【今週の大人センテンス】木梨憲武が悩める若者に示した大人のカッコよさ

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写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第95回 運命が変わる驚きの展開に

 

「リバティーくんね、22歳で埼玉に住んでいるから。20日に舞台挨拶があるから、そこにまず来させます」by木梨憲武

 

【センテンスの生い立ち】

とんねるずの木梨憲武が、4月18日昼、TBSラジオの人気番組「ジェーン・スー生活は踊る」にゲスト出演。「相談は踊る」のコーナーで、リスナーの悩みに答えた。この日の相談者は、埼玉県に住む22歳のフリーター・リバティくん。映画関係の仕事に興味があるが、自分にはどんな才能があるのか、どんな仕事が向いているのかわからないという相談に対して、木梨は「才能よりも人との出会いが大事」とアドバイス。その上で、20日に映画の舞台挨拶があるから、そこに来てプロデューサーたちに会いなさいと呼びかけた。

 

【3つの大人ポイント】

  • 人生は偶然の縁が大事なんだと行動で教えている
  • 持っている力や人脈を惜しみなく分け与えている
  • 番組を聞く若者たちに「動き出す勇気」を授けた

 

人生は、何がどう転がるかわかりません。思いがけない方向に転がるきっかけを与えてくれるのは、たいていの場合「人」です。若者の場合は、周囲の大人やたまたま出会った大人によって、新しい世界に連れていってもらえるのが常。自分ひとりで「どこに行こう」「どこに行くのがいいかな」と考えていても、結局はどこにも行けません。

 

4月18日のお昼にTBSラジオを聞いていた人は、ちょっとしたきっかけで人生がいかに劇的に変わるか、そのドラマチックな展開の目撃者……というか耳で聞いた体感者になりました。人気番組「ジェーン・スーの生活は踊る」の名物コーナー「相談は踊る」(月~金11:00~13:00)。その日のゲストは、とんねるずの木梨憲武でした。

 

相談者は埼玉県に住む22歳のフリーターで、ラジオネームは「リバティー」くん。この春、大学を卒業しました。自分の才能を活かせる仕事に就きたいけど、自分にどんな才能があるのかわからないという状態で、就職活動をしなかったそうです。父親には「どんな仕事でもいいから一度就職してみろ。その仕事が自分に向いていないなら辞めてもいい」と言われたとか。ゲストの木梨憲武、パーソナリティのジェーン・スー、アナウンサーの長峰由紀の3人に、どのタイミングでこれが自分の才能を活かせる仕事だと意識したかを尋ねます。

 

はっきり言って、何をウダウダ言っているんだと突き放したくなる相談ですが、3人とも突き放したりはしません。とくに木梨は、自分の長男も同じ22歳で、このリバティくんのお父さんと同じことを子どもに言っていると言いつつ親身に回答。高校を出て自動車会社に就職した自らの体験談や、そこからお笑いの道に進んだ話をしつつ、大事なのは人との出会いであり、そのためにはどんどん自分で動くことが大切だとアドバイスします。

 

3人とも、やりたいこととか才能とかではなく、人との出会いや環境で仕事が好きになっていく可能性もある、きっかけはいろんなところにある、というところで意見が一致。ジェーン・スーの「『才能に基づいた人生の生き方をしなきゃいけない』って思っているかもしれないけど、それじゃない。もっと『生活』なんだ」という言葉も、とても含蓄があります。

 

元から飛びぬけた才能がある人なんていません。そもそも世の中のほとんどの仕事に、特別な才能は必要ないと言っていいでしょう。一見、才能がものを言いそうな仕事も、その人じゃなきゃいけないわけじゃないし、その人はそれしかできないわけじゃないはず。いい先輩との出会いなのか環境なのか、たまたま縁があってその仕事をやることになり、一生懸命にやろうと思うきっかけや長く続けるだけの理由に恵まれて、だんだん「自分に向いた仕事」「自分にとって得意な仕事」になっていくだけの話です。

 

最初から「才能の有無」や「向き不向き」を気にするのは、人より楽をしたいとか近道をしたいとか、要は棚からぼた餅的な展開を期待するズルイ発想です。甘ったれた了見と言ってもいいでしょう。まして、何もやっていないうちから、自分にはどんな才能があるのかや何に向いているのかを知りたがるのは、あまりに虫が良すぎます。リバティ―くんのお父さんや木梨の言うように、まずは動いてみないと何も始まりません。

 

木梨がすごかったのは、このあと。彼は、単なるお説教だけでは終わらせませんでした。映画関係の仕事にも興味があるというリバティ―くんが次の一歩を踏み出す道、それも極めて劇的でありがたい道を用意します。「もう俺、彼の就職先を決めてます」と切り出して、次のように語りかけます。

 

「いまちょうど映画(全国東宝系で20日から公開中の『いぬやしき』)をやっているんで。フジテレビさんの映画部。映画関係の仕事。そして東宝さん。東宝さんも映画の仕事をやっています。みんな僕よりも歳下ですけども。あと、その『いぬやしき』を作ったプロデューサー。この3人にまずリバティーくん、会ってください」

 

ここで放送が聞けます⇒【とんねるず・木梨憲武さんによる「お悩み相談」の回答が話題に。】(TBSラジオ)

 

思いがけない展開に、ジェーン・スーも長峰由紀も「ヨダレ出ちゃった」「なんか番組みたい」と大興奮。さらに木梨は「20日に舞台挨拶があるから」と、具体的に場所と日を提案します。自らの行動で「人生には偶然の縁が大事なんだ」ということを教え、自分が持っている力や人脈を惜しみなく分け与えた木梨の姿は、まさに大人のカッコよさを体現してくれたと言えるでしょう。リバティ―当人はもちろん、番組のリスナー全員に「動き出す勇気」を授けたに違いありません。

 

大人のやさしく力強いパスを受けて、リバティーくんはどうしたか。番組のtwitterアカウントが後日談を報告しています。20日夜にアップされたtweetには、居酒屋さんで木梨と映画プロデューサーの甘木さんが、リバティ―くんをはさんで楽しそうに肩を組んでいる写真が。リバティ―くんの顔は星印で隠されていますが、ちゃんとやって来て無事に木梨に会えたようです。一通のメールがきっかけで、彼の人生は派手に動き出しました。

 

ここからはリバティ―くん次第です。降ってわいたチャンスを活かして映画の世界に食い込んでいったら、もちろん苦労はするでしょうけど、それはそれでめでたしめでたし。ぜんぜん別の仕事に就いたとしても、今回こうして行動を起こしたことは、彼の人生にとって大きな転機になったはず。やがてベテランの大人になったときに、若者にチャンスやきっかけを与えられる人になるに違いありません。私たちも木梨を見習って、(自分にできる範囲で)若者にパスを送れる大人を目指しましょう。

 

 

【今週の大人の教訓】

かつて大人から受けた恩を少しずつでも返すのが大人の役割

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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