全世界的なSUV人気のなか、なぜパジェロは「生産終了」の憂き目を見たのか?
三菱自動車工業がSUV「パジェロ」の国内向け車両生産を、今年8月で終了した。トヨタ自動車のセダン「マークX」も、12月で生産終了する。
いずれもバブル景気の頃には人気車種だっただけに、時代の流れを痛感するが、セダン人気そのものが落ちているマークXは納得できるものの、SUVに注目が集まっているのにパジェロの国内販売終了を不思議に思う人がいるかもしれない。
筆者はパジェロがデビューして数年後、RV(レクリエーショナル・ビークル)の専門誌編集部に入ったので、その頃から取材で何度もステアリングを握った。そのとき感じたのは、快適性のレベルがライバルより数段上だったことだ。
乗用車登録車種やオートマチックトランスミッションをいち早く用意し、ディーゼルエンジンは乗用車用として開発したものだったので静かかつ滑らか。乗り心地も快適で、乗用車として使えるSUVの代表格だった。
その後パジェロは1991年と1999年、2006年にモデルチェンジする。このうち大きく変わったのは1999年発表の3代目だった。ボディとは別体だったラダーフレームがモノコックボディにビルトインされ、リアがリジッドアクスルだったサスペンションは4輪独立になった。
英国の高級SUVレンジローバーが同様の内容を持つ3代目に進化したのは2002年のことだから、この時点では時流に先んじていた。
3代目はボディサイズも拡大した。一部車種では5ナンバー枠内だった全幅は一挙に1.9m近くになり、ロングボディでは全長も5ナンバー枠を超えた。直列4気筒エンジンはディーゼルターボのみとなり、ガソリンはすべてV型6気筒となった。当然ながら価格も高くなった。
パジェロ人気を支えたのがパリダカことパリ・ダカール・ラリー(現在のダカール・ラリー)だった。デビュー翌年に初挑戦すると、1985年に初の総合優勝。篠塚健次郎、増岡浩両選手などの活躍で、合計12度の総合優勝を獲得している。
モータースポーツの活躍をプロモーションに生かし、プレミアム性を高めていくという手法は欧州車によく見られる。パジェロもその路線を目指しており、レンジローバーを目標としているように感じられた。
■いつの間にか中途半端な存在に…
しかし作り手の三菱自動車が、21世紀を迎える頃から低迷する。複数回のリコール隠し発覚などが原因だ。その影響でニューモデルの開発が滞る。パジェロも例外ではなく、2006年のモデルチェンジはビッグマイナーチェンジに近い内容だった。
ところがこの間、SUVには大きな変化が起きていた。メルセデス・ベンツやBMWに続いて、スポーツカーしか作ってこなかったポルシェがカイエンを発表。カイエンの大ヒットでジャガーやマセラティ、ベントレーやランボルギーニなど、それまでSUVとは無縁だったブランドが続々参入した。
もちろんこれらのSUVはオフロードはたいして走れない。アウトドアスタイルを楽しむためのクルマという位置づけだ。でもセダンやワゴンより使いやすく、ミニバンほど生活感がないことから多くの人に受け入れられた。
一方でジープ「ラングラー」やメルセデス・ベンツ「Gクラス」、トヨタ「ランドクルーザー」、そしてスズキ「ジムニー」といった、オフロードを得意としていたクルマたちは、ブームに引きずられることなく、自分たちのアイデンティティをアピールすることで存在意義を高めていった。
つまり現在のSUVは二極化している。パジェロはメーカーの不祥事などの影響を受けている間に、どちらにも属さない存在になっていたのだ。
生産終了は国内向けだけで、海外では販売が続けられる。パジェロのブランドイメージは日本より高いからだろう。しかし現行型は13年目。もしモデルチェンジするなら、ジムニー路線に戻したほうがいい。オフロードの走破性を語れるSUVは数えるほどしかなく、それ自体がアイデンティティになるからだ。
ボディをダイエットして、得意のプラグインハイブリッド技術を組み込めば、国内復活も可能だと信じている。