「緊急避妊薬」が薬局で購入できないワケ

ヘルス・ビューティー

清水なほみ

 

緊急避妊薬を初診でオンライン処方できるようにするかどうか、厚生労働省が検討に入ったというニュースが流れましたね。個人的には、やっと一歩前進したか、という印象です。日本の「避妊」に関する環境はまだまだ海外に後れをとっており、緊急避妊薬に関して言えば、海外では医師の処方箋なしで普通の薬局で手に入る薬なのです。

 

 

■世界的に時代遅れな日本の避妊事情

 

そもそも、緊急避妊薬とは何かご存じない方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

緊急避妊とは、その名の通り、直前にあった性行為による妊娠を回避する方法です。性交後72時間以内に緊急避妊用の薬(日本で認可されているものは現時点ではノルレボのみ)を服用することで、予定外の妊娠を防ぐものです。本来は、ピルを飲むか子宮内避妊具を入れるかで、確実な避妊を継続的に行っておくのが理想です。

 

でも、日本の避妊事情はかなり時代遅れになっていて、いまだに7~8割の人がコンドームに頼って避妊しています。中には、「膣外射精」という全く避妊にならない方法を「避妊方法」として挙げる人もいます。これは、そもそも避妊教育や性教育が、必要な年齢からきちんとなされていないから起きてしまうことです。

 

 

■緊急避妊薬の効果は100%ではない?

 

確実な避妊をしていなければ、「緊急」で避妊が必要になることもあります。当院で緊急避妊を希望された方の理由で最も多いのは、「コンドームが外れた・破れた」というものです。その他にも、コンドームを使ってもらえなかった・コンドームが手元になかった・相手が途中でコンドームを外したことに気付かなかった・膣外射精をしようとしたら膣内射精になってしまった、などです。

 

さらに1割くらいは『自分は望んでいなかったのに性行為に至ってしまった』というケースもあります。このように、何らかの「緊急事態」で、妊娠を回避したい時に使用するのが緊急避妊薬なのです。

 

72時間以内というタイムリミットがあり、避妊効果は75~80%くらいです。緊急避妊薬を服用しても妊娠に至るケースが3%くらいはあります。なので、あくまで「緊急」であって、何度も使用する避妊方法ではありません。

 

 

■薬局では購入できないワケ

 

この緊急避妊薬は、現時点では医師の処方箋がなければ手に入りません。性行為後72時間以内に受診ができなかったり、若年の方だと受診そのものをためらわれたり、地域によっては取り扱っている病院を探すのが困難だったりすると、せっかく予定外の妊娠を回避する方法があるのに活用できないことになってしまいます。

 

そのため、2017年には緊急避妊薬のOTC化つまり、普通の風邪薬や痛み止めのように薬剤師がいる薬局で医師の処方箋なしに購入できるようにしようという議論がされました。パブリックコメントも多数集まり、そのほとんどがOTC化に賛成するものだったにもかかわらず「教育が整っていない」ということで見送られました。

 

確かに「手軽さ」だけを求めると、安易に乱用してしまうというリスクも上がります。特に、女性本人ではなく、悪意のある男性が手軽に手に入れられてしまうという問題も発生しうるでしょう。そのため、緊急避妊薬が手軽に入手できるようになることと、それが「適切に使用できるようになる」さらに「今後の確実な避妊もできるようになる」ための「幼少期から積み重ねた性教育」がセットで不可欠なのです。

 

また、使用者本人だけでなく、薬を販売する薬剤師側の教育も不可欠になります。これに関しては、すでに日本家族計画協会が主催の薬剤師向けセミナーが開催されており、緊急避妊薬についての知識を十分に得た薬剤師の育成がスタートしています。

 

 

■「薬のネット通販」とは全く違う

 

今回の、オンライン診療の適応拡大は、OTC化までの移行措置として少しでも緊急避妊薬が手軽に入手できる方法はないか、という点から出てきた案だと思われます。

 

オンライン診療そのものは、離島やへき地への医療を行う際に、医師が直接診察できなくても所見や画像のやり取りができれば、医療の地域格差を減らせるのではないかという発想が発端になっていますが、現在はこの遠隔診療を他の分野でも使えるように適応範囲が拡大されつつあります。

 

オンライン診療は「薬のネット通販」とは全く異なります。厚生労働省が作ったガイドラインに沿って、医師がオンラインで患者様とやり取りし、診断や薬の処方をするものです。

 

当院でも、避妊用のピルに限って2017年9月から遠隔診療での処方を行っています。仕事で診療時間内に受診できない方や、遠方から受診なさっていた方には非常に喜ばれています。

 

 

■72時間というタイムリミットが課題に…

 

本来は、遠隔診療は2回目以降の診療に使えるもので、初診は対面でなければいけないという規制がありました。しかし、緊急避妊を必要とする人のほとんどは初診であるため、緊急避妊に限っては初診時にオンライン診療で処方してもよいとするのかどうかが、まず議論の対象になります。

 

緊急避妊薬の副作用、つまりリスクを考えれば、初診が対面でなくても安全に診療は可能だと思われます。ただ、一点問題となるのが、遠隔処方すると薬の配送に数日を要してしまう可能性があります。緊急避妊のタイムリミットは72時間以内ですから、薬が届くのがそのリミットよりも遅いと意味がありません。

 

対策としては、オンライン診療では処方箋だけを発行して、そのオンライン上の処方箋を薬局に行ってプリントアウトすれば、薬局で薬が受け取れるようにするという仕組みでしょう。処方時に本人が現在いる地域も医師が確認して、最寄りの緊急避妊薬処方可能な薬局を本人に伝え、同時に薬局側にも一報入れておけばスムーズにできる可能性が高いと思われます。ただ、遠隔処方にしてもOTC化にしても、それを「使いこなす知識と行動力」を身に付けるための十分な「教育」がセットで必要なことには変わりありません。

 

 

■「手軽」に入手できる意義は大きい

 

産後の女性の死亡原因の第1位は自殺です。虐待死の6割は0歳児です。そして若年妊娠やシングルマザーの6~7割は貧困です。

 

教育格差のベースには貧困があります。これらの事態を防ぐ根源となるのは、「予定外の妊娠を防ぐ」ことなのです。その方法の一つとして、緊急避妊薬が「手軽」に入手できる土壌を作ることは非常に重要だと考えます。

 

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清水なほみ

女性医療ネットワーク発起人・NPO法人ティーンズサポート理事長。日本産婦人科学会専門医で、現在はポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。女性医療の先駆者の下、最先端の性差医療を学び、「全ての女性...

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