母と息子、いつまで一緒にお風呂に入っていいものか問題

ライフスタイル

 

その晩、私は我が家のお風呂場の外で小5の息子が出てくるのを待っていた。お風呂場のドアと脱衣所のドア、2枚の扉を隔てた向こうで、息子がジャブンと湯船に入ったり、シャワーッと音を立ててシャワーを浴びたりするのが聞こえる。鼻歌まで出て、楽しそうだなぁ……と思った瞬間にお風呂場のドアがバタンと開く音。「ふぃ〜」と息子出てくる。

 

「コラちょっと待てっ、キミどこも洗ってないでしょー! お湯バッサバッサかけてただけじゃん、お母さん聞いてたよ!! やり直し!!」

「ちっ」

「ちっ、ではない!」

 

ああ、これだからアイツ一人のお風呂は信用がならないのだ……やっぱり一緒に入った方が話が早いような……でも小5の息子とイチャイチャお風呂に入る40代母なんてキモいだけのような気がするし、そう言いつつ既に息子のお風呂の音に聞き耳を立ててドア越しで待っている自分の姿が十分キモい。ストーカーか私は。

 

この4月で息子が小学校高学年になったのをきっかけに、「母子風呂」を卒業した。それまで、平日は何かと息子と母でお風呂に入ることが多かったのだけれど、身長約150cmに育った息子が「背中流して」と言うならともかく「お母さんの方が上手だから、髪洗って」「お母さんの方が手早いから、体洗って」と、ふと気づくとうまく持ち上げられて逆介護状態になることに危機感を覚えた。うかうかしているうちに、第二次性徴期だってくる。息子はもちろんだが、過保護になりがちな母(私)の自立を図らねばならない。そうだ親が子離れしないから子が親離れしないのだ。ていうかお互い、いい加減お風呂くらい一人で入れ。

 

 

■「裸の付き合い」で親子が心を通わせる、日本独特の文化

 

実は、息子が6歳の時に一度“お風呂の自立”は成立していた。当時我が家はロンドンへと移り住んでいて、悪名高い英国式「寒くて狭くて水の出の悪いバスルーム」に辟易し、お風呂なんて全然楽しい時間じゃなかった。シャワーとかお風呂なんてものは衛生上の必要から仕方なく入るものであり、湯船に立ってシャワーを浴びるのが英国の一般的なスタイルで、どうしてもお風呂に入りたいというのなら狭い湯船にお湯を張って、その中で体を洗ってねというシステムにもげんなりだった。

 

もちろん当時の息子は幼かったけれど、英国式湯船が母と子で一緒に入ることもままならない狭さだったから、自然と息子は一人でお風呂にばちゃばちゃと入り、適当に体や髪も洗い、私は湯船の外でバスタオルと着替えを用意してスタンバイするのが習慣だった。時間だってせいぜい10分程度。友達だってみんなそんな感じで、イギリス人の友達の家にお泊まりに行っても、そこのお母さんには「あなたたち、お風呂に入ってきなさい」と5、6歳の子供たちだけでお風呂場に突っ込まれ、全部自分たちだけで最初から最後まで適当にやり遂げて出てくる。私のようにバスタオルと着替えを持ってスタンバイするなんてのも、既に過保護だったのだ。

 

だからロンドンを引き払って日本に帰国した時、湯船が大きくてシャワーからもお湯がたっぷり出て、暖かい洗い場が設けてあって、お風呂場暖房や乾燥機能までついている日本の至れり尽くせりのお風呂に、息子は「クールジャパン!」と感動した。しかも一人でなく、お母さんかお父さんが一緒に入ってくれる。帰国して初めて母親の私と一緒にお風呂に入ったとき、8歳の息子は“おとなのはだか”に照れてウヒウヒ言って、キョロキョロと挙動不審になった(相手はしょせん母さんだけど)。「あー、日本のお風呂サイコー。あったかいし、気持ちいいし」。そうやって親子でゆっくりお風呂に入って、今日学校で起きたことを包み隠さずあれこれ話せるなんて、確かに日本の文化って最高に贅沢だと、なお一層日本を好きになった。

 

 

■思春期からは「風呂コミュニケーション」以外の対話方法が必要か

 

ただ、異性の親子だと、ずっとそのままというわけにもいかない。これが父親と娘だったら娘の側が結構早めに嫌がって、「父娘蜜月の終焉→無事親離れ・子離れ」となりやすいのだけれど、母親と息子だと……いや、母と息子だって同じことだ。つべこべ言ってないで、早く親が子に“正しく嫌われる”ようにならないと。まあ我が家にも兆しはあって、もう時間の問題のような気もする。「は?」とか「ちっ」とか言われるし。

 

日本の親子には、風呂コミュニケーションという、じんわりあったかくていい匂いで距離の近い心の交流が許されている。これは、大切にしたい素敵な文化だ。だからこそ、素っ裸では付き合えなくなる思春期からはお風呂頼みを卒業して、お互いが自立した人間としてある程度の距離を保ちつつ心を通わせられる対話の方法論を模索しなきゃならないんだなぁ。

 

……うちには上の子(娘)がいるんだけれど、娘の時は(ちゃんと自分でなんでもできるしオトナだし)こんな悩みなんかなかったのだ。あぁ息子……。

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河崎 環

河崎 環

河崎環(かわさきたまき)/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭学園中高から転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Web...

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