【今週の大人センテンス】ノーベル賞の本庶佑先生が語る「信じない」大切さ

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写真:毎日新聞社/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第110回 目先の結果を求める風潮を批判

 

「教科書に書いてあることを信じない。本当はどうなっているのかという心を大切にする」by本庶佑

 

【センテンスの生い立ち】

10月1日、京都大学特別教授の本庶佑氏(76)に、2018年のノーベル医学・生理学賞が授与されることが発表された。日本人のノーベル賞受賞者は2年ぶりで計24人。免疫を抑制するタンパク質を発見したことが、がん免疫治療薬「オプジーボ」の開発につながり、がん治療に新たな道を切り開いた功績が評価された。本庶氏は、受賞が決まった日の記者会見の中で、科学者になろうと思っている子どもたちに向けて、上のようなメッセージを贈った。

 

【3つの大人ポイント】

  • 未来を担う研究者の卵たちへの愛にあふれている
  • 世俗的なことには興味がない様子が伝わってくる
  • 賞金を使って若手研究者を支援しようとしている

 

もちろん純粋なホメ言葉ですが、ノーベル賞の受賞が決まった本庶先生は、いかにも「ザ・研究者」という雰囲気を醸し出しています。それを自分の使命と受け止めて、一途に研究に打ち込んできた人の力強さとカッコよさが、全身から満ちあふれていました。本当におめでとうございます。夫婦並んでの記者会見で、ともに人生を歩んできた妻の滋子さんと、お互いにねぎらいの言葉をかけあっている様子も、ほのぼの&感動的でした。

 

難しいことはよくわかりませんが、本庶先生と共同受賞者であるジェームズ・アリソン米テキサス大教授の研究のおかげで、がん治療に新しい道が切り開かれたようです。研究を元に「オプジーボ」という抗がん剤が開発され、その薬のおかげで重い状態から元気になった患者さんが、すでにたくさんいるとか。今後の研究で、さらに効果的でさらに幅広い活用法が確立されることでしょう。ともかく、すごいことです。

 

本庶先生は医学の基礎研究の世界では超有名人で、これまでも多くの画期的な成果を上げていて、30年ほど前からノーベル賞の候補に名前があがっていました。今回の受賞決定に対して先生をよく知る人たちからは、心からの祝福と「やっとか」という安堵の声が寄せられています。ただ、私たち門外漢は「本庶佑」という名前は存じ上げませんでした。ご尊顔を初めて見たのは、決まったという発表があった日の記者会見です。

 

その記者会見で、本庶先生はたくさんの名言、たくさんの大人センテンスを発してくれました。1日夜に配信された「毎日新聞(デジタル毎日)」の記事【<ノーベル賞>「多くの幸運で受賞に」 本庶さん一問一答】を元に、いくつか抜粋します。

 

--心がけていることやモットーは。

研究に関しては何か知りたいという好奇心。もう一つは簡単に信じないこと。ネイチャー、サイエンス(の論文)も10年たてば残って1割だ。自分の目で確信できるまでやる。自分の頭で考えて納得できるまでやる。

 

--科学者になろうと思う子どもに。

一番重要なのは、何か知りたい、不思議だと思う心を大切にする。教科書に書いてあることを信じない。本当はどうなっているのかという心を大切にする。自分の目でものを見る、そして納得する。そこまであきらめない。そういう若い小中学生が研究の道を志してほしい。

 

--ノーベル賞を待っていたか。

長いとか待ったとか僕自身はあまり感じていない。僕はゴルフが好きなんで、ゴルフ場にしょっちゅう行くが、メンバーがやってきて「肺がんだが、あんたの薬のおかげで、これが最後のラウンドと思っていたが、よくなってまたゴルフできるんや」と話をされるとね、これ以上の幸せはない。何の賞をもらうよりもそれで十分だと思っている。

 

会見を通じて、この部分以外でも何度か出てきたのが「信じない」という言葉。たしかに、医学や科学にしてもビジネスの手法にしても、あるいは育児法やダイエット法にしても、過去の常識の多くは現在の非常識だし、現在の常識の多くも何年か先には「あれは間違っていた」という話になるでしょう。しかし、私たちは目先の安心や手ごたえが欲しくて、いろんなものに対して素直に「信じる」という態度を取りがちです。

 

ネット上にも本当かウソかわからない情報があふれていますが、自分が信じたい情報だけを信じて、同じ考えの人たちとうなずき合っていれば、さぞ幸せになれるでしょう。本人は「充実した生き方」のような気がしているかもしれませんが、実際は目先の甘い誘惑に溺れているだけで、進歩も発見もないし、知る喜びや考える楽しさも感じられません。

 

いっぽうで、とにかく疑えばいい、斜めからものを言っていればいいという話でもないのが難しいところ。人のいうことややることにケチばかりつけて、天邪鬼な自分に酔いしれている人は、いわば「信じない」ことで何かが得られると信じていると言えるでしょう。それはそれで安直だし、本気で好奇心を働かせているわけではありません。先生が言う「自分の頭で考える」という姿勢と対局にあるという点では、何でも信じるのと五十歩百歩です。

 

ノーベル賞という一種のお祭りのおかげで、「本庶佑」という素晴らしい人物にスポットが当たり、その言葉をきっかけにいろんなことを考えさせてもらうことができました。ありがたいことです。そして先生は、いろんな場で人類の未来のためには「基礎研究こそが大切なんだ」と熱く訴えています。日本では昨今、目先の結果を求める風潮がどんどん強まり、基礎研究が軽視されていることも、本庶先生の言葉によってあらためて認識されました。

 

先生は受賞が決まった翌日に、共同受賞者と半分ずつ受け取る賞金のすべて(約5750万円)と、研究を元に開発された薬の特許使用料を元に、生命科学分野の若手研究者を支援する基金を設立する考えを明らかにしています。そのお金のおかげで、たくさんの画期的な大発見が生まれることでしょう。いや、そんなふうに結果を求めてはいけませんね。ともかく多くの若手研究者が研究に没頭できることが大切で、何が生まれるかは神のみぞ知るですね。

 

先生が今後いちばんしたいことは、ゴルフでの「エージシュート(自分の年齢以下のスコアで上がること)」だとか。幾多の困難を乗り越えてきた先生なら、きっといつか達成することでしょう。そのニュースも、楽しみにさせていただきたいと思います。

 

 

【今週の大人の教訓】

報われても報われなくても、信じた道を進むことが幸せの条件

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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