「かわいい」の期限が過ぎた動物たちの行く末とは? ——命が“商品”になる世界

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『それでも命を買いますか? ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ』(杉本 彩/ワニブックス)

 

日本のペットショップでは、生後数カ月の子犬や子猫が展示販売されていることがほとんど。無邪気な姿を見せる子犬や子猫を見かけると、人は思わず歩みを止める。しかし、こうした生体展示販売の裏には、動物の命を“商品”としてのみ考えるペットショップの闇がある。それを明かしているのが『それでも命を買いますか? ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ』(杉本 彩/ワニブックス)だ。

 

杉本氏は2014年に一般財団法人動物環境・福祉協会Evaを設立し、理事長に就任。その後Evaは公益財団法人となり、動物虐待を取り締まるアニマルポリスの導入や動物福祉の整備を行政に訴え続けている。

 

抱っこをさせて売る。「かわいい」と言わせたら勝ち。そんな考えが常識となっているペット業界には、私たちが知らない闇が隠されているのだ。

 

 

■「かわいい」の期限が切れた犬猫の行き先は?

 

ぬいぐるみのようにかわいい子犬や子猫は“商品”として価値が高く、引手あまただ。しかし、“幼齢期”を過ぎて大きくなると、とたんにお客さんから見向きされなくなる。命は成長し、体が大きくなっていくのは自然なことだが、売り手にとっては子犬や子猫の命以外は“セール品”だ。

 

我が家には、ペットショップでセール品となっていたマンチカンのジジがいる。マンチカンといえば、通常ならば20万円以上の高値で売られている人気猫種だが、ジジはマンチカンの理想とされる短足タイプではなく、あまり人気がないサビ柄であったため、生後3カ月半にもかかわらず、3万で売られていた。かけがえのないたったひとつの命なのに。

 

ジジのようにペットショップで売れ残った子はペットオークションというせり市に出展されたり、ひどい場合は処分されたりする。2013年の動物愛護法改正以来、地方自治体は動物取扱業者からの犬猫の殺処分依頼を拒否できるようになったが、悪質な業者の中には個人名で依頼するケースもある。

 

また、法が改正されたことにより、売れ残った動物たちを有料で引き取る「引き取り屋」という民間業者も現れた。引き取り屋の手に渡った命は生きたまま山の中に捨てられることもあれば、狭くて劣悪なケージの中で使い物にならなくなるまで飼い殺されることもある。

 

メスの場合は繁殖業者に引き取られ、短期間のうちに何度も出産させられ、産めなくなると絶命するまで放置されるケースも少なくない。こうした状況の中にいる動物たちは、命が尽きるよりも先に心が死んでいってしまっているのではないだろうか。

 

日本の法律上で動物は物であり、飼い主の所有物と見なされている。だが、彼らにも心があり、寿命を全うする権利がある。きらびやかに見えるペットショップの裏には、命を食い物にする人間がいる。

 

こうした問題が改善され、動物たちが生きやすい世の中になるにはまだまだ時間がかかるが、今年は5年に一度の動物愛護法改正の年であるからこそ、少しでも彼らの意志や心が尊重される法が制定されることを祈りたい。

 

 

■見た目のかわいさのみで売買が成り立つ異常さ

 

ペットショップの抱っこ商法には、個体が持っているリスクを詳しく説明できていないという問題もある。現在、動物保護団体の「まめちびくらぶ」代表を務めている森さんは、本書の中で元店員として、ペットショップが抱える問題を浮き彫りにしている。森さんは、ある大手ホームセンター内のペットショップで生体展示販売を行っていたが、仕入れ先の問屋さんの言葉を機に、動物たちの販売法に疑問を抱くようになったという。

 

数十年前、某金融機関のCMで人気に火が付き、一大ブームを巻き起こしたチワワは、全体の80%近くが、頭がい骨の未発達による頭部陥没(ペコ)が見られる。ペコは将来的に発育不良や水頭症などの疾患に繋がるといわれており、実際、ペコを持つチワワの70%は何らかの病気になるとされている。

 

だが、仕入れ先の問屋さんは森さんに「ペコは成長すれば目立たなくなるから大丈夫」「病気が出る可能性もあるけれど、ほとんど問題ない」と言い放った。仕入れ先からのこうした間違った提言は、ペットショップ店員がお客へ正しいリスク説明をしない現状に拍車をかけているようにも思える。

 

これは猫にも通ずる話だ。例えば、猫種として人気No.1のスコティッシュフォールドは「骨軟骨異形成症」という骨の病気が発症する可能性が高いということをしっかりとお客に説明し、販売しているペットショップは今の日本にどれくらいあるのだろう。

 

さらに、ショーケースの中にいる子犬や子猫は生後間もなく、親と引き離されていることが多いことも問題だ。本来ならば親や兄弟と触れ合いながら社会性を身に付けるための生後間もない期間をひとり、狭いケースの中で過ごさなければならないのはあまりに酷な話ではないだろうか。こんな風に、ただ見た目のかわいさのみで売買されている動物たちは、声にならない叫びを抱えているはずだ。

 

「このワンちゃんが鳴いているのは、きっとお母さんに会いたいからだね」――先日、ペットショップの前を通りかかったとき、小さな少年が吠えている子犬を見ながら母親にそう話していた。私たち大人はその少年に、ペットショップとはどんなところなのかを正直に説明できるのだろうか。そして、少年はもしペットショップの実情を知ったら、どう思うのだろうか。

 

私たちは、小さな命がショーケースの中で当たり前のように閉じ込められている現実に慣れ、心が麻痺してしまっている。「動物愛護」は難しいことではない。現状を正しく知り、「命を救いたい」と思う人が増えていけば、暗い闇を照らし、動物たちを守っていけるはずだ。

 

文:古川諭香

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