【今週の大人センテンス】W杯グループリーグ「敗軍の将」たちの美しい去り方

話題

写真:AFP/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第102回 負けた姿から伝わる誇り高さ

 

「いかなる場合でも、試合にはルールがあり、我々はそれらを尊重しなければならない。我々が別の方法で敗退になることを望んでいたとしてもね」byアリュー・シセ監督(セネガル代表)

 

「今回の敗退はとてつもなく悲しく、失望しているが、ドイツにはひじょうに才能があって可能性を持った若い選手たちがいる。このような挫折は他の国も経験していることで、ドイツは正しい結末を導き出さなければならない」byヨアヒム・レーヴ監督(ドイツ代表)

 

「この試合で我々は勝利に値する内容を披露できたと思う。私はそれを誇りに思っているが、やはりこの結果は不満であると言わざるを得ない」byカルロス・ケイロス監督(イラン代表)

 

【センテンスの生い立ち】

「2018FIFAワールドカップ ロシア」は、6月28日で32チームによるグループステージが終わり、勝ち残った16チームによる決勝トーナメントが30日から始まった。日本代表チームもグループを2位で通過し、7月2日深夜27時(7月3日午前3時)からベルギー代表チームと戦う。グループステージで姿を消した16の代表チームの監督たちは、残念な気持ちをにじませながらも、胸を張って前に進もうとする誇り高い姿を見せてくれた。

 

【3つの大人ポイント】

  • 負けっぷりこそが大切だと教えてくれている
  • 言い訳や批判の無意味さをよくわかっている
  • 胸を張ることで負けが輝くことを示している

 

日本代表チームが決勝トーナメントに進出して、ますます盛り上がっているW杯。こういっては失礼ですが、まさかの展開です。グループステージ3戦目の対ポーランド戦の戦い方については、いろんな意見が飛び交っていますが、そもそも「正解」がある話ではありません。ともかく、西野監督率いる日本代表チームは「賭け」に勝ちました。そのことを祝福しつつ、2日深夜のベルギー戦も大いに楽しませてもらいましょう。

 

グループステージが終わって、出場32チームのうち半分の16チームが姿を消しました。スポーツの素晴らしさや美しさは、じつは「負け」にこそあると言っても過言ではありません。そして、見ている側は「負けっぷり」から多くのものを感じ、たくさん学ばせてもらうことができます。そんな意味を込めて、姿を消した16チームの「敗軍の将」、すなわち代表チームの監督のコメントから、印象的なものを3つピックアップしてみました。

 

外せないのは日本と同じグループHで戦い、今大会から取り入れられた「フェアプレー・ポイント」の差で決勝トーナメント進出を逃したセネガル代表のアリュー・シセ監督のコメント。悔しい気持ちは半端ないはずだし、ポーランドに対する日本の終盤の戦い方についても言いたいことはあるでしょう。しかし、それを口にしたところで結果は変わりません。

 

「いかなる場合でも、試合にはルールがあり、我々はそれらを尊重しなければならない。我々が別の方法で敗退になることを望んでいたとしてもね」

こう述べて、ルールに対する理解を示しました。選手たちが日本代表チームより多いイエローカードを受けたことについても、「イエローカードをもらわないようピッチの上でジャンプしていろと選手に要求することはできない」と積極的に戦った選手を称えています。「これがフットボール、フェアプレーのルールだ。その点、我々は劣っていたし、それを受け入れなければいけない」とも。ルックスだけでなく、お人柄もイケメンです。

 

前回王者であり、今回も優勝候補のひとつだったドイツ代表チームが、まさかのグループステージ敗退。しかもグループ最下位でした。10年以上にわたって代表監督を務め、ドイツ代表チームに多くの栄光をもたらしてきたヨアヒム・レーヴ監督は、こう語っています。

 

「今回の敗退はとてつもなく悲しく、失望しているが、ドイツにはひじょうに才能があって可能性を持った若い選手たちがいる。このような挫折は他の国も経験していることで、ドイツは正しい結末を導き出さなければならない」

負けや挫折は、さらなる成長や新たな挑戦へのスタート。「正しい結末」につながれば、今回の悔しさは大きな意味を持ちます。サッカーの代表チームの場合は、やがて強くなることが「正しい結末」かもしれません。しかし、個人的な負けや挫折の場合は、いろんな種類の「正しい結末」があり、いろんな形の生かし方があります。

 

イラン代表チームを率いたカルロス・ケイロス監督は、グループステージ3戦目のポルトガル戦に特別な思いを抱いていました。ポルトガルは母国であり、2008~2010年など何度か代表チームの監督を務めています。そして、ポルトガル戦に勝てば、決勝トーナメントへの進出が決まるという展開でした。しかし、結果は1-1のドロー。

 

「この試合で我々は勝利に値する内容を披露できたと思う。私はそれを誇りに思っているが、やはりこの結果は不満であると言わざるを得ない」

チームを7年間率いたケイロス監督は、ロシアW杯での退任が決まっています。残念な結果になった悔しさは示しつつも、ポルトガルを追い詰めた選手たち誇りに思っていると胸を張って語りました。負けたときはうつむくのが美徳という考え方もありますけど、それは時に一種の言い訳だったり慰めの強要だったりするケースもあります。全力を尽くして戦ったんですから、堂々と胸を張るのが敗者としての美しく潔い態度と言えるでしょう。

 

3者3様の「敗軍の将」の弁を紹介しました。日本代表チームも奇跡が念入りに重なって優勝しない限り、負けて大会を去る日が来ます。そのときは、きっと胸を打つ「負けっぷり」を見せてくれるはず。いや、どんな「負けっぷり」だろうが、たっぷり楽しませてもらったことへの感謝を込めて、あの手この手で高く評価して全力で称えましょう。

 

そう、大人な「負けっぷり」を問われるのは、当事者だけでなく応援している側も同じ。お祭りに便乗して盛り上がったニワカファンは、なおさらです。「言いたいだけ」で張り切ってケチをつけたり、手のひらを返して批判的な講釈を垂れたりするのは、くれぐれも慎みましょう。いや、決勝トーナメントが始まったばかりのタイミングでそういう心配をするのは、明らかに気が早すぎるし縁起でもありませんけど、備えあれば患いなしです。

 

 

【今週の大人の教訓】

ニワカファンはまだ微笑ましくても、ニワカ評論家はけっこうみっともない

この記事が気に入ったらいいね!しよう

citrusの人気記事をお届けします

SNSで記事をシェア

コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

石原壮一郎のプロフィール&記事一覧
ページトップ