子ども向け栄養ドリンク剤に違和感…「がんばる」ことを批判するネット民は世界基準?

話題

 

■ネットで叩かれやすい「がんばれ」という言葉

 

「ファイト一発!」でおなじみの栄養ドリンク剤「リポビタンD」、その子ども向けシリーズの1つ、「リポビタンJr.」がネット上で最近注目を集めているのをご存知でしょうか? 注目のきっかけとなったのは、ツイッターでの投稿記事。製品パッケージの上に印刷されている「疲れてもがんばれ!小中学生(8~14才)」の宣伝コピーに対し、あるツイッターユーザーが、「やっぱり日本って病んでると思う。なんでこうなった!?」と投稿したところ、そのコメントに対し、多くの意見が飛び交いました。

 

その中で目立ったのが、「子どもにそこまでやらせなくても…」という意見。

「子供は疲れたら寝ればいい」

「疲れたら休ませてやれ」

たしかに、パッケージに描かれている勉強中の少年は、落ちそうなまぶたを必死にこらえて机に向かっています……。

 

この件のみならず、ネット上では、「がんばること」を批判する傾向があるような気がします。例えば、会社での長時間労働や残業。これらを肯定するようなテーマには、徹底して「ナンセンス」と断じ、SNSでたくさんの投稿が寄せられます。果たして、「がんばれ!」は、メッセージとしてどうなのか? がんばることは、いけないことなのか?筆者は心理学を専門にしていることもあり、この言葉に非常に敏感な一人。今回の「がんばれ」騒動であらためて考えさせられたその意味合いを、心理学的に考察していきたいと思います。

 

 

■「がんばれ!」は人によって、受け取り方が180度違う

 

あなたは、「がんばれ!」と言われたらどう感じますか?

「よし、がんばるぞ!」と思うタイプでしょうか?

それとも

「これじゃ、まだ努力が足りないか…」と思うタイプでしょうか?

 

前者は、「がんばれ!」を「自分への期待感」として捉えます。「『がんばれ』と言われたということは、自分は期待されているということだ。ならばがんばろう!」とその言葉を糧に、前に進むことができるタイプです。

 

一方、後者は、「がんばれ!」を「自分への不足感」として捉えます。「『がんばれ』と言われたということは、自分はまだまだ努力が足りていないということだ」とその言葉によって、自分を否定された感覚が生まれ、焦り、不安感を起こしてしまうタイプです。

 

筆者の周りには、中高年の方に前者タイプが多く、若い人に後者タイプが多い、という傾向が見られたので、育ってきた時代背景も多少関係しているのかもしれません。しかし、実際には、それ以上に個人差が大きく、世代でくっきり区切ることは難しい「主観性の違い」がそこにはあるでしょう。真逆の心理作用を与えうる「がんばれ」というフレーズは、とても使い勝手の難しい言葉と言えそうです。

 

 

■「がんばれ」を100%ポジティブに伝えるには?

 

では、「がんばれ」に置き代わる言葉とは何なのでしょうか? 私は育児カウンセラーという職業柄、お母さま方とお話しする機会が多いのですが、そこでは、お子さんに対し、「がんばって!」ではなく、「がんばっているね」「がんばったね」を使うことをおすすめしています。

 

「がんばっているね」は進行形なので、今やっていることもほめつつ、今からやることに対してのモチベーションも上げることができます。また、「がんばったね」は、そこまでの努力をしっかり認めてあげるので、子どもに達成感が生まれ、「よしまた次もがんばろう」という気持ちが芽生えやすくなります。このようなちょっとした言葉の違いが、モチベーションの違いにつながっていきます。

 

 

■海外と日本では「がんばる」が意味する度合いが違う

 

ただ、最近ネットで、根性論的ながんばりが非難されるようになったのは、日本人のがんばりが体力的、精神的にもう極限にきているからではないでしょうか。筆者は海外暮らしが長く、人並みに苦労もしてきたので、その中で外国における「がんばれ」の意味合いを肌で感じてきました。それで分かるのは、日本人は、体を壊してまでがんばり過ぎる傾向があるということ。

 

ヨーロッパの人々の「がんばる」と日本人の「がんばる」では、明らかにその設定が違います。「日本人は夜中まで働いている」「1年じゅう働いている」「何のために働いているんだ?」この言葉を、いったい何度聞いたことでしょう。外国人には、「なぜ日本人はそこまでがんばる?」と不思議に映るのです。だから、今回のようにネット上で、「がんばれ」という言葉が非難を受けたとしても、世界から見れば、「そりゃ当然だ」ということになるでしょう。

 

 

■筋違いのがんばりは、心理的に逆効果になる

 

先日、目上のある方からこんなお話を聞きました。「会社によくいるのが、『自分はがんばってます』を見せる方法を勘違いしているヤツだ。遅くまでいること、夜中に近い時間にメールを打ってくること、それはがんばりでもなんでもない。がんばりとは、中身、質を高めることだ」と。たしかにその通りです。

 

でも、日本では元来、「力を注ぐ姿」が美とされているので、いつのまにか「力を注ぐこと自体」が、行動の目的にすり替わっていることがよくあります。「仕事をしていないと落ち着かない」「自分の居場所はそこしかない」かのように、「がんばっている自分」をキープすることに自らの存在価値を見出していることさえ、よくあることなのです。しかし、このような目的がすり替わった「がんばり」は、ゴールが見えにくいため、慢性的な不完全燃焼を起こしがちです。いつまでたっても頂上にたどり着かない登山をしている状態と同じなのです。心理学では、「がんばるのはOK、でもがんばり過ぎるのはNG」としています。言葉上では微妙な違いですが、両者には大きな違いがあります。

 

がんばるというのは、目的をもって、効率的に力が注げている状態です。一方、がんばり過ぎている状態というのは、自分を強く追い込んでいるため、「集中すべきことに集中できない」「頭が真っ白になった」という現象が出てきます。なぜかというと、頭の中は、常に「絶対に失敗できない」というプレッシャーにさらされているため、「もし失敗してしまったら?」「もう後がない…」という不安ばかりが沸き起こって、逆に集中ができなくなるからです。がんばり過ぎるのは、非効率というわけです。

 

だから、「がんばれ、がんばれ」と周りが鼓舞していいのは、その効果を感じられるときまで。それ以上は、空回りを起こすこともあるので、避けるべきと言えます。よく使う言葉だけに、気をつけて使いたいものですね。

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オランダ心理学会 認定心理士

佐藤めぐみ

子育て心理学が専門のAll About子育てガイド。オランダ在住。 育児相談室「ポジカフェ」主宰&育児コンサルタントとして、ママ向けのストレス管理、叱り方のノウハウをお伝えするため日々活動中。 著書: 「子...

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