『幽遊白書』 鬼才・冨樫義博は戸愚呂・弟推し! 戸愚呂の“悪びれない生き方”とは?
アニメも大人気で発行部数約5000万部を誇るバトル漫画『幽☆遊☆白書』。
一度死んでしまった主人公・浦飯幽助は様々な出来事を経て生き返り、その後、霊界探偵として妖怪絡みの事件などを解決していくというストーリー。暗黒武術会といった妖怪たちが集う団体戦の大会に幽助らが出場するなど、王道のバトル展開も熱い作品でした。
そんな『幽☆遊☆白書』の作者・冨樫義博氏は、2003年のインタビューで“お気に入りのキャラは戸愚呂・弟”とコメントしたことがあります。今回は、その戸愚呂・弟(以下、戸愚呂)という敵キャラにスポットを当て、彼の生き様について振り返っていきましょう。
■作者・冨樫氏の戸愚呂に対する思い入れ
はじめに、2003年に掲載されたインタビューで「お気に入りの悪役は誰か」と問われた冨樫氏は、「戸愚呂。基本的に悪びれていないので」とコメントしています。さらに2005年には「彼(戸愚呂)は反省しません。全て決意をもって自分で決めたから」とも言及。
また、『幽☆遊☆白書』連載終了後まもない頃に、冨樫氏が自作した同人誌『ヨシりんでポン!』にて、“途中から悪役の方に思い入れが強くなった”との発言もあることから、冨樫氏はやはり戸愚呂というキャラに強い愛着を持っているようです。
さて、その“反省しない”“悪びれない”、という戸愚呂に対する冨樫先生直々の見解について、どのような解釈ができるでしょうか。戸愚呂がどういう人間(妖怪)であり、どんな人生を歩んだのか、振り返っていきます。
■人間・戸愚呂という男の人生について
戸愚呂は、幽助らの前に敵として立ちはだかり、圧倒的な強さを見せながらも、最後は成長を遂げた幽助に倒されます。その今わの際には、「他の誰かのために120%の力が出せる…それがお前達の強さ…」と幽助らに対して素直に賛辞を送るのです。
もともと戸愚呂は、格闘家としての“強さ”に対して憧れと恐れを抱いていました。50年前には、戦友・幻海(幽助の師匠)とこのような会話を交わしています。「オレは怖いんだ オレ達より強いヤツが現れることが怖いんじゃない そんな奴が現れたとき自分の肉体がおとろえていたらと思うと怖いのだ 口惜しいのだ」。
それからほどなくして、潰煉(かいれん)という妖怪が戸愚呂の目の前に現れ、弟子を皆殺しにしてしまいます。ここで戸愚呂は全てを失い、“決意”せざるを得ない境地に。その後の戸愚呂は、三か月後に開かれた暗黒武術会で潰煉に復讐を果たし、そして更なる強さを求めるがあまりに、人間から妖怪へと転生してしまったのでした。
■妖怪に転生後…戸愚呂の本当の目的とは
ちなみに、コエンマ(閻魔大王の息子)の助手は戸愚呂のその一連の行動に対し、「彼の行動は論理的に矛盾だらけです」と発言。それに対してコエンマは「たとえ優勝して敵を討っても自分自身の中で罪の意識が消えなかったのだろうな それからのヤツの人生は償いというより拷問だ 強さを求めると自分を偽って…全く不器用な男だ」と解釈しています。
また、戸愚呂が幽助に倒された直後、幽助の仲間・蔵馬はこのように推察しています。「(戸愚呂は)悪役を演じ続けてでも本当に強い者が自分を倒してくれることを待ってたような気がしてならない」。蔵馬の言う通り、圧倒的な力を手にして自身を脅かす敵がいなくなっても、“弟子を殺されても何もできなかった弱い自分”をいつか打破してくれる相手を心のどこかで探していたのでしょうか。
そうして、戸愚呂はかつて仲間だった幻海と敵対し、あげく殺してまで、強さを追求するさまを幽助に見せつけていたのです。しかし、幽助との決着がついたあと、死後辿り着く霊界にて戸愚呂と幻海が会う場面、その別れ際には「世話ばかりかけちまったな…」と人間だった頃の表情を見せるのでした。
言い換えると、格闘家として愚直で一途すぎる純然さと、自身を責める罪の意識が、ただひたすらに強さだけを追い求める“決意”をした戸愚呂という妖怪を、生み出してしまったのかもしれません。しかし、それは彼が人間として“省みず、悪びれない”生き方を選んだ結果だったのではないでしょうか……。