月22日に日本でリリースされてから数日間は、多くの人がマクドナルドを訪れた。この提携は、来店客数増加と企業PR効果に繋がった。全世界的に一大センセーションを巻き起こしたPokemon GOとの連携の準備を着々と進めていたことは、マクドナルドのマーケティングが復活してきたと言えるのだ。

 

マクドナルドのマーケティングの復活はPokemon GOによるPR面だけではない。メニュー面でもその兆しが確認できる。2016年4月に発売された「ギガビッグマック」「グランドビックマック」は消費者に大きなインパクトをもたらした。2015年から2016年にかけて「デラ盛り・大盛り」という食のトレンドがある。「ギガビックマック」「グランドビックマック」はまさにこのトレンドを捉えたものだ。特に「ギガビックマック」はその大きさから、ビックマックと並べるなど、比較した写真をSNSでアップする人が続出した。マクドナルドは、これらのメニューのあまりの人気ぶりに一販売をストップせざるをえなくなった。2014年に発生した問題発覚以降、薄れていた「マクドナルドに行こう、食べてみよう」という気持ちを、消費者に起こさせたという意味でも、このメニューが果たした役割は小さくない。

 

そして2016年8月、注目すべきメニューが誕生した。それは8月3日から期間限定で販売が開始された「必勝バーガー」だ。マクドナルドはオリンピックのオフィシャルレストランをしているため、リオ五輪の出場選手を応援する願いを込めて、「必勝バーガー」という名前をつけたハンバーガーを発売した。しかし、ここで注目すべきポイントは「必勝バーガー」というネーミングではなく、発売されたハンバーガーのプライシング(価格設定)である。

 

 

■業績向上の階段を一段上がったことを示すプライシング戦略

 

朝食の時間を例に挙げたい。通常、朝マックのメニューはセット(ハンバーガー+ポテトなどのサイドメニュー+ドリンク)で400円程度、コンビ(ハンバーガー+ドリンク)で200円程度だ。ところが「必勝」キャンペーンでは、「ダブルフィレオフィッシュ」「メガマックドリドル」「メガマフィン」などを追加し、セットで550円程度、コンビで400円程度と単価を上げてきた。

 

ここからマクドナルドの次の戦略が読み取れる。これまでエグチ(エッグチーズバーガー)やバベポ(バーベキューポークバーガー)など低価格メニューを充実させることで、来店客数を増加させる戦略を採用してきた。その成果が着実にで始めたので、客単価を上げる戦略へと幅を広げてきたのだ。来店客増加戦略に成功している企業が、次に客単価向上戦略を取ることで、売上・利益の増加を狙うことは適切な戦略である。マクドナルドが、単価向上戦略を取れるようになったのは、約2年に渡って現場の改善をしっかりと行い、プロモーション面やメニュー面でも戦術を一つ一つ着実に成功させてきたからに他ならない。

 

 

■見逃せないカサノバCEOの変化

 

そして経営者であるカサノバCEOの動きも見逃せない。2014年の問題発覚後の会見は酷いものだった。問題発覚から会見が開かれるまでには1週間がかかった。そして内容も、マクドナルドの安全面を自信満々に伝えるものだった。消費者からは到底受け入れられず、アンチ・マクドナルドの流れを加速させてしまった。

 

しかし、その会見以降、カサノバCEOは変わった。前経営者時代から続いていた数字と効率を追い求める方針から変わったのか、消費者の声をしっかり聞くようになった。そして、それを経営戦略、マーケティング戦略へと浸透させていった。特に注目したいのは、カサノバCEO自ら、現場に多く出向いて消費者の声を聞いてきたことだ。経営者が現場を視察するのは珍しいことではない。ポイントは「私は現場や消費者の声を一生懸命聞いています」というアピールを、カサノバCEOが大々的にせずに、着々と仕事をしていることだ。つまり、カサノバCEOが現場に行く目的は、安全面へ取り組んでいるという企業PRではなく、現場の状況を正しく知ることだったのだ。

 

経営者が現場を視察することはよくあることだ。しかし重要なことは「視察」ではなく「実感」しているかどうかということである。飾られた現場の状況を知ることではなく、現場の状況を経営者自らが感じ、課題を見出すことなのだ。今のカサノバCEOは、売上や利益の数字だけを見ただけで状況の判断をしていない。また現場に行っても、上から目線で視察をしているのではなく、現場を実感しており、これを経営やマーケティングの判断に活かしている。

 

 

■この先のマクドナルドはどうなる?

 

マクドナルドの業績は、さらに改善に向かっていくことだろう。これまで述べてきたさまざまな変化に加え、来店客層に変化が見られることもプラスの要素だ。少し前まで、パソコンを開いて長時間仕事をしているビジネスマン、4人掛けテーブルで寝ている人たち、高齢者の姿が増えた。しかし、問題発生まででマクドナルドのメイン顧客層であったファミリー層が徐々にではあるが、ようやく戻ってきた。その結果、店内のムードも変わってきた。こうした来店客層の変化も、今後に向けてプラス材料になっていくはずだ。マクドナルドは落ちるところまで落ちたが、未来に向けての視界はかなり良くなっている状況だと言って良いだろう。

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マーケティングコンサルタント

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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