災害時、決して「徒歩帰宅」をしてはいけない理由

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台風による大雨や強風、普段雪が少ない地域への大雪、また強い地震などが発生した場合、しばしば鉄道をはじめとする公共交通機関が遅れたり停止したりして、通勤・通学に混乱を生じさせます。このとき報道で「徒歩出社・徒歩帰宅」をする方々の様子が報じられますが、企業はこういった事態に備えてどのような事前対策を取るべきなのでしょうか。都市圏で公共交通機関が停止する状況への備えをご紹介します。

 

 

■非常時に事業継続が必要な企業の対応

 

電気・ガス・水道・通信などのライフライン、交通・流通・金融・報道などの社会インフラ、またスーパーマーケットのように地域の生活を支えている様な企業は、非常時にこそ従業員を出社させて業務を維持しなくてはならない場合があります。こうした企業の多くはBCP・事業継続計画を策定し、例えば台風の接近前に人員を出社待機させたり、徒歩圏内に寮を設けて非常時の参集要員を居住させたりといった対策を講じることになります。

 

しかしこのような企業においても、従業員の安全を考えた場合は、できるだけ出社する人数は絞るべきです。災害時に維持する事業以外の要員、保守やメンテナンスなど重要だが緊急ではない業務の要員、あるいはリモートワークで自宅から業務を継続できる要員などは、次に紹介する一般企業の事前対応策に準じ、無理矢理出社させるのではなく、できるだけ自宅待機にできるような計画が必要になります。

 

 

■一般企業の出社対策① 会社と連絡が取れる場合

 

公共交通機関が停止する様な事態に備えた出社対策は、大きく2種類用意します。ひとつは「会社から連絡ができる」場合の準備で、台風や大雪などの発生が事前に分かっているような状況で必要になります。もうひとつは「連絡が取れない・間に合わない」場合の準備で、大地震のような大規模災害時や、通勤時間帯に突発的な災害が発生したような状況下で必要になります。

 

まず「会社から連絡ができる」場合の準備です。平日の夜間や休日に、台風の上陸や大雨・大雪の報道がされたり、通信が途絶しない程度に大きな地震が発生したりして、翌朝・週明けの公共交通機関が乱れることが想定される場合はどうすればよいでしょうか。大原則としては、できるだけ出社をさせず、自宅に留まらせることが望ましいと言えます。

 

災害級の被害をもたらす気象現象は、大地震と異なり突然生じることはなく、基本的には天気予報やニュースを通じて事前に予報を得ることができます。「いつ・どこに・どのくらい」の影響が生じるかが事前に分かっているのですから、無理に出社させて負傷した場合は安全配慮義務違反を問われたり、万が一重症や死亡といった事態になれば、遺族から損害賠償を求められたりする可能性も高くあります。

 

また2018年6月に発生した大阪府北部の地震は、朝の出勤時間帯に発生したため、鉄道をはじめとする公共交通機関が停止し、徒歩出社・徒歩帰宅をする方々で大混雑となりました。地震の大きさがそれほど大きな物ではなかったため被害は限定的となっておりますが、2016年の熊本地震のように、より大きな地震が後から発生するような状況になっていれば、徒歩帰宅者を落下物や火災を襲い、多くの死傷者が出ていた可能性もあるのです。

 

そのため、公共交通機関が停止するような事態が発生した場合は、原則として従業員を出社させず、安全が確認できるまで自宅に待機させるのが望ましい対応です。企業によっては就業規則を見直し、災害発生時の勤怠ポリシーを定めておく必要がある場合もあるでしょう。また意思決定者間の連絡網と出社基準の策定、一般従業員への通知方法の整備も必要です。訓練をかねて、安否確認システムなどを用いた一斉連絡などを行うことも有効です。

 

 

■一般企業における事前対応、会社から連絡ができない場合

 

次に、「連絡が取れない・間に合わない」場合の準備。これは、大規模な停電や通信の途絶を伴う規模の大地震が生じた場合、あるいは通勤時間帯に何かしらの災害が発生し、会社から従業員への一斉連絡が間に合わない状況を想定します。このような場合は、会社からの指示が出せないことになりますので、従業員が個々に出社判断を下せるような基準を定めておく必要があります。

 

一切の連絡手段が途絶するような状況では、公共交通機関などは停止している可能性が高いと言えます。そのため基本的には、「何かしらの災害が生じ、会社から指示がない場合、または連絡が取れない場合は、公共交通機関が再開するか、会社と連絡が取れるようになるまで、出社停止とする」といった基準を設け、あらかじめ周知しておくことが重要です。

 

 

■「徒歩帰宅」の経験値を次の震災に生かしてはならない

 

2011年3月11日の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、直接的な被災地ではなかった首都圏においても、JRをはじめとする鉄道が停止し、515万人という膨大な「帰宅困難者」が発生しました。さらに前述の大阪府北部地震においても、多くの徒歩帰宅者が発生しました。そしてこのとき、「大変だけどなんとか歩いて帰れる」という経験値を得られた方も多く生じたのではないでしょうか。

 

しかし、近い将来の発生が想定される「首都直下地震」や、その他の大都市でも発生の可能性がある直下地震が生じた場合、「大変だけどなんとか歩いて帰れる」という教訓は、かえって危険な状況を招きかねません。例えば1995年の阪神・淡路大震災、あの地震の直後の被災地を、数十~数百万人という方が歩いて帰宅した場合、何が生じるでしょうか?倒壊した建物に行き先を阻まれ、そこを余震による落下物や火災が襲った場合、多くの死傷者が出ることが想定されます。

 

東日本大震災時の東京や、大阪府北部地震における大阪市内で、徒歩帰宅者に死傷者が出なかったのは、たまたま運と状況がよかったためです。状況によっては、歩いて帰宅をするという行為そのものが、命を失う行為につながりかねません。公共交通機関が停止するような状況においては従業員を出社・帰宅させない、これを入口とした準備が重要であると言えます。

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備え・防災アドバイザー

高荷智也

ソナエルワークス代表、備え・防災アドバイザー。「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災対策」と「経営改善にもつながる中小企業の身の丈BCP」のポイントを解説するフリ...

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