リオ五輪閉会式のアイデアに絶賛の声! 「安倍マリオ」を実現させた「段取り力」

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写真:UPI/アフロ

 

熱戦が繰り広げられたリオ五輪が閉幕した。日本は過去最高のメダルを獲得し、日本中が大きな盛り上がりを見せた。そして閉会式も2020年の東京開催をアピールする上で、大きな盛り上がりを見せた。とりわけ世界に大きなインパクトを与えたのは、安倍首相が人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクターであるマリオの衣装を着て、土管から登場したシーンだ。

 

なぜ「安倍マリオ」が実現したのかを中心に、五輪の閉会式についてマーケティング視点で振り返ってみたい。

 

 

■小池都知事が果たした役割

 

閉会式には、小池百合子東京都知事が着物姿で登場し、IOCのバッハ会長から五輪旗を受け取った。世界的に女性の活躍がますます目立つ中、小池氏が果たした役割は重要だ。女性の活躍が増えていることを世界にアピールしながら、着物を着ることで日本の伝統的文化もアピールした。リオ五輪直前の舛添前東京都知事の辞任で、この役割が急遽回ってきた形だが、結果的には小池都知事で大正解となったシーンだった。

 

 

■安倍首相が果たした役割

 

小池都知事の後に、セレモニーが行われ、スタジアムのグランドは大きな日の丸となり「ありがとう」「obligado」など様々な言葉が、プロジェクションマッピングによる人文字で映し出された。

 

その後、スタジアムには、スポーツの素晴らしさを体現する多くのアスリートたちを中心とした映像が流された。その中に、クールジャパンの代表的なコンテンツと言える「キャプテン翼」「ドラえもん」「ハローキティ」「パックマン」などのアニメキャラクターも登場した。映像でアスリートやキャラクターが日の丸を連想させる赤いボールをバトンのように次々に渡していく。そして最後に、国会議事堂からリオへと向かう車中の安倍首相に渡る。しかし「間に合わない」という字幕とともに、安倍首相は「マリオブラザーズ」のキャラクターである「マリオ」へと切り替わる。次のシーンでは、リオへとワープすることができる土管(「スーパーマリオブラザーズ」のゲームに頻発)をドラえもんがポケットから取り出し、渋谷のスクランブル交差点の真ん中に置く。マリオが土管の上に立ち、マリオは土管に吸い込まれていく。映像が終わると、閉会式のスタジアム中央に置かれた土管から、マリオの衣装で赤いボールを持った安倍首相が登場したのだ。

 

次開催国の首相がユーモアたっぷりに登場したことで、世界中の人たちの多くは、驚き、喝采を送った。伝統的な日本文化を表現した小池氏に対して、安倍首相は新しい日本文化を表現した形になった。ユーモアな登場シーンを含め、この閉会式の内容は、日本の懐の深さ、幅の広さを表現する上で大きなプラスになったことは間違いない。

 

 

■キャラクター選定の裏側

 

このように閉会式は素晴らしい内容であった。アイデアを賞賛する声は絶えない。私自身も素晴らしい内容だったと感じている。ただ、閉会式を見ていて気になったことが2つある。一つは、なぜこのキャラクター選定になったのか。そしてもう一つは、なぜ安倍首相をマリオにさせることができたのかということだ。この2点について、今回はお伝えしたい。

 

まず一つ目の「キャラクター選定の段取り」について。

 

今回、日本紹介の映像で登場したキャラクターは、どうやって選ばれたのだろうか。選ばれたキャラクターを見ると、グローバルに通用するキャラクターという意味で選ばれたことは明らかだ。日本では「ワンピース」「妖怪ウォッチ」が、ここ数年で大ブレイクしているが、世界的な視点で見れば、今回選ばれたキャラクターの方が通用すると判断されたのだ。

 

例えば「キャプテン翼」は、日本のサッカー人気を作っただけでなく、全世界に影響を及ぼしたアニメだ。世界最高プレイヤーであるアルゼンチンのメッシ選手も「キャプテン翼」を読んで刺激を受けたと話している。

 

「ハローキティ」や「ドラえもん」も世界的に人気がある。そして「パックマン」は映画「ピクセル」のモチーフにもなったように世界的に有名だ。では逆にこれらのアニメとともにグローバルで通用するアニメの代表格とも言える「ポケットモンスター(以下、ポケモン)」は、なぜ選ばれなかったのか。

 

「ポケモン」は日本を代表するアニメの一番手と言っても良いだろう。海外視察をしたり、外国人と話をしても「スーパーマリオブラザーズ」以上に「ポケモン」の人気が高いように感じることは多い。最近では「Pokemon GO」の世界的大ヒットもある。選ばれなかった理由は明確だ。それは「マリオブラザーズ」にある。イベント準備のためのスケジュール感からの憶測であるが、閉会式の企画をする早い段階で、閉会式のメインとして「マリオブラザーズ」と安倍首相の案が出たのだろう。公平性を保つため、任天堂という同じ会社から2つのキャラクターは避けるという判断をすることは自然の流れである。

 

余談ではあるが、閉会式の準備段階では「Pokemon GO」はまだリリースされていない。世界的大ヒットになるかどうかは未知数であり、キャラクター選定の考慮には入れにくい側面もあっただろう。

 

では二つ目の「なぜ安倍首相をマリオにできたのか」という点について述べたい。

 

 

■安倍マリオを誕生させた「段取り力」

 

「映像に日本のアニメを使い、最後に安倍首相がキャラクターに扮して登場する」

 

このアイデアを本当に多くの人が絶賛した。では、このアイデアはどうやって実現までこぎ着けたのだろうか。「誰が、どうやって安倍首相にマリオになることを納得させたのか?」

 

広告業界をよく知るものとしては、アイデアは素晴らしいと思うが、このアイデアを一国のトップに納得させ、出演者として参加させることは非常に難しいことだ。どのような段取りをして、この大掛かりな仕掛けを首相にOKさせることができたのだろうか。

 

 

■緻密なストーリーテリングとトップコミュニケーション

 

閉会式のスタッフとしてメディアに多く名前が上がったのは椎名林檎さんや音楽を担当した中田ヤスタカさんだ。主なスタッフは次の通りだ。この他、プロジェクションマッピングを担当したライゾマティクスなどが名を連ねる。

 

クリエイティブスーパーバイザー:佐々木 宏(シンガタ)

クリエイティブスーパーバイザー+音楽監督:椎名 林檎

総合演出+演舞振付:MIKIKO

クリエイティブディレクター:菅野 薫(電通)

 

スタッフを見て感じたのは、今回のキーパーソンとなったのはクリエイティブスーパーバイザーを務めた佐々木宏氏だということだ。

 

一般の方には知名度が低いと思うが、佐々木氏は、日本を代表するクリエイティブディレクターである。長年、電通で活躍した後、シンガタというクリエテイィブエージェンシーを起ちあげた。佐々木さんが携わった有名な広告として、JR東海の「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンの他、ソフトバンク「白戸家」シリーズなどもある。一般にクリエイターには旬がある。どんなに話題の広告を作っても、ほとんどの人はいつか限界が来る。しかし、佐々木氏は数十年間に渡り、広告業界のトップを走り続けている稀有な存在だ。

 

近年の代表作であるソフトバンク「白戸家」シリーズ。ここでは、上戸彩、樋口可南子、広瀬すず、染谷将太、松田翔太、堺雅人など数多くの俳優の他、香川真司、浜崎あゆみなどスポーツ選手やミュージシャンを起用した物語形式になっている。さらには、大物俳優である北大路欣也を犬として登場しさせている(敬称略)。

 

少なからず、タレントCMに携わってきた私の経験によると、大物タレントになればなるほど、CMにおいて表現の制約が多くなる。また出演に関しては、共演ではなく単独の出演を望むケースも多くなる。しかし、こうした業界事情を知り尽くしながら、その上で、佐々木さんは新しいことを仕掛け、今までにないクリエイティブを実現させてきたのだ。今までにないクリエイティブを実現させ続けるためには、クリエイティブ力だけでは不十分だ。まだ見ぬ結果を納得させる段取り力も必要なのだ。

 

 

■安倍マリオが誕生するシナリオ

 

今回の場合、佐々木氏もがいきなり一国の首相に電話をしてプレゼンするわけにはいかない。また、安倍首相にプレゼンの機会をもらい、マリオになって欲しいと説明しても、採用されるかどうかは、その場で安倍首相がどう考えるかになる。つまり、どれだけ準備をしても一か八かの勝負になってしまう。つまり、普通に安倍首相にプレゼンするだけでは、企画が通るかどうかはその場の賭けになる危険性が高いのだ。そのため、閉会式の企画を通すためには、クリエイティブ力以上に、事前の段取り力が必要だったと推測される。

 

自分が素晴らしいと思ったアイデアを実現させるためには、絶対に実現させるだけの準備をしなければらない。佐々木氏は、イメージがわかるだけのデザインや映像はもちろん、「スーパーマリオブラザーズ」の人気度がわかる資料なども整えただろう。ただ、上記のようにそれだけでは万全ではないからこそ、以下の方法を取ったのではないか。それは組織委員会の森委員長を動かすことだ。

 

まず、森氏に100%納得してもらい、強く推し進める気持ちになってもらえれば、森氏自身が安倍首相へも強く勧めてもらえると判断したのだろう。森氏の言葉であれば、安倍首相への説得が功を奏すると判断したのだろう。

 

ただアイデアが素晴らしいだけでは、一国の首相があのアイデアを採用する可能性は低い。なぜなら、安倍首相としたら、普通にセレモニーに出席することで何の問題もないからである。無難に登場すれば賞賛される可能性は低くても、批判される危険性も少ない。しかし、アイデアが斬新であればあるほど、賞賛される可能性は高くなる一方、叩かれる危険性も高くなる。政治家として、あえてリスクをとる必要性が低い中、安倍首相に決断させることが出来たのは、単なるアイデアの良さではなく、アイデアを実行させるための「段取り」が正しく行われたためだ。

 

この推測を証明するかのように、閉会式後、このアイデアが森氏の発案だったという報道が出た。この報道に接した多くの人からは「そんなわけない」とネガティブな声が上がった。しかし、私は、やはり佐々木氏が森氏をキーパーソンにして安倍首相を納得させたのだと感じた。それが報道では森氏の発案という形で出たのだと私は推測している。

 

 

■派手な成功を支える裏方のプロフェッショナル力

 

「アイデアだけなら、誰でも考えられる」

 

マーケティングやクリエイティブだけでなく、ビジネス全般で同じことが言える。大ヒット商品やビジネスの成功を見て「このアイデアは、自分も、もっと前から考えていたんだ」という人がいる。しかし、素晴らしいアイデアがあっても、そのアイデアを実現させることは難しい。そして、成功させることはさらに難しい。つまり、表向きはアイデアの素晴らしさが目立つのだが、アイデアの裏には緻密かつ地道な段取りがあるのだ。リオ五輪の閉会式を見て、よくこのアイデアを実現させたなと感心したのは、こうした理由によるものなのだ。

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マーケティングコンサルタント

新井 庸志

マーケティングコンサルタント。「ワールドビジネスサテライト」「スーパーJチャンネル」などのニュース、情報番組や「日本経済新聞」「日経ビジネス」「財界」「宣伝会議」など、新聞、雑誌での執筆多数。経営から...

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