防弾少年団(BTS)原爆Tシャツ騒動で思い出す「ぺ・ヨンジュン」の深い言葉

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出典:「BTS JAPAN OFFICIAL FANCLUB」より

このところメディアを騒がせている防弾少年団(BTS)の原爆Tシャツ騒動。過去にナチス風のデザインをライブ演出に使用していたことも掘り起こされ、事態はさらに悪化した。米国の週間アルバムチャート「ビルボード200」で1位を獲得し、音楽業界にインパクトを与えた防弾少年団は、もはや世界的な影響力をもつグループ。エンターテインメント界でもコンプライアンス遵守が進むこの時代に、なぜこのような問題が起こったのだろうか。


■原爆Tシャツとナチス風デザインは異なる動機で用いられた


一緒くたにされがちだが、原爆Tシャツとナチス風デザインはそれぞれまったく異なる動機で用いられていると思う。

 

原爆Tシャツはファンがメンバーにプレゼントとして贈ったものと言われているが、韓国内の国威発揚ムードと日本に対する微妙な対抗意識が複雑にからまって、あのようなことになったのだと思っている。写真で現物を見るかぎり、なんらかの思想がないと着たいようなデザインではないし、ちょっとダサいとすら感じてしまう。


一方、ナチス風デザインについては別にファシズム礼賛の思想があったわけではなく「ちょっとツッパッた感じでかっこよくね?」という中二病的な発想で使用したにすぎないのだと思う。日本でも70年代に沢田研二さんがヒット曲『サムライ』の衣装でハーケンクロイツを使用して批判されたことがあった。実際ナチスのデザインには優れたものが多いし、現代のファッションやカルチャーに確実に影響を与えている。

 

■責任は防弾少年団よりむしろ事務所
 

ともあれ、原爆にしても多数の韓国人を含む数十万の人が亡くなった歴史的悲劇なのだから、タレントとしてうかつに関わってしまうのは軽挙としか言えない。またここ数年、同じアジアでも日本、台湾、インドネシアでアイドルや店舗がナチス風デザインを使用して世界的な批判を浴びる事件があったのだし、それを世界で活躍するグループがやってしまうのは余りにお粗末だ。


しかし、僕はハタチそこそこのメンバーに全責任を押し付けるのは可哀想だと思っている。彼らは歌やダンスにかけてはプロフェッショナルだが、歴史認識や自己プロデュースにかけては素人なのだ。タレントの演出や業務的なメディア露出に関してはむしろマネジメントする事務所サイドに責任がある。事務所はタレントが間違ったことや不利益なことをするのを未然に防ぎ、たしなめるべきなのにそれが出来なかったのだ。
 

防弾少年団の所属事務所はBig Hitエンターテインメント。作曲家のパン・シヒョクさんが2005年、JYPエンターテインメント(2PM、TWICEなど所属)から独立して設立した芸能事務所だ。防弾少年団の成功と共にここ数年で急成長した事務所なので、業務の規模にマネジメント体制が追いついていなかったのではないだろうか。

 

 

■日本公演初日で事務所側がとった対応

 

11月13日におこなわれた東京ドーム公演で、渦中のメンバー・JIMIN(ジミン)がMCで騒動に触れ、ファンに心配をかけたと謝罪をしたという。ワールドツアーの日本初日となるコンサート。マスコミの注目が集まるなか、さすがに問題をスルーすることはしなかった。

 

公演終了後、防弾少年団のオフィシャルサイトに事務所側の見解がアップされた。ハングルで記述されていた内容も、追って日本のファン向けに翻訳されたかたちで更新された。問題となった原爆Tシャツに対するコメントを一部抜粋する。

 

Big Hitは、原爆のイメージの入った衣装の着用に関連し、上記に明らかにしたように一切の意図はなく、衣装自体が原爆被害者の方を傷つける目的で製作されたものではないことが確認されたにも関わらず、当社が事前に十分な監修ができず、当社のアーティストが着用するに至ったことにより、原爆被害者の方を意図せずとも傷つけ得ることになった点はもちろん、原爆のイメージを連想させる当社アーティストの姿によって不快な思いを感じ得た点について心よりお詫び申し上げます


アーティストの思想とは関係なく、事務所の監修が十分ではなかったとの見解。日本と韓国の原爆被害者協会の関係者に接触し、すでに謝罪もおこなっているという。

 

 

■国家と国民の混同は危険


メディアは今回の問題に関連して韓国内の反日観について頻繁に紹介し、百田尚樹さんなど愛国思想をもつ人物らも騒動に言及した。SNSでは高須院長の発信がファンを巻き込み議論を紛糾させた。その結果、両国民のあいだでレベルの低いけなし合いのような状況になっている。歴史観や領土問題などが複雑な状況とは言え、国家と国民は別モノなのに「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」となってしまうのは危険きわまりない。


エンターテインメントは、このような時局にあってどのような役割を果たすべきなのだろうかと真剣に悩まされる。それぞれの国のタレントが独りよがりな愛国心のために歌い、国家を礼賛するような時代は遠い過去だけでもう十分だ。そうではなく、国家や主義を超えた人間本来の愛や友情を伝えるのがエンターテインメントの役割ではないのか。

過去に韓国内で竹島の領土問題が紛糾した際、当時アジアで絶大な人気を誇っていたペ・ヨンジュンさんは迫られて「竹島は韓国の領土」と回答したが同時に「私に与えられた役目があるとすれば、国家の領土に線を引く一言よりも、アジアの家族たちの心と心の線を繋ぐことだと考えている」とエンターテイナーとしての自分の意志を表明した。

 

僕はこれを「国家とは人為的に作られた単位にすぎない。人はそれを超えて善意をもって交流すべきだ」という友愛のメッセージなのだと解釈している。今こそ、ぺ・ヨンジュンさんのこの言葉の深みを噛みしめてほしい。

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シンガーソングライター/音楽評論家

中将タカノリ

シンガーソングライター、音楽評論家。2005年、加賀テツヤ(ザ・リンド&リンダース)の薦めで芸能活動をスタート。深い文学性と、歌謡曲、アメリカンポップスをフィーチャーした音楽性で独自の世界観を構築している...

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