佐藤琢磨が“犯人扱い”されたのは、日本人だからなのか?

車・交通

 

佐藤琢磨がやり玉に挙がったのは、8月18日に行われたインディカー・シリーズ第14戦ポコノでのことだった。スタート直後に琢磨がドライブする車両を含む5台が多重クラッシュに巻き込まれたが、その原因を作ったのが琢磨だと、巻き込まれたドライバーから非難されたのだ。琢磨自身も衝突の影響でひっくり返り、火花を散らしながらコースを滑走した。けが人が出なかったのが幸いに思えるほど、大きなクラッシュだった。


レースにクラッシュはつきものだ。だが、ポコノでのクラッシュについては神経質にならざるを得ない事情がある。ポコノは2.5マイル(約4km)のオーバルコースで、他のコースに比べてスピードが出る。琢磨が2017年に優勝したインディ500の舞台と同じ、スーパースピードウェイに分類されるコースだ。インディ500を開催するインディアナポリスが長円形のレイアウトをしているのに対し、ポコノはトリオーバルと呼ぶおむすび型をしている。

 

 

そのポコノでは、2015年に起きたアクシデントでジャスティン・ウィルソンを亡くした。2018年のレースでは、ロバート・ウィッケンスがアクシデントで大けがを負い、現在も復帰に向けてリハビリ生活を続けている。ポコノでは、ちょっとした接触が大事に至る。だから、「気をつけようぜ」というのが、ポコノに臨むドライバーの共通認識である。


にもかかわらず、ぶつけられたドライバーからすると、琢磨は無謀な動きをした(ように見えた)。しかも、長丁場(200周)のレースの1周目である。「何を考えているんだ!」というのが、巻き込まれたドライバーの言い分だった。アレクサンダー・ロッシから見ると、アウト側にいた琢磨がインに切り込んできたように見えた。そのせいで、琢磨がドライブする車両の左リヤタイヤと、ロッシ車の右フロントタイヤが接触。これをきっかけに5台を巻き込む大事故に発展した。

 


琢磨はロッシの見方に反論した。自分は真っ直ぐ走っていた。オンボード映像を見れば、路面に残るタイヤの痕(黒い線)と車両の位置関係から、真っ直ぐ走っていたことがわかると。琢磨は自身のツイッター上に、オンボード映像のキャプチャー画像を添付して無実を訴えた。「寄ってきたのはそっちだろう」という意味合いである。この琢磨のツイートに対し、ロッシは「いや、(イン側に)降りてきている。それがすべての始まりだ」と言い返した。


年間チャンピオンを狙うる位置にいるロッシにとって、ポコノ戦でのリタイヤは痛かった。それだけに、言葉が強くなったのだろうか。インディカー・シリーズは国際色豊かなレースシリーズとはいえ、極めてアメリカンなレースシリーズである。アメリカ出身のロッシは、アメリカのファンにとって期待の星だ。ロッシのイン側にいて多重クラッシュに巻き込まれたアメリカ人ドライバーのライアン・ハンターレイも、ロッシの視点に同意した。


仲間うちだけでなく、ファンからもSNSを通じて多くの批判を受けた。世論は反・琢磨で形成されていた。こうした動きを受け、琢磨が所属するレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは声明を出した「通常、チームがコメントすることではないが、あまりにもタクマ・サトーへの非難が激しいから」と、断りを入れて。黙っていられないほど反・琢磨の嵐が吹き荒れていたのだ。

 

 


オンボードカメラと車載データを検証した結果、「琢磨はロッシ側(左側)にステアリングを切っていないのは明らかで、むしろ、最初の軽いコンタクトの後で姿勢を修正するため右にステアリングを切っている」と、その声明で明言した。そして、「ドライバーやチームがフラストレーションを感じるのは理解できるが、これは、不幸にして起きてしまったレーシングアクシデントだ」と結論づけた。

 

 

■琢磨自身が結果を出し、逆境をはねのけた

 

 

ピリピリしたムードを引きずりながら、琢磨はポコノ戦の翌週に開催された第15戦マディソン戦(1.25マイルオーバル)を迎えた。予選では5番手の好位置につけたが、スタート直後の接触の影響で、周回遅れになってしまう。いったん周回遅れになると上位に復帰するのは難しいが、チームがとった作戦が見事にはまり、トップと同一周回に復帰したばかりか、先頭に踊り出る。


レース終盤には2番手のドライバーが急速に追い上げてきたが、わずか0.0399秒差で抑え込み、今季2勝目、通算5勝目を挙げた。1シーズンに2勝するのは、インディカー・シリーズ参戦10年にして初めてである。優勝した琢磨は開口一番、「チームに感謝したい」と話した。そして、次のようなコメントも残している。

 

 

「言葉が見つからない。浮き沈みの激しいレースだったが、(優勝した)インディ500と同じで、ネバー・ギブアップの精神で立ち向かった。チームのみんなもよくやってくれた。前のレース以来、厳しい日々を過ごしたが、チームのみんなも含め、自分自身を信じることでそれを乗り越えることができた」


佐藤琢磨は自らの手で逆境をはねのけてみせた。意図してできることではないが、それができてしまうのが佐藤琢磨である。
 

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モータリングライター&エディター

世良耕太

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立。F1世界選手権やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材・編集・執筆活動を行う。近編著に『トヨタ ル・マン...

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