Suica一人勝ちの秘密―圧倒的な処理スピードが「最強の決済ツール」誕生のきっかけ

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■圧倒的処理スピードを誇るSuica

 

かつて電車の乗車券や定期券は磁気カードでした。1990年代に入ってJR東日本はICカードの本格的な開発・導入をめざします。今ではSuicaなどのIC乗車券が主流となり、乗車のたびに乗車券を買う人は少なくなりました。自動改札機の入り口で乗車券を入れると、何歩か歩いたあとに出口でパッと出てきます。その間に自動改札機が磁気カードの乗車券の情報を読み取っているわけです。

 

ところがIC乗車券のSuicaは、改札機の読み取り機にピッと触れるとわずか0・1秒で読み取りが終わり、改札を通過できます。これによって鉄道利用者の利便性は大きく向上しました。

 

一方、JR側から見たとき、Suicaの登場によって何が大きく変わったかというと、メンテナンスの費用が大幅に削減されたということです。磁気カードの場合は自動改札機の摩耗のメンテナンスに毎月数億円もかけていたのですが、基本的にそれが不要になります。自動改札機の保守・管理に要していた莫大なコストを大幅に削減できるということがわかった時点で、JR東日本はICカードの開発に本格的に乗り出します。

 

JR東日本が最も重視したのは処理スピードの速さでした。新宿や東京などのマンモス駅のラッシュアワー時に、自動改札機の処理スピードが遅くて立ち往生してしまったら、大変なことになります。そうした事態を避けるために、ソニーが開発した非接触型ICカード「フェリカ」を採用することになります。非接触型ICカードにはタイプA、タイプB、タイプCなどがあり、フェリカはタイプC(現在はタイプFと呼ばれている)で、タイプAやBにくらべて処理スピードが速かったのです。処理スピードを優先するために、ほかの必要な機能を入れられなかったともいわれているくらいですが、それはともかく、それほど大きな宣伝をしなかったにもかかわらず、Suicaは急速に普及していきます。

 

私はSuicaが出た当初はあまり必要性を感じていなかったのですが、友人が「これはいいね」とやたらSuicaをほめるのです。それも一人ではありません。二人、三人とみんなが素晴らしいという。それで、「スイカなんておかしな名前だなあ」などと思いながら使い始めたのですが、たしかに便利です。券売機でいちいちキップを買わなくてすむので、急いでいるときはとく便利です。私鉄に乗り換えるときもわざわざ改札を出たり入ったりしなくてすみます。

 

多くのJR利用者に支持されたことで乗車券としてのICカード・スイカの導入は大成功となり、メンテナンスコストの削減だけではなく、現金管理の手間が省け人件費の節約につながるなどのメリットをもたらしました。

 

 

■使える電子マネーとして加盟店を増やす

 

JR東日本が次に考えたのは、電子マネーとしての活用です。Suicaに入っているお金(上限2万円)は乗車券を買うだけでは使いきれません。その余っているお金で買い物をしてもらおうということになったのです。そこでSuicaが使える加盟店を開拓していきました。最初は駅の構内、つまり駅ナカにあるキオスクや飲食店でSuicaが使えるようにしました。次が駅ソバ、そして最後が街ナカと、徐々に加盟店を増やしていったのです。駅を中心に同心円を描くようにしてSuicaの利用範囲を広げていったわけです。

 

今回、iPhoneにSuicaが載ることになったことで、すべてのスマホでSuicaを使った買い物ができるようになります。そこで考えられているのが、日本の外に出ていってSuicaを普及させる海外戦略です。実際にはかなり難しいことのようです。規格が違いますし、予算的にもかなり高額になるからです。それに日本国内ではきめ細かいサービスが日本人によくマッチしていたせいでうまくいったのですが、海外では簡単ではないでしょう。

 

それでも東アジアの国々の人々には比較的すんなり受け入れられるかもしれません。いま日本に来ている中国人がSuicaをどんどん使ってファンになる、そして中国に帰ってSuicaのようなものがほしいと考えれば、中国でもSuicaがすぐに使われるようになるかもしれません。

 

2006年にサービスを開始したモバイルSuicaの会員数が伸び悩んでいることをのぞけば、Suicaは満点の評価を与えてもいいくらいです。Suicaの発行枚数5700万枚に対してモバイルSuicaの会員数は365万人(2015年12月時点)ですから、いかにも少ないのですが、iPhoneにSuicaが載れば、モバイルSuicaの会員が大きく増えることが期待されます。

 

 

■ガラパゴス電子マネーから世界へ

 

国内の成功の一方でSuicaはガラケー、つまりガラパゴス・ケータイと同様、日本だけで使われている海外では通用しない電子マネーだといわれてきました。海外展開ができないために、フェリカの価格が高騰するという事態を招いていました。これが原因で海外展開がさらに難しくなってしまったのです。

 

もうひとつSuicaには加盟店を増やす際にマイナスに作用する特徴があります。Suicaはもとが交通乗車券ですから不正乗車を防ぐことが重要で、Suicaと同じフェリカを使った電子マネーでも買い物だけに使われる楽天Edyなどにくらべると、セキュリティー管理がより厳重になっています。それだけコストが余計にかかり、加盟店が支払う手数料がほかの電子マネーより高くなっている可能性があるのです。

 

駅ソバにある喫茶店のルノアールやプロントでは、楽天EdyだけでSuicaは使えないのですが、あるいはこうしたことが関係しているのかもしれません。

 

とはいえ、Suicaはカード業界のなかでは珍しく非常に計画的に事業が進められてきました。2003年にSuicaとクレジットカードのビューカードが一体になった「ビュー・スイカ」が誕生します。発行会社の「ビューカード」は、JR東日本のカード事業部が2009年に独立したものです。iPhoneにSuicaが載ることになったいま、Suicaという電子マネーが日本はもとより世界に向けて大きく成長していく体制が整ったといっていいでしょう。

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岩田 昭男

岩田 昭男

クレジットカードを25年にわたって研究してきた。使い勝手や業界の仕組みなどに精通。最近はポイント、電子マネー、スマホと守備範囲を広げている。

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