不名誉な歴史を持つ「透明コーラ」、その呪縛から逃れることができるのか?

ライフスタイル

出典:「コカ・コーラ クリア」公式ブランドサイトより

■好き嫌い…行動科学最大の謎

 

私の本業は、商品・サービスの開発やそのための調査なのですが、それをしていく上で判断が難しいのが人々の「好き嫌い」です。品質の「良し悪し」は割と判断しやすいわけですが、色や香り、風合い、デザインなどは人によって好みが違い、また地域や時代の影響を受けることも多く、絶対的な判断基準を持ちにくいことが多いです。

 

エンターテイメントの世界でも「どうしてあの曲、あの映画はヒットしたのか?」など謎は多いものですが、そんな疑問に行動科学的に答えようとしているのが、米国のジャーナリスト、トム・ヴァンダービルトが書いた『好き嫌い―行動科学最大の謎』です。彼は『Rolling Stones』誌などにも寄稿するロックファンであり、音楽事例も多く、個人的にも大変興味深い内容でした。

 

 

■残念な結果に終わった「クリスタルペプシ」

 

この本で事例のひとつとして取り上げられているのが透明コーラ。1992年末にペプシコが北米で全国発売に踏み切ったクリスタルペプシです。

 

ミネラルウォーターが売れるようになった当時、食器用洗剤から消臭剤まで「透明タイプ」のトレンド(「Clear Craze」と呼ばれる現象)があり、健康志向も高まる中、ペプシコが本来は透明ではないコーラを透明にすることを“いいアイデア”と考えたことは納得がいきます。

 

発売に先駆け始めた5ヶ所のテストマーケットは順調な滑り出しでした。Van Halenの「Right Now」を起用し、米国では大掛かりなマーケティングの象徴ともなるスーパーボウルでのCMも投下、全国流通3ヶ月後には2.4%のシェアを獲得しました。しかしながら、その後は勢いを失い、1994年には市場から撤退……。期待外れな事例の一つとして、取り上げられています。

 

 

どうして勢いを失ったのか? ヴァンダービルトはこの事例に対して以下の分析をしています。

 

新聞社が行なったブラインドテストの結果では、人々はクリスタルペプシの味が好きだったが、それは目隠しをされた場合に限られており、実際の商品は期待にそぐわないものだった。

 

また、クリスタルペプシという名前そのものが、ペプシコーラに似た製品だろうと消費者に思わせてしまったが、ペプシコーラに十分に似た味とはいえなかった。

 

つまり、コンセプト(文脈や意味付けと言ってもいい)が生み出す期待によって、その評価は変わってしまうということです。

 

それ以上に彼が指摘しているのは、ペプシコのような会社なら綿密な製品テストを行っているとの想定の元、消費者の嗜好を予想するのがいかに難しいかということです。かいつまんで言えば、人々は、最初は新しいものが好きであっても次第に好きでなくなってしまうことがある(逆のケースも……)、飽きるということです。しかも、ややこしいことに、その飽き易さは、“単調でないもの”の方が顕著な傾向があります。だから、製品テストのいい結果が持続する保証はないのです。

 

 

■ソ連の透明コーラ?

 

ちなみにコカ・コーラ社も、1992年末にノンカロリーのコーラ風味飲料「タブクリア」を発売してペプシコに対抗しましたが、こちらもクリスタルペプシと同じ運命をたどり、市場から姿を消しました。

 

余談ですが、世界初の透明コーラは、1940年代にコカ・コーラ社がソ連のゲオルギー・ジューコフ元帥のリクエストで生産したホワイトコークです。コークが米国帝国主義の象徴と見なされて発売禁止になり、コーク好きのジューコフ元帥がトルーマン大統領にリクエストし、ウォッカに見せかけて輸入した密造品です。

 

 

 

■透明コーラは呪縛から逃れられるのか?

 

2018年6月には、コカ・コーラ社が「コカ・コーラ クリア」の日本限定発売に踏み切りました。昨年ごろから「PREMIUM MORNING TEA」(透明なアイスティー)、「アサヒクリアラテ」(透明なアイスラテ)、「オールフリー オールタイム」(透明なノンアルコールビール)など本来透明でない飲料が透明になった新製品のリリースが続いており、その本命とも言えます。

 

当然コカ・コーラ社も、この不名誉な透明コーラの歴史について十分把握しているでしょう。そこであえて発売に踏み切った理由とは?

 

米国のような国では、コーラはビバレージ市場の王者です。コーラに対するこだわりも象徴的に高く、コーラ戦争に勝つものが勝者となる図式です。一方、日本市場はコーラ、その他の炭酸飲料、茶系、コーヒーなどはるかに多様性があり、新製品の数も多い(同時に消えていく数も多い)でしょう。

 

コカ・コーラ社の場合、「昨年約100種類の新製品を投入した」と2017年2月の記事で言っています。よって、コーラに対してリスクも取りやすく、数多くある新製品のひとつとしてトライアルすることに抵抗が大きくなかったのかもしれません。また、1993年に前述の「タブクリア」を日本市場に導入してはいますが、主力ブランドでは透明飲料を導入していなかったため、市場環境も変わり、新しいものを取り入れる傾向がある日本の消費者でチャレンジしてみる価値があると判断した……。

 

そこそこ妥当な推測だとは思いますが、「コカ・コーラ クリア」がコーラの定番アイテムになるかを考えた場合、ヴァンダービルトのロジックを適応すると、かなりハードルは高いと個人的には考えます。同時に好機を狙いつつも、限られた期間で「死ぬために生まれる」のも良しとする戦略であれば、定番にならなかったとしても失策とは言えないのかもしれません。

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プロダクト・リサーチャー

四方宏明

1959年京都生まれ。神戸大学卒業後、1981年にP&Gに入社。以降、SK-II、パンパースなど、様々な消費財の商品開発に33年間携わる。2014年より、conconcomコンサルタント、WATER DESIGN顧問として、商品、サービス...

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