豆腐の常温販売が解禁! 「豆腐は足が早い説」はなぜ広まったのか?

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先日「7月中旬にも豆腐の常温販売が解禁!」というニュースが配信されました。このニュースを聞いて思わず「おっ! ようやく!」と小さく声を上げてしまいました。実はこの1~2年、急激に進んでいた動きだったのですが、報道からは具体的な時期が見えてなかったのです。

 

日本は「食の安全」にまつわる「規制緩和」については非常に慎重です。とりわけすでにある規制を解除するのに、科学的なエビデンスや蓄積された(健康被害にまつわる)データは当然ではあるのですが、日本ではさらに慎重に慎重を重ねた検討が重ねられます。

 

今回の「豆腐の常温販売解禁」は技術としては可能でも法律で制限がかけられたものについては、国が舵を切り直してくれないとどうにもならない典型例でした。

 

実は日本でも常温販売できる無菌充填豆腐は製造されています。といっても国内向けではなく、欧州等諸外国向け。1986年から無菌充填豆腐は常温で輸出されています。その量、過去10年間でおよそ5995トン。さらにはアメリカでもこの10年で約52000トンが現地製造されています。無菌充填豆腐は、技術としてはとうの昔に確立されていたのですが、国内には流通させられなかったのです。

 

現在、国内に流通する豆腐は1974(昭和49)年に定められた製造・保存の基準に沿っています。

 

今回、厚生労働省が豆腐の規格基準の改正を視野に入れ、食品安全委員会にリスク評価を依頼。結果、「120℃・4分間の加熱殺菌」というレトルト食品と同等の加熱をすることで、ボツリヌス菌やセレウス菌といった食中毒菌を死滅させ、一定期間保存ができる要件を満たすことに。常温保存可能な無菌充填豆腐がいよいよ国内にも流通することになりそうです。

 

■豆腐と食中毒の歴史

 

それにしてもいまひとつわからないのが、豆腐と食中毒の関係です。少なくとも僕自身は「豆腐で食中毒になった」という人に会ったことはありませんし、報道等でも見かけた記憶はありません。そこで明治時代までさかのぼって新聞記事を調べてみました。

 

古いところだと、1882(明治15)年には流行病に詳しい識者の言として紹介された「コレラを引き起こしかねない食べ合わせの悪いもの」に「焼酒(しょうちう)に豆腐」(原文ママ)とあります。そのほかにも「青海苔に生蕎麦」「素麺に木ノ子」「蟹に氷」など現代では普通に提供されそうなメニューもありますが、これらには(注:ダジャレではありません)ある共通項があります。

 

1923(大正12)年には腸チフスの流行に警鐘を鳴らす記事で、アイスクリームや魚と並んでやはり豆腐がやり玉に上げられました。この当時は大腸菌に汚染された井戸水を食品に使用して食中毒が起きてしまっていたのです。豆腐を水に浸けて保存するのは昔もいまも変わりませんが、飲用に向かない井戸水で食品の保管をしたところ、豆腐や魚が菌に汚染されてしまったということのよう。実際、当時の朝日新聞でも「殊に冷奴豆腐等はテキメンと思はねばならぬ」と生食のリスクを指摘しています。

 

そのほか、現代までの間の新聞記事をあれこれ調べてみましたが、豆腐における食中毒は冷蔵設備が調う前の時代の話。常温で腐敗させたか、飲料用ではない井戸水に放って雑菌を繁殖させた記録以外に「豆腐で食中毒」という記述は確認できませんでした。

 

徐々に冷蔵設備がととのってくる昭和以降となると、ますます「豆腐」と「食中毒」の関連を思わせる記事は少なくなります。あったとしても「濡れ衣」ばかり。

 

例えば1928(昭和3)年、「豆腐を食べて一家族苦悶」という記事(3月6日付朝日新聞・東京夕刊)がありましたが、この記事には「ねこいらず混入の疑ひ」というサブタイトルがついていました。ちなみに猫いらずとは黄燐や亜砒酸で作った殺鼠剤のこと。経緯は不明ながら毒物が混入してしまったという例で製品に罪はありません。「どくいりきけん たべたらしぬで」事案でしたが、記事は「幸ひ四人とも生命は取止めた」(原文ママ)と結ばれていました(ホッ……)。

 

もうひとつは1970(昭和45)年に起きた「たまご豆腐中毒事件」。岐阜、愛知、滋賀の3県でたまご豆腐を食べたことによる死者2名を含む415人の食中毒患者が出た事件だ。製造過程に問題があったが、こちらは豆腐といっても「たまご豆腐」。原料卵に付着していたサルモネラ菌が製品内で増殖したことが食中毒の原因で、通常の豆腐では考えにくい事案でした。

 

まとめると「豆腐は足が早い説」は次のような展開で定着していったと推察されます。

 

1.戦前、冷蔵設備や上水道が整備される前は大腸菌に汚染された井戸水があった。

2.その井戸水で保存した豆腐を食べ、食中毒を発症するケースが散見された。

3.「豆腐には食中毒リスクがある」という噂が「豆腐は足が早い」という言説に転じた。

 

本来、食中毒リスクがあったのは井戸水。その井戸水で保存された豆腐を生食したところ、食中毒になる例が多発し、食中毒の原因食品かのようなイメージが豆腐についてしまった。つまり物事の原因と結果を整理せず、イメージだけが独り歩きしたというパターンと言えそうです。

 

ちなみに上記3に似たロジックとしては「新鮮な朝びき鳥の鳥刺しだから安全」というようなデタラメがときどき聞こえてきますが、鶏肉に由来するカンピロバクター食中毒はどんなに新鮮な鶏肉でもリスクはあります。

 

カンピロバクター汚染は鶏の解体時に起きるケースがほとんどで、過去の調査を見てみると、汚染率は低いもので20%程度からなかには100%という結果が出た調査もございます。豆腐の記事ではありますが、テーマからそれつつ「鶏肉の生食はダメ。絶対」という本稿中でもっとも大切なことを最後に申し添えて、本日の原稿を締めくくらせていただこうと思います。ありがとうふございました。

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フードアクティビスト

松浦達也

フードアクティビスト/編集者&ライター 『dancyu』などの食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで、「調理の仕組みと科学」「食文化」「食から見た地方論」など幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオでの食トレンド...

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