吹奏楽目線で振り返る夏の甲子園

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出場する56校全校の試合をアルプススタンドで観戦する高校野球ブラバン応援研究家の梅津有希子が、完全吹奏楽目線で100回目の夏の甲子園をおさらいする。

 

開会式から準々決勝まで毎日アルプススタンドに通い、数々の熱い応援と名勝負を観戦した。


開会式から準々決勝まで毎日アルプススタンドに通い、数々の熱い応援と名勝負を観戦した。

 

吹奏楽部出身の“高校野球ブラバン応援研究家”として甲子園のアルプススタンドに通うのが夏の恒例行事だ。今回も出場全56校の応援を聴きながら現場で取材を重ね、球児たちに負けず劣らず熱い夏を過ごした。

 

100回の記念大会ということもあっただろうが、昨年までのブラバン応援ブームとは盛り上がり方がまったく違った。NHKでは応援にスポットを当てた特別番組が開幕前日の8月4日に放送され、わたしはスタジオで応援曲のトレンドなどを解説した。深夜番組ではない。18時台という人気枠なのにはさすがに驚いた。

 

甲子園入りしてからも連日テレビ局や新聞各紙から依頼があり、試合の合間に取材を受けた。昨年の3倍はこなしただろうか。試合終了後、毎日Webメディアに応援記事を執筆していたが、アルプススタンドでも大勢の記者たちが吹奏楽部顧問を取材していた。ちなみにこの数年、メディアで見かける応援記事はわたしが執筆したものが大半だったが、今年は朝日、毎日、産経、デイリースポーツ、スポーツ報知、サンケイスポーツ、西日本などの新聞やWebメディアで30本以上も公開されるなど、メディアの注目度が急激に高まっているのを実感した。

 

NHKのテレビ中継でも吹奏楽部にスポットを当てたアルプスリポート中継を何度も見た。スタンドで、野球部とともに“音楽の力”でたたかう吹奏楽部が注目されるのは、中高時代のすべてを吹奏楽部の活動に費やした元ブラバン少女としては、なんだか誇らしく思った。「吹奏楽部が応援に来てくれるとテンションが上がる」「バッターボックスに入ってから演奏を聴くと、落ち着いて打席に立てた」といった野球部員の声が聞けたのもうれしかった。

 

「サウスポー」や「狙いうち」「宇宙戦艦ヤマト」「ポパイ・ザ・セーラーマン」など、昭和歌謡や往年のアニメソングが定番だが、応援曲が近年多様化している。たとえば、近江高校(滋賀県)はラッパー、ピットブルの「Fireball」をチャンステーマに採用。斬新なラップ応援は大きな反響を呼んだ。

 

藤蔭高校(大分県)の選曲は、まさかの「年下の男の子」。キャンディーズの名曲だが、応援を取りまとめる野球部の3年生に聞くと、動画アプリ「Tik Tok」でみつけたという。2年生の朝倉康平遊撃手の応援曲で、「あいつは自分たちよりも年下なので」という極めてシンプルな採用理由だ。近年、YouTubeやツイッターから応援曲が広まることが多いなか、中高生に人気の「Tik Tok」発という新潮流を確認できた。

 

エース吉田輝星投手を擁して夏の大会を盛り上げた準優勝校・金足農(秋田)は、秋田県内のほとんどの学校が応援に使うジャズのスタンダードナンバー「タイガーラグ」と、読売ジャイアンツの応援曲「Gフレア」をチャンステーマとして使用。初戦から決勝戦まで盛り上がる場面で繰り返し演奏され、全国のジャイアンツファンを喜ばせた。

 

昭和歌謡からアニメソング、流行りのJ-POP、ラップ、ジャズ、プロ野球応援曲など、あらゆるジャンルから応援曲が選ばれ今年もアルプススタンドを盛り上げた。この“ごった煮感” が、高校野球応援の魅力のひとつということを改めて感じた夏だった。

 

吹奏楽部同士の感動的な交流もあった。準決勝で金足農に惜敗した日大三(西東京)の吹奏楽部が試合終了後に金足農吹奏楽部のバスを見送り、「がんばれー!」と声援を送る動画がツイッターで拡散され、瞬く間に再生数100万回を突破。金足農の吹奏楽部顧問・大石一博氏も「バスの中まで声援が届き、三高の生徒さんが涙ながらにエールを送ってくれる姿に感動しました。対戦相手を思っての行動がとても印象に残りました」と振り返った。

 

これはもともと、「龍谷大平安(京都府)がしてくれたこと」と日大三吹奏楽部顧問・細谷尚央氏は話す。3回戦で惜敗した龍谷大平安が、帰りのバスの窓を開け、日大三吹奏楽部に向かって「三高ファイト〜!」「三高がんばれー!」と声援を送ってくれたのだという。「梅津さん、さっきこんなことがあったんです!」と、甲子園から帰京中の細谷氏から興奮気味に連絡があった。

 

「何度も甲子園に来ていますが、こんな経験ははじめて。非常に感動しました。平安の生徒さんたちのエールに感銘を受け、ミーティングでは『ウチもああいう吹奏楽部になろう』と生徒たちに話したんです」(細谷氏)。生徒たちには龍谷大平安の気持ちがしっかりと伝わったようで、自発的に金足農にエールを送りはじめたという。

 

これまではアルプススタンドでの応援合戦にばかり注目していたが、球場の外で起きた高校生同士の温かな交流を確認できたことは、ここ数年取材を重ねてきた者として感慨深いものがあった。

 

思いやりにあふれたエールのバトンが受け継がれた100回目の夏。人として大切なことを、甲子園は教えてくれた。

 


梅津有希子
北海道生まれ。雑誌編集者を経て2005年に独立。食、ペット、暮らし、趣味をテーマに雑誌やウェブに寄稿。講演活動も行っている。著書は『終電ごはん』(共著・幻冬舎)をはじめ、『吾輩は看板猫である』シリーズ(文藝春秋)など。近著に『だし生活、はじめました。』(祥伝社)、『高校野球を100倍楽しむ ブラバン甲子園大研究』(文藝春秋)などがある。

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