「ジェンダーレストイレ」わずか4カ月で廃止 新宿・歌舞伎町タワー 「安心して使えない」抗議殺到の末に

2023年8月3日 22時02分
 東京・新宿の高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」で、多様性を認める街づくりの象徴として設置された性別に関わらず使用できるトイレが改修されてなくなった。4日、男女別のトイレに変わる。
 4月の開業直後から「安心して使えない」「性犯罪の温床になる」などと抗議が殺到したためで、わずか4カ月で新たな試みが失敗に終わった。

◆男女の「専用エリア」と多目的トイレに改修

改修前の性別に関わらず利用できる「ジェンダーレストイレ」。手洗い場や順番待ちする場所は共用だった=©TOKYU KABUKICHO TOWER提供

 注目されたのは飲食店が集まる2階の個室トイレ。「ジェンダーレストイレ」の名称で性別に関係なく使える個室8室のほか、女性用2室、男性用2室、多目的トイレ1室がコの字形に並ぶ設計だった。
 東急は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「誰ひとり取り残さない」の実現を目指して、開業時に設置していた。

映画館や劇場、ホテルが入る東急歌舞伎町タワー=東京都新宿区で

 ところが、利用者の受け止めは違った。個室扉の前まで誰でも入れることや手洗い場が共用だったため、「化粧直しがしにくい」「男性に待ち伏せされたら怖い」といった声が交流サイト(SNS)で相次いだ。
 タワー側は開業5日後、警備員を巡回させるなどの防犯対策を発表。しかし懸念の声はやまず、7月下旬から女性専用エリアと男性専用エリア、多目的トイレに分割する間仕切り工事に着手した。ジェンダーレストイレはなくなり、女性用7室、男性用3室、多目的2室の計12室となった。
 東急の広報担当者は「さらに安心して快適にご利用いただけるトイレを目指して改修工事を実施した」と説明した。(三輪喜人)

 ジェンダーレス 主にファッション分野で、女性らしさや男性らしさをなくすという意味で使われてきた。ただ、言葉のイメージや使われ方は定まっていない。性別に関わらず利用できるトイレは「オールジェンダートイレ」と呼ばれることが多い。

◆子どもや介護者も…「男女別トイレだけでは困る人たちがいる」

2階トイレの改修工事を知らせる案内板=東京都新宿区で(読者提供)

 東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区)で、多様性を認める社会の実現を目指して設置された「性別に関わらず利用できるトイレ」が、批判を受けてなくなった。東急側の新たな試みの頓挫に、当事者や専門家は「もっと配慮が必要だったが、今後も設置が求められる」と指摘した。(奥野斐)
 改修前のトイレを利用したことがある都内のトランスジェンダー女性は「性の多様性に配慮した新たな形のトイレを設ける取り組み自体は良かったが、批判を受けて施設側が男女別に改修したのは残念」と話す。
 海外で「オールジェンダートイレ」と呼ばれるのが一般的だが、歌舞伎町タワーでは「ジェンダーレストイレ」と名付けた。交流サイト(SNS)では、この名称から、性別の境界を無くし、女性用トイレを減らそうとしているかのような誤解が広がった面がある。
 これが前述のトランスジェンダー女性には気掛かりだった。「必要としているのはトランスジェンダーに限らない。にもかかわらず、トイレ問題が当事者への批判に利用され、悲しい」

改修前の性別に関わらず利用できるトイレ。手洗い場や順番待ちする場所は共用だった=©TOKYU KABUKICHO TOWER提供

 誰もが使いやすいトイレのあり方を研究する金沢大の岩本健良准教授(ジェンダー学)は「多くの人が使う飲食フロアという場所や、配置などに配慮がさらに必要だった」と指摘し、「他フロアに男女別トイレがあることを案内するなど、利用者に選択肢を示すことも重要」と話す。
 障害のある子どもや高齢者の介助で異性トイレを利用しづらいなど、男女別トイレだけでは困る人たちがいる。一方、設置時に広い場所が必要となる多目的トイレは、予算面などから数が少ないのが現状だ。岩本さんは「オールジェンダートイレの設置は広い意味でバリアフリー化につながり、今後も求められる」と強調した。

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