【今週の大人センテンス】資生堂CM事件。「お利口なバカ」が世の中を窮屈にする

話題

出典:資生堂 INTEGRATEホームページより

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

 

第28回 「女性差別」という批判は誰のため?

 

「なんか……燃えてきた」 by資生堂「インテグレート」のCMに登場した女性

 

【センテンスの生い立ち】

 

資生堂のブランド「INTEGRATE(インテグレート)」の2本のテレビCMに、「女性差別」「セクハラ」という批判が殺到。同社は、10月7日にCMの放映を中止した。1本は、25歳の誕生日を迎えた女性が、友人ふたりから「今日からあんたは女の子じゃない」などと叱咤激励されて、「なんか……燃えてきた」と決意を示す内容。もう一本は、サンドイッチをくわえながらパソコンに向かう女性が、上司から「(がんばりが)顔に出ているうちはプロじゃない」と忠告される内容。放映中止を受けて、批判への批判も高まっている。

 

 

【3つの大人ポイント】

 

・若さだけに頼る甘ったれた了見との決別を宣言している

・あえて過激に若い女性に大切なメッセージを送っている

・「お利口なバカ」がいかに迷惑かを結果的に教えてくれた

 

 

またまた、ウンザリする出来事が起きてしまいました。ざっくり言うと、自分のことをお利口だと思っているけどじつはそうでもない人たちが、自分に都合のいい浅くて一面的な解釈を元に、せっかく深いことを言ってくれているCMにイチャモンをつけて放映中止に追い込んだという流れです。簡単に引っ込めるほうも引っ込めるほうですけど、あの人たちはいったい何が楽しくて、ドヤ顔で的外れな批判を浴びせることができるのでしょうか。

 

資生堂のサイトからは、すでに動画は削除されています。リンクしていいのかどうかわかりませんけど、どういうCMだったのか見てみたい方は、ここをこっそりお訪ねください。

 

資生堂 話題の“セクハラ”CM・インテグレート  [放送中止](You Tube)

 

 

「女性差別だ」「セクハラだ」という批判があったようですけど、私にはこの2本のCMのどこが女性差別でなぜセクハラなのか、さっぱり理解不能です。いや、「このぐらいいいじゃないか」という意味の擁護ではありません。はばかりながら女性差別がいつまでもなくならないことへの憤りや、差別に無頓着な発言(「私が外で働けるのも、旦那に理解があるおかげです」とか)には、長年にわたって怒りを覚え続けています。その上で、あのCMを批判するのは、女性の足を引っ張ることにしかならないと感じています。

 

たしかに、CMに描かれた光景のうわべだけを見て、ステレオタイプな男女差別の構図を強引に当てはめ、手前味噌なもっともらしい理屈をまとわせれば、巨悪を批判する自分に酔うことはできるでしょう。それが無意識にできる程度の「お利口さ」を持ち合わせた人にとっては、さぞ気持ちいい行為かと思います。しかし、それで得をするのは誰なのか。たぶん、批判することで自分のお利口さをアピールした気になっている人たちだけです。

 

言うまでもなく、たとえばヘイトスピーチやヘイト行為のような明確で醜悪な差別は、激しく批判されなければなりません。しかし、今回のように的外れな批判でCMが放映中心になるたびに、世の中はどんどん窮屈になり、肝心の「女性差別」「セクハラ」についても冷静な議論を避ける傾向が強まっていくでしょう。その結果、当の女性たちも、そして男性たちも気づかないまま、ますます巧妙でタチの悪い差別構造ができていきそうです。

 

1本目の25歳の誕生日を迎えた女性の話。友達ふたりの「今日からあんたは女の子じゃない」「もうチヤホヤされないしほめてもくれない」「カワイイという武器はもはやこの手にはない」という言葉は、とてもあたたかいエールであり、これからは「カワイイ女の子」ではなく、ひとりの女性として自分の持ち味を見つけていかなければならないという厳しくも親身な忠告です。友達って、ありがたいですね。

 

25歳を過ぎた女性を侮辱しているという声もあったようですが、いつまでも女の子扱いされることを望んだり、男性の視線や扱い方を通してしか自分の価値を判断できないのは、差別意識に縛られまくった悲しい習性と言えるでしょう。おしゃれできれいな女性3人組が出ていて、しかも化粧品の宣伝というところが誤解を招きがちなのかもしれませんが、CMが訴えようとしているのは、女性を女の子扱いしたがる世の中や、いつまでも女の子扱いされたがる甘ったれた了見の女性に対する「それでいいの?」というメッセージです。

 

「カワイイをアップデートできる女になるか、このままステイか」という脅しめいたセリフも、明らかに「いつまでも若さを根拠にしたカワイイにしがみついているつもりか、努力して自分なりの新たな魅力をつかむ覚悟はあるか」という意味にしか受け取れません。目を吊り上げて「カワイイと言われることが女性の価値だと言うのか!」と怒るのは、男女差別を前提とした古風な価値観に基づいた言いがかりです。腹が立った方は、自分の中に無意識に巣くっている呪縛に気づくか、あるいは、ここで言う「カワイイ」にはいろんな意味がこもっていると察知できる賢明さを身に付けるか、どちらかをお勧めいたします。

 

2本目も、テンパって仕事している若い部下に「今日もがんばってるねえ」「それが顔に出ているうちは、プロじゃない」と言ってあげるなんて、いい上司じゃないですか。「『女性はどんなに疲れていても余裕をなくしても、いかなる時もキレイでいなければいけない』という強迫観念を、公共の電波を使って発信している」といった批判があったそうですが、ああ、なんてくだらないんでしょう。なんて批判する自分に都合のいい歪んだ解釈なんでしょう。

 

中堅やベテランになっても「忙しいオレ」や「たいへんな私」をアピールしたがる人はいますが、とくに若いうちは「がんばっている自分」に酔いがち。本人の「自分はいま、輝いている」といったイメージとは裏腹に、がんばりを顔に出すのがみっともなくてハタ迷惑なのは、男性だろうだろうと女性だろうと同じです。ムッとされるリスクを承知の上で、プロとして大切なことをきちんと教えてあげる――。こういう上司になりたいもの。CMの中でも登場人物たちは「なるほど」と納得しています。わかっているじゃありませんか。

 

けっして「どんなに仕事がたいへんでも涼しい顔でこなすべし」とか「上司の命令は常にニコニコと聞くべし」なんて言いたいわけじゃありません。意見や不満があったら、相手が上司だろうが取引先だろうが、冷静に言葉で伝えて事態をいい方向に変えていくのも「プロ」のたしなみ。「何か言いたそうな顔」をして相手に察してもらおうというのは、もっともやっちゃいけないことです。当然ですが、精神的に参っている場合も話が別で……と、こんなふうにあれこれ先回りしなきゃいけないのも、ものわかりがわるくて揚げ足を取るのが好きな「お利口なバカ」がたくさんいるせいですね。やれやれです。

 

批判を受けた資生堂は、10月7日にCMの放映を中止しつつ、サイト上にこういうメッセージを掲載しました。

 

お知らせ

 

大人の女性になりたいと願う人たちを応援したいという当CMの制作意図が十分に伝わらなかったことを真摯に受けとめ、総合的に勘案しつつ、今後のPR、宣伝活動の参考にさせていただきます。 

 

どことなく文章がギクシャクしているのは、的外れなイチャモンをつけてきた人たちに対する秘めた怒りの表われでしょうか。「大人の女性になりたいと願う人たちを応援したい」という意図は、大多数の視聴者には伝わったと思います。「制作意図が十分に伝わらなかった」とあるのは、より正確に言うと「制作意図が(理解力は乏しいくせにイチャモンをつけようと手ぐすね引いている「お利口なバカ」のみなさんには)十分に伝わらなかった」ってことですね。これはこれで、複雑な思惑や苦渋が伺える味わい深い「大人センテンス」です。

 

この原稿も、言葉尻をとらえて「女性差別的」というレッテルを貼られるのでしょうか。もしくは、予想を超えた斜め上からの反発を受けるのでしょうか。もちろん、賢明な読者のみなさんは、この原稿にこっそり込められた「あれこれ批判する人への深い敬意」や「あえて『お利口なバカ』という過激な言葉を使うことで示している親近感や連帯感」を察知してくれていることでしょう。いつも真意を読み取っていただいてありがとうございます。

 

 

【今週の大人の教訓】

 

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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