電化製品の王者、電気自動車ビジネスに参入!──ダイソンの壮大な2020年構想

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紙パックが要らないサイクロン掃除機や羽根のない扇風機で家電のイメージを塗り替えてきた英電化製品ブランド、ダイソンが電気自動車ビジネスに参入するという。英版『GQ』がジェームズ・ダイソンを直撃した。

 

■ダイソンとマスク

 

2018年3月上旬、コードレス掃除機の最新モデル「V10」を披露するために、ジェームズ・ダイソンみずからがニューヨークでプレゼンテーションの舞台に立った。家庭用掃除機といえば電源コードのつながった不格好な本体を引っ張り回さねばならないものという旧来のイメージを完全に覆したのが、このV10へと至るダイソンのコードレス掃除機だ。

 

すらりと一直線にのびるその形状や引き金のようなスイッチがどこかライフル銃を思わせることから、カップルが1台を買っていくと、かなりの確率で、女性ではなく男性のほうが掃除係を受け持つようになるのだという。うつむいた男性が「床撃ち銃」の操作に没頭するというコミカルな構図が見られるわけだ。

 

お行儀のよい拍手が客席からあがるなか壇上に現れたジェームズ・ダイソンは、挨拶を早々に切り上げると、V10の説明に取りかかった。300台の組立ロボットが製造を担うので人間の手は必要とされず、回転するこのモーターは横方向に約2トン相当の力を発生する、というような説明に続いて、もうこれ以上コード付き掃除機は開発しないという方針がダイソンの口から語られると、またもお行儀のよい拍手が客席のあちこちからあがった。

 

続けてダイソンは実演をはじめた。V10の実機を片手に、フローリングの床からまた別種の硬質の床面へ、そして横型のブラインドへとV10のヘッドを滑らせていく。「ここにちょうどいいコーヒー豆の列がありますね。ひとつ挑戦してみましょう」と、折々に言葉を差しはさみながら。

 

だがここで時計の針を5カ月巻き戻し、アメリカ大陸の西の果てに視線を移すと、カリフォルニアではもうひとりの世界的なイノベーターが、新製品のプレゼンテーションをはじめようとしていた。ジーンズに黒のTシャツ、薄手のジャケットといういでたちのイーロン・マスクは、一挙にふたつの大発表をひっさげてやってきたのだ。

 

 

 

コードレスクリーナー 「Cyclone V10」 
ダイソンは長年かけて電気式デジタルモーターの完成度を高めてきた。最新モデルのこのV10に搭載される新開発のモーターは毎分12万5000回転と、F1エンジンの8倍で高速回転する。ダイソンの電気自動車に搭載されるモーターは、それをベースに大型化したものとなるのではないだろうか。

 

 

まずはEVトラック─牽引式のセミトレーラー─の「セミ」だ。スポットライトがまばゆく光り、煙がステージを包むなかマスクが披露した「セミ」は、0-60マイル(時速約97km)加速が5秒という別次元の動力性能に加えて、航続距離も500マイル(約800km)で、おまけに運用コストもディーゼルトラックの半額に迫るという驚異的なスペックに彩られていた。

 

その「セミ」に喝采を送る観客席に向かってイーロン・マスクが続けて披露したのは、スポーツカーである「ロードスター」の新型だ。こちらは0-60マイルが1.9秒、最高時速が250マイル(約400km)と、世界最速の市販車と呼んで差し支えないものだ。だが、真の驚きはむしろ別のところにあった。このロードスター・モデル2は航続距離が620マイル(約1000km)と、これまでのテスラのフラッグシップモデル「モデルS」の2倍近くにもなり、ほとんどのガソリン車の満タン航続距離を軽々と上回るからだ。

 

ステージ上でイーロン・マスクが言い放つ。「強烈なこの一撃が、ガソリン車を完全に打ち負かすことになるでしょう」

 

このようにしてふたりのイノヴェーターは、それぞれ独特のやり方で新製品のプレゼンテーションを行った。しかしそれにしても、共通点よりも対照的な部分の際立つふたりだ。

 

47歳で鼻っ柱の強いイーロン・マスクと、71歳で技術者肌のジェームズ・ダイソン。同一の女性との復縁を含めて3回結婚し、火星で死ぬことが望みだと公言している男と、もう50年もひとりの女性との結婚を維持し、英国の片隅から生活拠点を余所に移すことなど考えたこともなさそうな男。

 

PayPalの前身となる決済ソフトウェアを考案したことでほとんど一夜にしてビリオネアになった男と、15年をかけて5127台もの電気掃除機の試作品をボツにしたはてにようやく成功をつかんだ男。人工知能の技術開発が「不死の独裁者」を生み出すことを恐れるイーロン・マスクと、日本の『家電批評』誌の辛口評価をいまだに気に病むジェームズ・ダイソン。

 

そんな対照的なふたりが今、同じ製品ジャンルを土俵にがっぷり四つに組んで争おうとしている。ダイソンが昨年、EVに参入する意向を明らかにしたのだ。テスラの「セミ」と「ロードスター・モデル2」の市場投入が見込まれる2020年を目処に、ダイソンも独自のEVをリリースしようとしているからだ。2040年からガソリン車とディーゼル車の新規販売を禁止することはすでに英政府から正式発表されており、テスラとダイソンが自動車新時代の両雄として並び立つ未来図も可能性として見えてきた。

 

 

■ダイソンが家電開発で蓄積してきたコア技術の真価

 

ダイソンの手がける電気自動車の予想図

ダイソンは毎週のように特許を申請しているわけだが、これまでの技術開発の成果がどんな形で同社初の電気自動車(EV)に生かされるのか、予想図を描いてみた。

 

それにしてもなぜ、家電メーカーのダイソンがEVなどという畑違いの分野に挑もうというのか? 多くの人が違和感を抱くのも無理からぬことだが、ダイソンがこれまで培ってきたコア技術をつぶさに見れば、確かな裏付けがあることが理解されてくるに違いない。

 

まず、最新のコードレス掃除機「V10」のモーターを見てみよう。毎分12万5000というその回転数はF1レースカーの8倍、ジャンボジェット機の10倍にもなり、モーター内部にあるマグネットが高熱で白熱するほどだ。そこまで高速で回転し、高熱を発する部品を収容するためのシャフトには航空宇宙レベルの品質が求められ、ある釣り具メーカーが開発したセラミックシャフトが用いられているという。さらに、空転を防止するために機械学習などの人工知能も用いられている。

 

いっぽう、ロボット掃除機の360 Eyeには画期的なパノラマカメラ技術と人工知能が搭載され、長く使えば使うほど部屋の環境を学習する。ティーンエイジャーのベッドルームで、落ちている靴下を避けて掃除をすることもできるようになるのだという。

 

かくも比類ない電気モーターの技術と、自動運転にそのまま応用できそうな障害物回避技術。そこにもうひとつ付け加えるべきなのが、ハンドドライヤー「エアブレード」に用いられている時速400マイル(約640km)のエアジェットで水滴を吹き飛ばす技術だ。ジェームズ・ダイソンはこれが、現在のゴムブレード式ワイパーの代替技術たりうると主張している。従来のワイパーが土埃や泥をフロントガラス上で行ったり来たりさせるだけで、表面に傷をつけているという問題を、きれいさっぱり解消できるというのだ。

 

EVへの挑戦は、ジェームズ・ダイソンにとっては与えられた使命としての側面も大きい。90年代前半に会社を設立して間もない頃、彼はディーゼル車の排気に含まれる煤状物質に着目し、掃除機の技術を応用して専用のフィルターを開発したこともあったからだ。企業として順調な成長を遂げた今こそが、新たな挑戦への好機だというのだ。ダイソンはEV開発に20億ポンド以上の投資を予定し、すでに400人のスタッフをプロジェクトに投入している。フロアマットに起因する事故がトヨタの経営を揺るがしたように、人命を預かるがゆえの厳しさが自動車業界にはあるが、挑戦をやめた企業がやがて萎み、いずれ沈んでいくというのもまた真実であるからだ。

 

"ナイフの刃の上を歩むような人生ですから、いつでもアドレナリン・ラッシュに見舞われてます"

 

創業者のジェームズ・ダイソンは、紙パックを使用しないサイクロン搭載掃除機を開発するにあたり、15年もの歳月をかけた。

 

 

■ジェームズ・ダイソンの人物像

 

なるほど、EV開発にかける意気込みはわかった。では、そのジェームズ・ダイソンとは、いったいどのような人物なのか? よく知られているのが、美術教師である妻の収入に頼りながら15年間に5127台の試作品で失敗し続けたはてに最初のサイクロン掃除機を世に送り出したというストーリーだ。

 

そんなダイソンは、世界的な成功を手にした今なお発明への努力を続けている希有な発明家だ。発明というとぱっと電球が灯るようなひらめきの瞬間を人々はイメージしがちだが、ひらめきを形にしてもうまくいかず、何度も何度も行き詰まりながらも諦めずに試みを繰り返したはてに、ようやく物にできるのが発明である。

 

先ごろ『Wired』誌の取材を受けた際には、「iPhoneのようなグラマラスな製品に手を出そうとは思いません。人々が反感を抱いている、いや毛嫌いすらしている製品にこそダイソンの出番があるのだと考えています」と答えている。そこからも窺えるように、現今のシリコンヴァレーの流儀とはまったく異なる哲学のもとに彼は製品開発を続けている。人々をつなぐことをお題目にしたサーヴィスが往々にして非正規の低賃金労働者を大量生産する現象ばかりをもたらし、結果としてむしろ人々の分断をより大きくすることにしかなっていない現状で、「機能を果たす実製品が私は好きなのです」というジェームズ・ダイソンの発言には重みが漂う。

 

ジェームズ・ダイソンは目下、Eメールの送信は一日6通までというルールをみずからに課している。そうすれば、受け取るEメールも6通までで済むからだ。この2月に英国が寒波に見舞われたことがあったが、大雪のなか、閉ざされた社屋に入ろうとする人物がおり、管理部門が電話連絡を受けて確認したところ、ジェームズ・ダイソンその人だったという。71歳の今なおそこまでして製品開発の時間を捻出しようというのが彼の比類ないところで、「人生で今ほど猛烈に働いた時期はありません」とも語っている。

 

 

■全固体電池の自社開発が成功の鍵に

 

ダイソンはSakti3という電池メーカーを2015年に買収している。まだ実用化されてはいないものの、同社の全固体電池技術に期待してのことだ。全固体電池とは、現状のリチウムイオン電池の電解液を固体電解質に置き換えたもので、発火などの危険性が激減するうえに容量も高めることができ、わずか数分間で満充電できるようになるなど、現状のEVのボトルネックである電池の問題をみごとに解消しうるものなのだ。

 

ガソリン車からEVへとプラットフォームがシフトするなか、クルマという製品そのもののあり方も変わっていかねばならないとダイソンは考えている。テスラも、従来の自動車メーカーも、部品の供給は他社に任せてきたが、極力多くを内製でまかなおうとダイソンが考えていることもそのひとつだ。Sakti3の買収もその流れに連なるものだし、自動車産業からも多くの人材をヘッドハントしているという。

 

このようにダイソンは2020年を目処にEVの開発を続けているが、その視野の先には自動車だけでなく飛行機もある、とも語った。ダイソンのコア技術はたしかにクルマのみならず、飛行機にも応用しうる。ダイソンの企業イメージはこれまで長らく、黙々と床を見つめて操るサイクロン掃除機がつくってきた。しかし、いずれは、空を見上げて飛んでいく飛行機がダイソンの新しい企業イメージになっていくのかもしれない。

 

 

JAMES DYSON / ジェームズ・ダイソン
ダイソン創業者
1947年英国生まれ。美術専門学校を経て英王立芸術大学院卒業。70年代に紙パック不要のサイクロン掃除機を発明。84年、日本で初のサイクロン搭載掃除機「Gフォース」を発売。2007年、ナイト爵の称号を授与。

文:スチュアート・マガーク
英版『GQ』のアソシエート・エディター。シリアの難民キャンプなどの政治・社会問題から、エイミー・アダムス、エディ・レッドメインといったスターのカバーストーリーまでを幅広く担当。


EDITOR'S NOTE

新たな市場に挑もうとしている創業者のジェームズ・ダイソンは今年71歳。イーロン・マスク率いるテスラが華々しく脚光を浴びているEVの分野で、はたしてダイソンに勝算はあるのか? 英版『GQ』に掲載されたインタヴュー記事を転載します。

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