「肉」という文字に人が群がる!? 2016年も続く肉ムーブメント

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肉の勢いが止まらない。ちょうど1年ほど前、とあるニュースサイトで「日本人の肉食化は急速に進行中」という記事を書いた。この数年の総務省家計調査の結果に見る、日本人の食傾向の移り変わりを分析した記事だ。大きなポイントは3点。

 

1.穀類に対する消費支出が続落

2.肉類全体への消費支出は続伸

3.内訳を見ても牛、豚、鶏、合いびき、他の生鮮肉、加工肉のすべての消費支出が続伸

 

今年、発表された総務省の家計調査でも、基本的な傾向は変わらなかった。3.のうち、「加工肉」は微減したものの、引き続き肉に対する消費支出は伸びている。

 

メディアにおける肉関連の報道も衰えを知らない。雑誌やWeb記事では相変わらず肉特集が組まれているし、ゴールデンウィークの風物詩となりつつある「肉フェス」関連の情報も早くもメディアをにぎわせはじめている。そのほか、外資系バーガーチェーンの相次ぐ上陸のニュースや、国内のグルメ系ハンバーガー店の人気ぶりをメディアで目にする機会も増えた。

 

メディア側も「肉を見出しにすれば、アクセスが伸びる」と捉えているようなフシもある。例えば、3月17日、山形新聞の「クマ肉出荷解禁へ 本県が初、県がきょう17日に政府申請」という記事をYahoo!がトピックス記事として取り上げた。山形県全域と福島県の他、岩手、宮城、群馬、新潟の各県で出荷制限されていたクマを、他県に先駆けて山形県が「全頭放射性物質検査」を条件に制限解除しようというのだ。

 

確かにこの動き自体は、放射性物質の汚染や地域の食文化にも関わる出来事だろう。だが一方で、「全国紙の第一面にも匹敵する」と言われるチャネルにフィードされる記事としてはどうにも違和感がぬぐえなかった。本来、新聞の一面に掲載されるニュースは、「国民的関心事」、もしくはそれに近い関心を集めるニュースであり、「クマ肉」をそう捉える全国紙があるとは思えなかったからだ。

 

例えば、「食文化」という面から考えてみる。クマ肉はスーパーの店頭に並ぶような「日常の食材」ではない。プロの料理人でも戸惑う素材だろうし、一般の消費者ならなおさらだ。もちろん、地域の伝統的な祭事などで消費するための道筋は必要だし、獣害防止のために駆除した熊を廃棄するしかないのだとしたら、複雑な気持ちにはなる。だが少なくとも一面をにぎわすようなニュースだとは考えにくい。

 

念のため、経済効果という面からも考えてみる。ヒグマはオスで250~500kg、メスで100~300kg。ここでは仮にヒグマが一頭350kgだとしてみよう。年間に食用として流通するのは100~200頭だというから、単純な合計重量で35~70トン。対して牛は、和牛だけでも50万頭×700kgで35万トン。和牛だけのざっくり重量でも5000~1万倍でそこに和牛以外の国産牛や輸入牛なども加わる。比較にならない。ちなみに牛の場合、個体重量の26~27%程度が(内蔵を除いた)肉になる。仮にヒグマの歩留まりや末端価格が和牛レベルだったとしても、市場規模は全体でせいぜい数億円に過ぎない。あまりに小さなマーケットだ。

 

全国紙だとすると、もっとも掲載される可能性があるのは地方版の社会記事だろうが、いずれにしても東北や北海道といった熊が出没するエリアと、東京のような都市部ではニュースの価値も意義も異なる。クマの恐怖を知る北海道民と「射殺するなんて酷い」とつぶやく東京のネット民とでは熊との距離感が違いすぎるのだ。

 

しかしネットニュースはそこを逆手に取る。ユーザー同士の価値観の差が大きいネタほどニュースは盛り上がるのだ。昨年の五輪エンブレム騒動でも、商業デザイン界の常識と一般人(というかネットユーザー)の意識の差も火に油を注ぐような効果につながっていた。代議士を引退した森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の発言が盛り上がるのも、市井の生活者の感覚との乖離が大きいからだ。異なる立場からの意見が同じ土俵に乗ると、場はアツく燃える。

 

今回は「クマ肉」という文字が人の目を惹く装置だった。肉の拡散力は強い。ブームというレベルを超えつつある昨今の肉ムーブメントは画像のみならず、「肉」という文字までもネタ消費されうる記号へと押し上げた。2016年春、肉のネタ化ここに極まれり、である。

 

<余談>

そんなことを考えながら、Facebookの自分のアカウントページを開いた。画面には、ネタとして自分が投稿した肉の画像が映しだされた。ああ、そうか。そういえば、メディアはわれわれ大衆を映す鏡だった……。

 

もっとも、いまやメディアと言っても、マスから個人までさまざまな鏡が入り乱れている。そしてその鏡は互いに光を乱反射させあい、万華鏡のように覗き手ごとに違う像を結ぶ。何が虚像で何が実像か、その判断は深淵を覗き込む一人ひとりにしかできない。

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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