【今週の大人センテンス】熊本地震の発生直後に流れた最低なツイートに対する見解

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写真:YONHAP NEWS/アフロ

 

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第4回 「こういう国なんだ」と思うしかないのか……

 

「震災にかこつけて差別的な発言をし、自分たちの存在を目立たせようというのは悪質と言えます」by猪野亨弁護士

 

【センテンスの生い立ち】

4月14日夜、熊本県で最大震度7を観測した大地震が発生。その直後からツイッター上に「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」といった悪質で差別的なデマツイートがいくつも書き込まれた。翌日、法律を切り口にニュースを考えるサイト「弁護士ドットコムNEWS」がこの問題を取り上げ、猪野亨弁護士が法律的な見地からコメントした。

 

【サイト&発言者の3つの大人ポイント

・多くの人が不快に思う事がらについて法律的な見地から解説

・こうしたツイートの何が問題でどう悪質なのかを明快に説明

・地震発生の翌日に素早く記事をアップしてデマの拡大を防止

 

4月14日に発生した熊本地震では、9人の方がお亡くなりになり1000人近くの方が負傷されました(15日17時現在)。お亡くなりになった方のご冥福を心よりお祈りするとともに、負傷なさった方、家や職場が被害を受けた方に心よりお見舞い申し上げます。

 

地震が発生したのは、14日午後9時26分。「熊本で震度7」というニュースに、日本じゅうが驚きと不安に包まれます。現地の様子が徐々に伝えられ、どうやら深刻な被害をもたらしていることがわかってきました。ニュースを見聞きした人が心配な気持ちを募らせている中、ツイッター上では信じ難いほど最低なツイートが次々と書き込まれます。

 

「熊本の朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだぞ」

「熊本では朝鮮人の暴動に気をつけてください」

「朝鮮人が井戸に毒を投げ入れ回ってるようです!!!熊本県民の皆さんは自警団を組織して自己防衛に努めてください!!!(以下略)」

「騒ぎに乗じるのはこっちの趣味ではないのだけど鮮人どもが騒ぎに乗じて悪事を行うからしょうがないよねぇ…、と私は思うのですよ。」

「こういう時に暴言はもちろん盗みとか嘘募金とかやる中国朝鮮人にご注意。」

 

あまりに情けないというか、あまりに愚かというか……。関東大震災の直後に「朝鮮人が井戸に毒を入れている」という事実無根のデマが広がり、日本人が朝鮮人を大量に虐殺するという悲惨な事件がありました。書いている当人たちは、そのことを元にした「悪ふざけ」のつもりなのでしょうが、その感覚は理解に苦しみます。

 

もちろん、ツイッター上でもたちまち非難が巻き起こります。しかし、書いた当人や書き込みを擁護する人たちは「ネタなんだから過剰に反応するな」といった調子で、反省している様子も「ネタ」では済まない重大な問題だと認識している様子も、まったく見受けられません。ごく一部の度し難い愚か者がやっていることとはいえ、不快な思いをさせてしまった方々、ひいては世界じゅうに対して、申し訳なく恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

 

こうした事態を受けて、地震翌日の4月15日に「弁護士ドットコムNEWS」にアップされたのが、〈「井戸に毒」熊本地震でツイッターにヘイトデマ、弁護士「冗談では済まされない」〉という記事。その中でコメントしている猪野亨弁護士は、これらのツイートについて「定義にもよりますが、ヘイトスピーチと言えるでしょう」と説明しています。さらに、

 

「ネットで不特定多数に向かって発信している時点で、『ネタ』というのは詭弁です。特定の個人を対象としているわけではないので、名誉毀損などに問われることはないでしょうが、冗談では済まされないでしょう。震災にかこつけて差別的な発言をし、自分たちの存在を目立たせようというのは悪質と言えます」(「弁護士ドットコムNEWS」より)とも。

 

こんなヤツらは「ごく一部」であるのは確か。ただ、ネット上で特定の国をせっせと熱心に批判している人たちや、国だけじゃなくて特定の職業や属性を批判している人たちを見ると、「ごく一部」の愚か者の発言や行動を引っ張ってきて、「○○はケシカラン!」とすべてひっくるめて批判や憎しみをぶつけています。

 

こうしたツイートを根拠に、日本全体や日本人全部を同じように語られたり「日本はこんなにひどい国だ」と批判される可能性も大いにあるし、批判されたら返す言葉がありません。まったく、迷惑で腹立たしい話です。

 

今回のことは「ネットの弊害」だけで済ますわけにはいきません。デマによって大量虐殺という結果を引き起こしてしまったのは、ネットなんて影も形もなかった大正時代です。愚かな書き込みをした「ごく一部」には言いたいことが山ほどありますが、いきり立って非難するのも、ひとつ間違えると「自分はそうじゃない側」にいる安心感を得るための作業になりかねません。

 

今回の件で、またあらためて「日本はこういう国なんだ……」と思うしかなさそうだと認識させられました。ひいては「人間はそういう存在なんだ……」ということでもあります。明らかにダメな「ごく一部」を叩くことで「正義」の側に立っている気になっていないで、そういう世の中でうっかり「ごく一部」の側にならずに生きていくには、何に気を付ければいいのか、どんな落とし穴があるのか、それを考えるほうにエネルギーを費やしましょう。

 

もしかしたら、最低なツイートをあの手この手で罵倒して、「バカなヤツがいますね。ネットって怖いですね」という話の流れにしたほうが、読んでスッキリできる原稿になったでしょうか。もちろん、ああいうヤツらには憤りしかありません。でも、罵倒することでスッキリしてしまうのは大人としてちょっと安易だし、広い意味ではカップヌードルのCMに抗議してスッキリするのと同じダメさをはらんでいます。モヤモヤしたまとめ方で恐縮ですが、どこまで行ってもモヤモヤせざるを得ない問題なので、どうかご容赦ください。

 

【今週の大人の教訓 】

憤りは憤りとして、正義を振り回す快感に溺れないように気を付けたい

 

 

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コラムニスト

石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。コラムニスト。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。大人の新しい概念と可能性を知らしめ、以来、日本の大人シーンを牽引している。2004年に出版した『大人力検定』は...

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