【今週の大人センテンス】迷惑なお客に苦言を呈した銀座ウエストの矜持

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出典:銀座ウエスト公式HP

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。


第96回 これが炎上するなら世も末


「小さなお子様をお連れの喫茶室ご利用のお客様へのお願い:炎上覚悟で申し上げます。」by銀座ウエストのtwitterの中の人


【センテンスの生い立ち】
1947(昭和22)年に銀座にオープンした「ウエスト」。ちょっと高級な「特別な場所」として、おいしいお茶とお菓子、そして優雅で落ち着いた時間を提供し続けている。4月24日、銀座ウエストの公式twitterが「炎上覚悟で申し上げます」と断わりつつ、小さな子ども連れのお客様に対する「お願い」をtweet。たちまち拡散されて大きな話題となる。反応の大半は、静かな環境を守ろうとするお店の意見に賛同し、勇気ある姿勢を評価するものだった。


【3つの大人ポイント】

  • 腹をくくって言うべきことをビシッと言っている
  • お客様を本当に大切にしている姿勢が感じられる
  • ルールで制限することには抵抗感を示している


当たり前すぎるほど当たり前のことですが、店と客は「対等」です。どっちが偉いわけでもありません。店は商品なりサービスなりを提供し、客は内容と値段に納得すれば、お金を払ってそれを買います。しかし、客はお金を払ってるんだから偉いんだ、何をしてもいいんだと勘違いしている残念な人もいないわけではありません。店の側も同様の勘違いをしていたり事なかれ主義だったりで、客をつけ上がらせている一面もあります。


洋菓子でもおなじみの「ウエスト」は、1947(昭和22)年に銀座で創業。喫茶室のコーヒーが一杯972円という高級なお店ですが、味といい落ち着いた雰囲気といい、そこで過ごす時間の贅沢さを考えるとむしろ安いと言えるでしょう。いや、そんなふうにコスパを気にする発想は、「ウエスト」にはふさわしくありませんね。がんばって値段のことを忘れてゆったりした気持ちで過ごしてこそ、「ウエスト」の真価をさらに深く堪能できそうです。


その「ウエスト」の銀座本店の公式アカウントが、4月24日夕方にこういう「お願い」をtweetしました。

 


小さなお子様をお連れの喫茶室ご利用のお客様へのお願い:炎上覚悟で申し上げます。大きなお声を出したり、走り回るなどのお子様の行為が周囲のお客様へ多大なご迷惑となっている場合がございますので、くれぐれもご注意の程何卒お願い申し上げます。


「炎上覚悟で申し上げます」というところに、こういう状況にいかに頭を悩ませ、その場での対応に限界を感じ、店としてどうすべきか激しい葛藤があったことがにじみ出ています。さんざん迷った末に、このままではいけないと強い危機感を抱いて、勇気を振り絞って書きこんだに違いありません。このtweetは、4月29日12時現在で、2万を超える「いいね」を集め、約1万3700のリツイートがあり、255のコメントが寄せられています。


同じ日の夜には、上のメッセージを補足するtweetもアップされました。こちらも、銀座という街を愛する気持ち、その街で「ウエスト」という「特別な場所」を提供していることへの自負や誇りや責任感がにじみ出ています。

 


昔銀座は特別な場所でした。銀座へ行く時のために、親が銀座ワシントンの靴とヤングエージの服をわざわざ買ってくれたのを思い出します。今銀座も特別な場所ではなくなってしまいましたが、ウエストはそういう場所になりたいと思っています。


幸いにしてというか、まだまだ世の中は捨てたもんじゃないというか、これらのtweetが炎上することはありませんでした。「銀座ウエストさんのツイートは、決して間違ってはいませんよ」「よくぞ言った!!!」という賛同の声が大量に寄せられます。支持を表明しつつ「年齢制限を設けてもいいのでは」という意見もチラホラありましたが、それに対して銀座ウエストは、翌25日にこうtweetしました。

 


昨日のツイートに対し多くの肯定的なご意見を頂きありがとうございます。年齢制限してはとのご意見もございましたが、就学前とおぼしきお子様がアイスクリームの器を前にきちんと足を揃え、少し緊張してお座りになっているのは微笑ましいものです。こんな素敵なお客様を締め出す事は出来ません。


心から「お客様」を大切に思っている姿勢が伝わってきます。中の人は、子どもに対して苦言を呈したわけではないはず。子どもは、時には騒いだり泣いたりする生き物です。子どもが騒いでも何も言わない、騒ぐかもしれない子どもを「ふさわしくない場所」に連れてくる親の無神経さに耐えきれなかったに違いありません。ルールで制限するのではなく、マナーを守ってほしいと訴えているところも、極めて大人なスタンスと言えるでしょう。


ただし、拡散したtweetの常として、真意を理解しようとしない、そもそも真意を理解できない、あるいは単に何にでも文句を付けたい人からの「クソリプ」も集まってきました。客を服装で差別するのかとか、そんな気取った店には行きたくないとか、どんな客にも対応するのがサービスではなか……などなど。どれも揚げ足取りやイチャモンの域を出ません。


炎上状態にはなりませんでしたが、一部に批判的な声があったことを受けて、銀座ウエストは26日にこうtweetしています。

 


一昨日のツィートが「銀座に相応しくない服装のお客様は来店して欲しくない」という意味にとられることは本意ではありません。先代より「服装や身なりでお客様を判断してはいけない」ときつく言われておりました。他のお客様の御迷惑とならない限りどんなカジュアルな服装でご来店頂いても構いません。


翌27日にも「便乗商法、差別的思想の店舗などと曲解された事には心が痛みます」などとtweetしています。しかし、曲解してクソリプを飛ばしてくる人ようなは、明らかに「ウエスト」のお客さんではありません。何かの間違いで訪れたとしても、せっかくの素晴らしい空間を楽しむことはできないでしょう。これからも自分の世界で、あちこちにどうでもいい文句を付けながら、本人的には幸せなつもりで生きていっていただけたらと思います。


銀座ウエストの勇気あるtweetは、結果的に「ウエスト」のファンを増やしたに違いありません。楽しい思い出がある人は、また行ってみたいと思ったことでしょう。そして、行ったことがあるないに関わらず、店と客のあるべき関係について考えさせてくれたし、ちょっと敷居が高い「ウエスト」のような店があってくれることこそが文化の多様性であり豊かさであり、人生に潤いをもたらせてくれていることにも、あらためて気付くことができました。


真面目な話が続いたので、くだけたオチにさせてください。「ウエスト」のケーキやクッキーはとってもおいしいですが、食べ過ぎには注意しましょう。バクバク食べていると、たいへんなことになります。……ウエストが。


【今週の大人の教訓】
勇気を出して発せられた誠実な言葉は、ちゃんと受け止めてもらえる

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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