ポルシェのいないル・マン24時間…トヨタは「勝って当然」なのか?

車・交通

 

3年連続19回目の総合優勝を果たしたポルシェが2017年限りで撤退したので、ル・マン24時間レースでの初優勝を目指すトヨタにとれば、2018年はライバル不在になった。だから、「勝って当然」という下馬評が一方ではある。


「そう言われているのは知っています。僕らとしては毎年『勝って当然』という気持ちでやっているんですけどね」と、2012年からル・マンに参戦しつづけている中嶋一貴はコメントした。


2018年のトヨタのライバルはプライベートチームだ。自動車メーカー系チームはハイブリッドシステムの搭載が義務づけられているが、5チーム8台が参戦するプライベーターはガソリンエンジンのパワーのみで走る。そのまま競争させたのではトヨタが圧倒的な性能差を見せつけてリードしてしまうので、レースの主催者はプライベーターに優遇措置を施した。


ガソリンの瞬間的な使用量をトヨタに対して35%優遇することにより、ざっと200馬力余計に出せるようにしたのである。トヨタのエンジン出力が約500馬力なのに対し、プライベーターは約700馬力だ。それでようやく1周のラップタイムは釣り合う。ところが、コースで一緒に走っている中嶋にすれば、「速いですよ。あまり変わらないか、下手すれば向こうの方が速いときもあるかもしれません」という印象になる。楽に勝てる状況ではなさそうだ。

 

 

■2017年の敗因は「元をたどればヒューマンエラー」

 

トヨタは昨年の反省からさまざまなトラブルを想定、対策を練った

ル・マン24時間はライバルとの戦いだけでなく、自分たちとの戦いでもある。TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表の村田久武は次のように語った。


「ポルシェやアウディなど強いライバルがいるときは外に目が行きますが、今年はそうではありません。過去6年のル・マンでトヨタに起きたトラブルを整理すると、その半分は接触や事故でした。今年も2台(7号車、8号車)のクルマを完全にイコールコンディションにしようとしていますので、2台が同士討ちすることだけは避けたい。チームメイトを追いかけたばかりに他のクルマと接触するようなことも避けたい」


同じチームの車両は言うまでもなく、同じカテゴリー、あるいは速度差のあるGTカテゴリーとの接触はなんとしても避けなければならない。それが注意点のひとつ。


そうはいっても接触が起きる可能性を完全に排除することはできない。万が一接触が起きてしまった場合は、ピットまで自力に戻れるようにすることが重要だ。2017年の例で言えば、9号車がそれでレースを落とした。13km以上ある長いコースの前半で接触事故を起こした9号車はピットまで戻ることができず、リタイヤする羽目になったのだ。


8号車はフロントのモーターにトラブルが発生し、修復に長時間を費やした。「元をたどればヒューマンエラーだった」(村田チーム代表)し、修復時間を短くすることができれば、勝機はあった。同じ過ちを繰り返さないために、どんなメカニカルトラブルが起きても修復時間を短くする対策に取り組んだ。


7号車は結果的に発生したクラッチトラブルによってリタイヤを強いられた。2018年に向けてはクラッチトラブルが発生しないようなピットとドライバーのコミュニケーションを構築すると同時に、クラッチの容量を上げて耐性を高めた。

 

 

■万が一に備える「カイゼン隊長」

 

ポルシェが昨年限りで撤退したため、2018年のトヨタのライバルはプライベートチームとなる


先頭を走っていた2016年はフィニッシュまで残り5分のところでV6エンジンに2基備える一方のコンプレッサーとインタークーラーをつなぐパイプが外れた。ドライバーもチームも未経験の事態にパニックを起こしてしまい、手に入れかけた勝利を逃した。


「今度は大丈夫」とテクニカルディレクターのパスカル・バセロンは言う。「同じトラブルが起きても、片バンク3気筒だけで走れる制御プログラムを組んである。だから、4分で戻ってこられる」


1周は3分30秒前後だから、被害を最小限に食い止めることができる。トヨタは万が一のトラブルが発生しても被害を最小限に食い止められるよう、村田チーム代表が命名するところの「カイゼン隊長」という新しい役割のエンジニアを置き、彼の主導のもとで徹底的にトラブル対策を行った。


そのカイゼン隊長、シリル・ジョーダンは「発生する確率は低いが、いつ起きてもおかしくない不具合について、考えられるアイテムをリストアップした。今まで経験したことはないが、給油のためにピットに向かうつもりが、通り過ぎてしまった場合の対応についても考えた。全部で100通りのシナリオを考えたよ」

 

フェルナンド・アロンソは8号車のTOYOTA TS050 HYBRIDを駆る


対策は十分に行ったが、それでも不安は残るという。


「1000個の不具合を事前に予測したとしても、それ以外の不具合が発生する可能性は依然として残る。まさか、カンガルーがコースを横切ることはないと思うが、そういう予期せぬトラブルが起きるのがル・マンというものだ。パーフェクトなどありえない。ただ、ライバルよりもベターでありたい」


トヨタが悲願の初優勝を目指す2018年のル・マン24時間レースは、6月16日15時(現地)にスタートする。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『F1機械工学大全...

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