知事から名刺を1万枚配ってくるよう指示された「くまモン」。ついに大阪で失踪する…

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「くまモン」が再ブレイク中だ。「手塚治虫」「西郷隆盛」といった偉人を取り上げる「伝記マンガ」シリーズに名を連ね、新年早々、女性週刊誌の表紙も飾った。極め付きはドキュメンタリー番組への出演だ。NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で「地方公務員・くまモン」として密着された。くまモンは、ご当地キャラ、ゆるキャラの枠を大きく超えて始めている。くまモンと他のゆるキャラは、いったい何が違うのか? くまモンを追いかけ続けるノンフィクションライター亀山早苗が解説する。

 

 

【くまモンの物語 Vol.2】大阪での「神出鬼没大作戦」。下積み時代から人々の心をつかむまで

 

2010年3月12日にくまモンは活動を始めたが、最初はなかなか地元でも受け入れられなかった。黒くて丸くて大きいので、保育園や幼稚園に出かけて行っても子どもは泣いて逃げたという。

 

関西圏から新幹線で熊本へ観光客を誘致することを考えていた熊本県は、くまモンを大阪に出没させる。名づけて「神出鬼没大作戦」である。

 

くまモンは、一目見ただけでは、どこのキャラかわからない。そのくまモンが大阪の町のあちこちに出没する。当時、まだ今ほど知られていなかったSNSを駆使し、熊本県は「くまモンを見かけたらつぶやいてください」と発信した。そうしているうちに、「くまモン見た」というツイッターが少しずつ広まっていった。

 

くまモン自身も最初はどうしたらいいかわからなかったようだが、大阪といえば新世界とばかりに出かけていき、地元のキャラクターである「くしたん」と友だちになり、活動を広げていく。

 

くまモンは衣装持ちである。イベントのときに主催者や自治体などが作ってくれた衣装や小物が100着を超える。これはアツロウ・タヤマのコート。千鳥格子と白のコートがあり、香港のランナウェイをモデル歩きした ©2010熊本県くまモン

初めてメディアに登場したのは、8月の関空夏祭りを報じた産経新聞だった。地元のキャラクターに混じって、奥のほうでひっそりと手を振るくまモンの姿がある。9月、知事から大阪で名刺を1万枚配ってくるよう要請された。この名刺は32種類あるが、コピーが秀逸である。

 

<カバのひと声でやってきたクマです>

<くまモンのパチモンが、現れるくらいになりたい>

<能ある熊です>

 

などなど。今ではすっかり貴重な名刺となっているものだ。知事からのミッションを完遂させようと意気込んだくまモンだが、ある日突然、失踪するという騒ぎを起こす。知事は緊急記者会見を開いた。

 

「先日から大阪に出張していた県職員のくまモンくんが行方不明になりました」

 

くまモンを探してほしい、見かけたらツイッターでつぶやいてほしい、と訴えた。こういう遊びが、大阪の人の心に刺さったのか、ネットで話題沸騰となる。こういった話題が広まっていって、くまモン人気は少しずつ広まっていった。

 

12月には、くまモンのイラスト利用許諾申請の受付がスタートする。知事のいう「楽市楽座」である。つまり、くまモンのイラストは申請して許可がおりれば無料で使えるのだ。この第1号が、県内の仏壇店の仏壇であることはよく知られている。

 

翌11年、くまモンは知事と、宣伝部長であるスザンヌとともに大阪で「吉本新喜劇」に登場。大阪では今も定期的に、くまモンが新喜劇に出演している。縁があったところとの関係を長く続けているのも、くまモンの義理堅さである。

 

くまモンは落語もできる。大阪や東京の寄席に出たことも。落語関連で登場するときはこの着物で。足袋も履いている ©2010熊本県くまモン

そうやって満を持して、九州新幹線全線開通を翌日に控えた3月11日、前夜祭としてくまモンは大阪駅でのイベントに登場、そのまま全国ネットのテレビに生出演するはずだった。だが、そのとき東日本大震災が起こったのだ。イベントはすべて中止、華々しく全国に登場するはずだったくまモンも活動中止を余儀なくされた。当時のくまモンのツイッターには、「自分が何をできるか考えているモン」と記されていた。

 

震災から2週間後、くまモンは大阪の地に立っていた。東日本大震災の募金活動を始めたのだ。それまで大阪で活動してきたことが役に立った。大阪のキャラクターの友だちもみんな一緒に募金箱を持ってくれた。そして7月には知事とともに被災した宮城県を訪れている。

 

くまモンは津波被害がひどかった南松島市の海岸に立ち、海に向かって深く静かに、そして長い間、頭を垂れた。いつもはやんちゃで好奇心旺盛な男の子だが、彼はときとして大人より深い気持ちで、人に寄り添おうとする。このときも保育園や幼稚園を訪れ、子どもたちを元気づけようといつも以上に張り切っていた。

 

そんなくまモンの活動を見て、知事は「熊本県営業部長」を任命した。知事、副知事に次ぐ、県で3番目にエライ役職である。くまモン本人も、この立場が気に入っているようで、イベントステージで「県で3番目にエライ」と言われるとそっくりかえって自慢し、ともに行動するMCのおねえさんやおにいさんに「威張りすぎ」と注意されている。

 

営業部長に就任してからは、企業訪問プロジェクトが始まる。熊本の「おいしいもの」を使った商品を一緒に作ろうと企業に呼びかけていったのだ。最初に飛び込みで行ったのは、UHA味覚糖株式会社だ。くまモンの営業力がものを言ったのか、はたまたその魅力に担当者が参ってしまったのか、翌年にはコラボ商品「ぷっちょ晩白柚」が発売されることとなった。

 

この年の11月、くまモンは「ゆるキャラグランプリ」で優勝。ついにキャラ界のトップに立った。

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ノンフィクションライター

亀山早苗

明治大学文学部演劇学専攻卒業後(専攻は歌舞伎)、雑誌のフリーランスライターに。 ライター歴、もうじき30年。離婚歴1回の現在独身。長い間、男女関係に興味を持ち続け、さまざまな立場の男女に取材を重ねてきまし...

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