増えている“マスク依存症”の深刻な弊害と克服法
■マスクに依存する人が増えている?
病院やカウンセリング・ルームでマスクをしている患者さんが増えているように思います。最初は、風邪やインフルエンザの予防のために着けているのかと感じていましたが、この背景には、さまざまな問題が隠れていることがわかってきました。
まず、社交不安障害の方はよくマスクをして来られます。社交不安障害とは、対人恐怖症として古くから知られている病気です。この病気は、「人からどう見られているか?」ということが気になり、対人場面・社交場面で過度に緊張をしてしまう病気です。
また、醜形恐怖症の方もよくマスクをして来られます。醜形恐怖症は、自分の顔が醜いとかたくなに信じており、その醜い顔を人から見られることをとても嫌う病気です。しかし、醜形恐怖症の方のほとんどは、いわゆる醜い顔ではありません。私自身、醜形恐怖症としてお会いした方は、全員、美男美女でした。
ただ、これら社交不安障害や醜形恐怖症、そのほか何らかの不安障害のためにマスクをする方は以前からいたように思います。しかし最近では、特に心の問題を抱えていない方がマスクをして、そのマスクに依存している“マスク依存症”の方が増えているように思います。
その方たちにマスクをしている理由を尋ねると、不安障害の方と同じように「人からの視線を少し軽減できる気がする」「自分がどういうふうに見られているかを意識しなくてすむ」とおっしゃいます。これは、マスクをそもそも着けようと思っていない方が、何らかの機会でマスクと出会い、その効果にとても甘んじているように感じます。
■マスクを着ける弊害とは?
人の非言語的コミュニケーションは、おもに目と口元で行われます。この2つの部分で、その人が喜んでいるか、怒っているか、悲しんでいるかなどの大部分の感情を推測しながらコミュニケーションをしているのです。しかし、マスクをしてしまうと、口元が隠されるわけですから、通常のコミュニケーション効果の半分が失われてしまいます。
マスクをつけていると、他人から「感情が読めない」「何を考えているかわからない」という印象を持たれやすくなります。そのため、親しみやすさが減り、良好な人間関係を築くうえでマイナスとなってしまいます。特に初対面のときに、マスクで口元が見えないと、顔のインパクトがなくなり、顔を覚えてもらえない、安心感が生まれないといった問題が生じます。相手と話すときは、マスクを外してコミュニケーションをとったほうが、良好な人間関係が築けます。
■マスク依存症を治すには
社交不安障害の治療には、心理療法として「エクスポージャー法」というものを用います。これは、あえて不安な場面に直面し続けることで、その不安感を克服していく方法です。マスク依存症の方にも、同じような方法を用いることができます。
このとき注意をするのは、単にマスクを外すのではなく、自分が避けたいと思う場面にあえて挑戦することです。例えば、窓口でのクレーム対応、苦手な取引先との交渉、上司との会話、会議でのプレゼンテーションなどのときに、相手の顔をしっかりと見るということが大切になります。繰り返しこのような方法を実践することで、マスク依存症は必ず克服できます。
(執筆:矢野宏之)