【中年名車図鑑|5代目 スバル・サンバー】プロの道具感を追求した“軽商用車界のポルシェ911”

車・交通

大貫直次郎

1990年に軽自動車の規格が改定されると、富士重工業(現SUBARU)はいち早く商用モデルの「サンバー」の全面改良を実施し、第5世代となる新型を市場に送り出す。リア搭載の4気筒エンジンに4輪独立懸架サス、そして4輪駆動を採用した5代目は、他社の軽バン/トラックを凌ぐハイパフォーマンスを発揮した――。今回は660ccエンジンを積み込み、レトロ調モデルの設定でも話題を集めた“軽商用車界のポルシェ911”こと5代目サンバーの話で一席。

 

 

【Vol.73  5代目スバル・サンバー】

日本独自のミニカー・カテゴリーである軽自動車は、1990年1月になると車両規格の大幅改定が実施された。エンジン排気量は550ccから660ccに拡大。ボディサイズは全長3200×全幅1400×全高2000mmから同3300×1400×2000mmに変更される。主に安全性の向上とそれに伴う車両重量増に対処した規格変更だが、実は新税制を踏まえたうえでの改定でもあった。従来の軽自動車はその性格上、物品税が最低限のレベルに抑えられていた。しかし、新しく導入された消費税は一律3%の課税。その結果、小型車クラスとの購入金額差が著しく接近してしまったのだ。購入諸経費および維持費の違いはあるものの、これでは軽自動車のメリットが希薄になる……。対応策として監督官庁は、エンジン排気量などを拡大して小型車との差を小さくしようとしたのである。

 

 

■660cc版の第5世代サンバーの開発

 

高性能と使いやすさ、そして丈夫さを追求した5代目サンバー。リアにエンジンを積むことから“軽商用車界のポルシェ911”と呼ばれた

 

軽自動車の規格改定に対して富士重工業は、まず同社の主力軽カーであり、リアエンジン構造を採用することから“軽商用車界のポルシェ911”と呼ばれる「サンバー」の全面改良を率先させる。目指したのは、他社の軽バン/トラックを圧倒する高性能と使いやすさ、そして丈夫さの実現だった。

 

肝心のエンジンについては、既存のレックス用EN05型系547cc直列4気筒OHCユニットをベースに排気量を拡大する旨を決定する。選択した方法はロングストローク化。エンジンブロックのスペースの関係上、ボアアップは困難だったからだ。最終的にボア×ストロークはEN05型系の56.0×55.6mmから56.0×66.8mmに変更し、排気量は658ccとする。エンジンのロングストローク化は、サンバー用エンジンにとって大きなメリットをもたらした。一般的に4気筒エンジンは、3気筒に対して熱効率が悪く、低中速域でのトルク値が低くなりがち。また、燃料消費率の面でも劣る。一方、エンジン回転のスムーズさや振動の少なさ、さらに耐久性の面では4気筒に軍配が上がった。新開発の4気筒ロングストロークエンジンは低中速トルクの不足を補い、同時にフリクションロスを低減させることによって燃費の引き上げも図ったのである。

 

トラックタイプは広くて低いフルフラットデッキを採用。“プロの道具”としての魅力を追求した

 

シャシーおよびボディに関しては、前マクファーソンストラット/後セミトレーリングアームの4輪独立懸架サスペンションに高剛性を誇るフレーム付きシャシー、亜鉛メッキ鋼板の多用と入念な防錆塗装、多彩に使えるマルチフラットデッキ(バン)、広くて低いフルフラットデッキ(トラック)などの機構を採用する。また、内外装はシンプルかつ機能的なデザインで仕立て、プロの道具としての魅力度をいっそう引き上げた。

 

 

■4気筒エンジン/4輪独立懸架/4輪駆動の高スペック

 

4気筒エンジンで4輪独立懸架、4輪駆動の高性能がウリだった。写真は乗用モデルの「サンバー・ディアス」

 

通算で5代目となる新規格のスバル・サンバーは、「サンバー660」シリーズとして1990年3月に市場に放たれる。リア部に搭載されたエンジンは“クローバー4”EN07型658cc直列4気筒OHCユニットで、EMPiの燃料供給装置にスーパーチャージャーの過給器を装備したEN07Y型と自然吸気(NA)仕様でキャブレターを組み合わせたEN07C型の2機種を設定。パワー&トルクはEN07Y型が55ps/7.1kg・m、EN07C型が40ps/5.5kg・mを発生した。組み合わせるトランスミッションは5速MTとEL(エクストラ・ロー)付5速MTのほかに、専用セッティングのECVTを用意。駆動方式はRRと4WD(セレクティブ4WD/ビスカスカップリング式フルタイム4WD)が選択できた。

 

4気筒エンジンで4輪独立懸架、そして4輪駆動の高性能を誇る第5世代サンバーは、デビュー後も着実に進化を図っていく。1992年9月にはマイナーチェンジを実施し、赤帽仕様を除く全車が丸型シールドビームヘッドランプから異形角型ヘッドランプに換装(それまでは乗用モデルの「サンバー・トライ・ディアス」→「サンバー・ディアス」のみが角型)して上質感をアップする。1995年4月になると、電気自動車の「サンバーEV」を発売。動力源は直流直巻モーター(25ps/7.1kg・m)で、バッテリーには12V×10個を積み込んだ。6カ月ほどが経過した1995年10月にはマイナーチェンジが敢行され、搭載エンジンに自然吸気のEMPi仕様となるEN07F型(46ps/5.6kg・m)が加わる。同時にトランスミッションでECVTが廃止され、耐久性と信頼性に優れる3速ATに切り替わった。

 

軽自動車は1998年10月になると、衝突安全性の向上を図る目的の規格改定が実施される。660ccのエンジン排気量はそのままながら、ボディサイズは全長3400×全幅1480×全高2000mmに拡大された。この変更に則して富士重工業はサンバーの全面改良を行い、1999年2月に第6世代をリリース。この時点で、高い人気を誇った5代目サンバーはその役割を終えたのである。

 

 

■レトロ調デザインの先駆けとなった「ディアス・クラシック」

 

レトロ軽自動車ジャンルに先鞭をつけた「サンバー・ディアス・クラシック」

 

最後にトピックをひとつ。軽自動車の新たな訴求ポイントを模索していた富士重工業は、1993年10月に発表したサンバーのスペシャルモデルによってひとつの回答策を披露する。クラシカルな装備アイテムを満載した「サンバー・ディアス・クラシック」で“レトロ調”デザインを提案したのだ。

 

ディアス・クラシックは1BOXサンバーの上級仕様であるディアスをベースに、外装ではクロームメッキグリル&ドアミラー/丸目2灯式ヘッドランプ/シルバー塗装スチールバンパーなどを、内装では専用カラー・トリコット地シート&ドアパネル/ホワイト地メーター(数字等レタリングはブラウン)&空調スイッチパネルなどを組み込み、ホビー感覚あふれる独自のクラシカルスタイルを創出する。また、専用ボディ色のクラシカルグリーンおよびツートンカラーや“SUBARU SAMBAR Dias CLASSIC”エンブレムなども所有欲を促した。市場に放たれたディアス・クラシックは予想以上に販売台数を伸ばし、たちまちヒット作に昇華する。レトロ調モデルには需要がある――そう結論づけた富士重工業のスタッフは、同社の軽乗用車であるヴィヴィオにもレトロ仕様を企画。1995年11月には「ヴィヴィオ・ビストロ」の名で世に送り出したのである。

 

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大貫直次郎

1966年型。自動車専門誌や一般誌などの編集記者を経て、クルマ関連を中心としたフリーランスのエディトリアル・ライターに。愛車はポルシェ911カレラ(930)やスバル・サンバー(TT2)のほか、レストア待ちの不動バ...

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